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米リングで11戦全勝の秋次克真とは 井岡、ニエテスとも戦った古豪と次戦で対戦決定

杉浦大介スポーツライター
Golden Boy Media

叩き上げの日本人ボクサーが勝負の一戦へ

 「圧倒したいですね。パワーのある選手。過去にスパーリングしたことがある相手との試合は初めてなので楽しみです」

 秋次克真(あきつぎ・かつま)のそんな言葉からは、今回も強敵と対戦できる喜びが滲んだ。

 すべてアメリカでの試合で11連勝(11戦全勝(2KO))を遂げ、本場のリングで少しずつ名前を売ってきたサウスポーの次戦は12月11日。フロリダ州プラントシティにあるProBox TVイベンツセンターでアストン・パリクテ(比国)と対戦する。

 相手の名前を聞いてピンと来るボクシングファンは多いだろう。28勝(23KO)6敗1分という豊富なキャリアを誇る33歳は過去、井岡一翔、ドニー・ニエテス、ジェイソン・モロニーといった世界王者たちと対戦してきた古豪。直近の2戦は連敗しているものの、自慢の破壊力は健在のはずだ。「(スパーでは)パワーに驚いたことは覚えています。自分の嫌いなタイプのパンチの質だったのでそこだけは注意ですね」と秋次もその強打を警戒する。

 今戦は秋次がProBox TVと結んだ1年4戦契約の2戦目。初めてメインイベンターを務めた7月のヘスス・ラミレス・ルビオ(メキシコ)戦では鮮やかな9回TKO勝ちを収めた直後だけに、重要な試合といえよう。

 「ProBox TVはWBAの下部タイトルとつながっているので、それも大きいですよね。IBF世界フェザー級王者のアンジェロ・レオもProBox TVの興行から世界王者になった選手。自分もとりあえず世界ランクに入りたいです」 

 これまで多くの紆余曲折を経験してきた27歳に勝負の時が近づいている。

マグサヨ、サンタクルス、中谷潤人ともスパー経験

 日本のジム所属の選手ではないが、海外のボクシングを好んで見るマニアなら秋次の名前を何度か聴いたことがあるに違いない。ゴールデンボーイ・プロモーションズやPBCのアンダーカードで連戦連勝。ほぼすべてBサイドでの勝利だったことからも、その快進撃の価値が見えてくる。確かな技術と旺盛な手数を武器に、5、7、8、9戦目はすべて無敗の選手を撃破した秋次は“プロスペクトキラー”として名を馳せるようにもなった。

 「スパーリングも王者レベルとかなりやっていますよ。マーク・マグサヨ、ジョセフ・ディアス、アザト・ホバニシアン・・・・・・。あとはジャーボンテ・デービスと戦う前のレオ・サンタクルスともかなりやりましたね」

 ビッグネームの名前を次々と口にする秋次は、3階級制覇王者・中谷潤人と手を合わせた際の印象をこう振り返る。

 「(中谷とは)彼がアンドリュー・モロニーと戦う前にやりました。最長6ラウンドですけど、強かったですね。相手のボクシングをさせないボクシング。やり辛いし、距離(の取り方)もうまい。その時はかなり小さいリングでやったんですけど、それでも自分の望む距離にはなかなか入れなかった。これが世界なんだなと思いました」

高校を中退して16歳で渡米

 ロサンゼルスの名門ワイルドカード・ジムに本拠を置くサウスポーはこのように日常的に強敵と練習を積んでいる。「(試合よりも)スパーリングの方がきつい」と笑うが、こんな厳しいジムはもともと望んでいた場所ではあったのだろう。

 秋次がボクシングを始めたのは7歳の頃。故郷・和歌山の小さなジムで腕を磨くと、興国高校に進学し、アマチュア時代には加納陸とも3度対戦したという。しかし、当時の環境に物足りなさを感じていたという秋次は、早々と日本を離れることを決意。高校を中退すると、16歳だった2014年9月、単身でアメリカに渡った。

