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都心を走って90周年 東京メトロ銀座線の過去・今・未来

伊原薫鉄道ライター
渋谷駅へ進入する銀座線の車両。わずか数年前のこの光景は、既にもう見られない

 全国の主要都市で、生活の足として欠かせない存在となっている地下鉄。その日本でのルーツは、東京メトロ銀座線だ。その開業は1927(昭和2)年12月30日。つまり、まもなく90周年を迎えることになる。これを記念して、東京メトロではさまざまな記念イベントやキャンペーンが行われる一方、さらなる快適性や安全性を目指してリニューアル工事などが進行中だ。今回は、そんな銀座線にまつわる色々な話をご紹介しよう。

銀座線の最新車両・1000系。そのうち2編成はレトロ風の特別仕様となっている(写真は全て筆者撮影)
銀座線の最新車両・1000系。そのうち2編成はレトロ風の特別仕様となっている(写真は全て筆者撮影)

 先に述べた通り、銀座線が開業したのは1927年のこと。最初の開業区間は浅草〜上野間で、民間企業である東京地下鉄道株式会社によるものだった。銀座線は日本のみならず、東洋初の地下鉄というふれこみで、新しもの好きの江戸っ子たちにたちまち人気となった。その後、東京地下鉄道は徐々に路線を延ばし、1934(昭和9)年には同社の計画した浅草〜新橋間が全通した。

 一方、新橋〜渋谷間は同じく民間企業である東京高速鉄道が建設。1938(昭和13)年に青山六丁目(現・表参道)〜虎ノ門間が開業し、翌1939年1月には新橋〜渋谷間へと路線を延ばした。この時点では、新橋駅で両者の線路はつながっておらず、東京地下鉄道の駅の西側に東京高速鉄道の駅を開設。同年9月に直通運転が開始されると、東京地下鉄道の駅が使用されることになった。役目を終えた東京高速鉄道の新橋駅は、以降も留置線や業務用スペースとして活用されていて、イベントなどで公開されることもある。

 民間の2社によって整備された同線だったが、日中戦争真っただ中の1941(昭和16)年に国策によって、国と東京都、それに民間鉄道事業者の出資する特殊法人・帝都高速度交通営団(営団)が誕生。同線の運営は営団が行うこととなった(民間鉄道事業者の出資は後に解消された)。戦後の1954(昭和29)年に、銀座線に続く都内2本目の地下鉄路線として丸ノ内線が開業したのを皮切りに、1961(昭和36)年に日比谷線、1964年には東西線が開業するなど、徐々にネットワークを広げてゆく。現在の路線網となったのは、副都心線が開業した2008(平成20)年のことである。この間、2004年にはいわゆる“小泉改革”の一環として特殊法人から株式会社へと移行し、東京地下鉄株式会社が誕生。長らく親しまれた「営団地下鉄」から「東京メトロ」へと生まれ変わった。

銀座線の各駅はリニューアルの真っ最中。渋谷駅は移転を伴う大工事のため、一部区間を運休しての作業も行なわれた。写真はその時に見られた「青山一丁目行き」の列車
銀座線の各駅はリニューアルの真っ最中。渋谷駅は移転を伴う大工事のため、一部区間を運休しての作業も行なわれた。写真はその時に見られた「青山一丁目行き」の列車

 そんな銀座線だが、建設当時は関東大震災を発端とした不況の真っ最中で、建設費の捻出に大変苦労したという。その“名残”ともいえるのが三越前駅。文字通り、三越の前にあるこの駅は、三越が費用を全額負担して建設され、ホームのデザインなども三越が担当した。大理石を使った柱や地下鉄駅として日本初のエスカレーター(ドイツ・フロール社製)設置など、三越の権威をかけたその豪華な装飾は大きな話題になった一方、三越にとってみれば半永久的に名前がPRできるわけで、建設費を負担したとはいえその広告効果は絶大なものだったことだろう。ちなみに、同線では他にも松屋・明治屋・高島屋・松坂屋がそれぞれ最寄り駅である銀座・京橋・日本橋・上野広小路の建設資金を提供。ただし全額というわけではなかったようで、駅名そのものに百貨店名が採用されることはなく、各駅の副駅名として今も残っている。

