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トランプ大統領の“I like you”は、習近平国家主席に伝わったのか?

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
習氏の背中に手を添えるトランプ氏。ボディタッチで“好き”を伝える?(写真:ロイター/アフロ)

 穏やかな笑みを湛え、習近平国家主席の背中に何度も手を添えるトランプ大統領。訪中したトランプ氏からは、習氏に対する無言の“I like you”が全身から滲み出ていた。実際それは、対中貿易赤字の責任を、アメリカの元大統領たちになすりつけるほどの“習近平Love”ぶりだった。

「私は中国を責めない。自国民のために、別の国を利用することを誰が責められようか? 中国を大称賛するよ。実際、抑えきれない貿易赤字が生じ、膨らんでしまったのは過去の(アメリカの)の政権のせいだ」

とまで言い切ったのだから。パフォーマンス上手なトランプ氏の満点パフォーマンスと言える。

 そもそも、トランプ氏は良きにつけ悪しきにつけ、情緒的アピールをするのが得意のようだ。かつてトランプ氏と仕事を共にしたある建築家がこう話してくれた。

「10年ぶりに偶然再会した時のこと、トランプ氏は大喜びして歩み寄ってきました。私のことを覚えていてくれた。しかし、仕事ではプランが気に入らないと、“こう変えたらいい”と言うこともできるのに、“ひどい、ダメだ!”と叫ばれました」

 情緒的アピールは功を奏す場合もあるが、裏目にも出る場合もある。裏目にでると、これまでトランプ氏がしてきたような“暴言”に繋がってネガティブな感情が生まれるが、“I like you”が功を奏すと良い関係作りができるのかもしれない。

安倍首相の"I like you"

 思えば、日本では、安倍首相がトランプ氏に“I like you”を必死に伝えていた。トランプ氏の大好きなハンバーガーを提供したり、「ドナルドとシンゾーは同盟をいっそう偉大にした」というロゴ入りキャップをプレゼントしたりしたのはもちろん、極めつけに、アイゼンハワー元大統領が祖父・岸元首相に教えた言葉を持ち出したほどだ。

 それは「アメリカの大統領になったら、好きではない人たちとも同じテーブルにつかなければならない。しかし、ゴルフとなったら、本当に本当に好きな人とだけしかできない」というものだ。安倍首相はトランプ氏とゴルフをしたのは今回で2度目。安倍首相はアイゼンハワー元大統領の言葉を踏まえ「二度のゴルフは、よほど好きな人としかできない」といって“I like you”を強調したのだ。

 実際、ビジネスの場では、“I like you”を伝えることは重要だ。『好かれる人は得をする!』の著者で、好感度について研究し、企業や政府機関にコンサルティングを行っているティム・サンダース氏はこう指摘する。

「好感度を高めるには、“I like you”という姿勢で相手とコミュニケートすることです。しかし、これはチャレンジでもあります。人は、会う人すべてに好ましさを感じるわけではありませんからね。だから重要なのは、好ましさを感じていなくても“I like you”というシグナルを送ること。そんなシグナルを送ることができる人は好感度が高いのです」

 しかし、送った“I like you”というシグナルが相手にどう受け止められるかはわからない。安倍首相はトランプ氏にシグナルを送ることには成功した。大量の武器を買うことも含めて。

"レイプ”から"I like you"へ。その効果は?

 トランプ氏の方はというと、習氏にシグナルを送ったものの、それが伝わったかは甚だ疑問だ。習氏はトランプ氏を前に笑顔を見せてはいたが、前の国家主席たち同様、“結局、腹の底では何を考えているのかわからない”という風情を漂わせていた。それに、習氏はトランプ氏に“偽善”を感じとったことだろう。昨年、トランプ氏は選挙戦の際に「中国は不公平な貿易をして、アメリカを“レイプ”している」と言って敵視したが、今回は、そんな強硬な態度を一転翻して、“I like you”と擦り寄る姿勢を見せたからだ。トランプ氏らしい交渉術だが、その効果のほどは疑わしい。

 結局、最重要事項である北朝鮮の非核化対策には大きな進展が見られなかった。習氏は北朝鮮問題については「国連の制裁決議については履行を続ける」とは言いながらも、解決法としては「外交と交渉を通して」というこれまでの姿勢を改めて主張したに留まった。「米中はお互いに異なる政治システムを尊重すれば、平和に共存できる」と言って、アメリカを牽制することも忘れなかった。

 もっとも、トランプ氏の方はシグナルを送ることに成功したと考えているようだ。エネルギー、民間機、スマートフォン用チップなどの分野で、28兆円を超える商談を成立させたと発表した。しかし、これはまだ本当の意味での成功とは言い難い。“CNN Money”によると、今回決まった契約の多くは、最終的に具現化されるまで何年もかかり、途中で変更したり決裂したりする可能性がある、拘束力のないものだという。また、今回署名された契約の中にはすでに購入する予定になっていて、トランプ氏の訪中まで発表を控えていたものもあるようだ。その意味で、習氏は「トランプ氏に契約という手土産を持たせてやった」という思いなのかもしれない。

 トランプ氏の習氏への“片思い”は続く。“両思い”になるには、トランプ氏は、よりいっそう“I like you”に励む必要がある。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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