 不況の影響は、これ以外にも各所に影響を及ぼした。建設費を抑えるため、トンネルの断面はできるだけ小さく、ホームも短く設計。そのため、銀座線の車両は最新の1000系でも長さ16メートル、幅2.55メートルの6両編成と他線に比べて小さく、1列車あたりの乗車定員も約600人と、副都心線の10000系(10両編成で1列車あたり約1,500人)と比べるとその差は歴然だ。東京に遅れること6年、1933年に開業した大阪市営地下鉄が、当初はたった1両編成での運行だったにもかかわらず、将来の需要増を見込んで12両編成が停まれる設備にしたのとは対照的である。

1000系特別仕様車の車内。緑色の座席や真鍮風の手すりなど、レトロ感たっぷりだ
1000系特別仕様車の車内。緑色の座席や真鍮風の手すりなど、レトロ感たっぷりだ

 現在、銀座線では1000系と呼ばれる車両が活躍している。それまで使用されていた01系の老朽化に伴って開発され、2012年4月に営業を開始。01系では銀色の車体にオレンジ色の帯が巻かれていたが、1000系は銀座線が開業した当時の車両をイメージし、全体が黄色となった。40代以上の方なら、かつて銀座線にオレンジ色の車両が走っていたのを覚えている方も多いと思うが、実はあのオレンジ色は開業時の色を受け継いだものではないのだ。ちなみに、東京メトロでは近年の新型車両は「10000系」「16000系」など5ケタの番号となっているが、この1000系だけは開業当時の車両に合わせた4ケタの番号が採用されている。

 1000系は、当初それまでの01系と同数の38編成が製造される予定だったが、後に2編成が追加されることとなり、合計40編成に。これは銀座線の各駅にホームドアを設置することになった関係で、各駅の停車時間が伸び、38編成では足りなくなるからだ。この追加の2編成は特別仕様とされ、ヘッドライトや側面の窓周りなどが、従来車両よりも旧1000系を意識したスタイルで登場。車内はさらに凝った造りで、座席や床の配色が変更され、手すりに真鍮風の塗装を施すなど、よりレトロな雰囲気となっている。吊り革も「リコ式」と呼ばれる、独特の形だ。

 この特別仕様車のもうひとつの注目点が、車内の壁に取り付けられたランプ。かつての銀座線は、ポイントの通過時などに車内が停電し、予備灯が点くようになっていた。現在は給電システムの改良などで、そのようなことはなくなっているのだが、特別仕様車ではこの予備灯が設置されていて、イベントなどの際にその時の様子を再現することができるようになっている。この12月17日には、予備灯の点灯再現などを盛り込んだ特別列車イベント「銀座線タイムスリップ」を実施。事前応募制で、残念ながら申し込みは既に終了しているが、今後のイベントにも期待したい。

特別仕様車に取り付けられた予備灯。オレンジ色の光が懐かしさを感じさせる
特別仕様車に取り付けられた予備灯。オレンジ色の光が懐かしさを感じさせる

 東京メトロでは、「銀座線タイムスリップ」以外にも地下鉄開業90周年を記念したさまざまなイベントを実施。すでに10月末からは、銀座線車両の前面に記念のロゴマークが掲出されている。また、12月1日~18日にかけて、今はなき萬世橋駅と神宮前駅の遺構をライトアップ。普段は真っ暗で見えない“幻の駅”が、期間限定で窓の外に浮かび上がる。

 さらに、銀座線の各駅はリニューアルも進行中で、開業当時の鉄骨やタイルなどを残しながら、ホームの幅を広げたりホームドアを設置するなど、より安全で利用しやすい駅へと生まれ変わりつつある。渋谷駅の移設工事も進んでおり、列車の大規模運休なども行いながら、2021年度の完成に向けて着々とその姿を変えている。

 日本初の地下鉄として、今も変わらず東京の暮らしを支えている銀座線。90周年を迎えた同線の進化は、まだまだ止まらない。

鉄道ライター

大阪府生まれ。京都大学大学院都市交通政策技術者。鉄道雑誌やwebメディアでの執筆を中心に、テレビやトークショーの出演・監修、グッズ制作やイベント企画、都市交通政策のアドバイザーなど幅広く活躍する。乗り鉄・撮り鉄・収集鉄・呑み鉄。好きなものは103系、キハ30、北千住駅の発車メロディ。トランペット吹き。著書に「関西人はなぜ阪急を別格だと思うのか」「街まで変える 鉄道のデザイン」「そうだったのか!Osaka Metro」「国鉄・私鉄・JR 廃止駅の不思議と謎」(共著)など。

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