 「もっと強い選手と戦いたかったんです。高校時代の2人の顧問にアメリカに行きたいと言ったら、「やめとけやめとけ。おまえじゃ無理」って言われましたけど。そりゃそうですよね。僕は別に全然強くなかったので、ただの無名ボクサーがアメリカに行きたいなんて言っても・・・・・・」

Team Akitsugi
Team Akitsugi

 誰かに紹介されたわけでも、ツテを辿ったわけでもなく、押しかけるようにワイルドカードジムの門を叩いた若者の道のりが簡単ではなかったことは容易に想像できる。「最初は誰にでもボコボコにやられていました」という秋次だが、2018年にプロデビューにこぎつけた。以降は前述通り、連勝街道を走るのだから、やはりアメリカのボクシングが合っていたのかもしれない。

 ただ、力のあるマネージャー、経験豊富なトレーナーに恵まれたわけではないため、試合を定期的にこなすのは容易ではなかった。Bサイドとして臨むはずだった試合は何度もキャンセル。その厳しい状況は、2年前にカルフォルニア州のプロモーター、マーブネイションと契約しても変わらなかった。

 「マネージメントのライセンスを持っていないマネージャーと契約してしまったため、試合を組んでもらえなかったんです。地獄でしたよ。毎日、何のためにジムでトレーニングしているのかわからなかったですもん。これはもう日本に帰るしかないのかな、と思っていました」

転機になった2人との出会い

 しかし、そんな秋次のボクシング人生は今春以降、好転を始める。新たに英国人のノーマン・アリをマネージャーに迎え、4月にマーブネイションとの契約を破棄。その後、ProBox TVと契約すると、冒頭で述べた通り、7月には2年2ヶ月ぶりの試合をKOで飾った。井上尚弥のスパーリングパートナーも務めるジェフェスリー・ラミドのマネージャーでもあるノーマン・アリの傘下になって以降、ついにAサイドと呼べる立場でもリングに立つようになった。

 2021年秋に出会い、昨年結婚したアシュリー夫人のサポートも本当に大きかったという。

 「アシュリーと出会ってなかったら、もう日本に帰っていました。それくらい追い詰められていました。去年の7〜9月くらいは妻の存在が本当に大きかったです。まさかこの年で結婚するとは思ってなかったですが(笑)」

 もともと「1人でいるのが好き」という職人肌のボクサーだが、明るくフレンドリーな性格のアシュリー夫人とは気が合った。今では試合にも同行する夫人は頼もしく、「彼女は僕の人生を救ってくれた」と秋次は真顔で語る。

 ボクシングビジネスでは敏腕マネージャー、プライベートでは愛妻の支えを得て、ブランクを脱した秋次のボクシングキャリアは収穫期に入ろうとしている。ここまでアップ&ダウンを繰り返してきたが、年齢的にも最盛期を迎える時期に力を出せる体制が整いつつあるのは好材料。アメリカで鍛え上げた自身のボクシングで勝ち続ければ、きっと道は開けてくる。

これからも1試合ずつ、現実的に

 「攻撃は最大の防御という感じで、自分から手を出していきたいタイプです。手数はスパーリングのときから意識しています。スタミナには自信ありますし、試合になっていきなり手を出そうとしても、普段からやっていないとできないことですからね」

 好きなボクサーは技術と高速連打で高く評価された同じサウスポーのワシル・ロマチェンコ。ピーク時にはアメリカでも人気になったロマチェンコ同様、海外で商品価値を高めようと思えばファンにアピールする術を見つけ続けなければならない。前戦ではスキルフルなボクシングがProBox TVの解説を務めるクリス・アルジェリ、ポーリー・マリナッジといった元世界王者たちに絶賛されていただけに、今後は一戦ごとの注目度も高まるはずだ。

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 「目標は世界チャンピオンとか言わず、コツコツと1試合ずつやっていきたいです。もちろん世界王者にはなりたいですけど、その点、僕は現実的に。まずは世界ランクです」

 これまで苦労を重ねてきたがゆえに、今後の道のりも容易ではないことは熟知している。それでも厳しい日々を乗り越えてきたからこそ、自分の力を信じられる。アメリカで逞しいキャリアを築く異色の日本人ボクサーの行く手に、さらに明るい未来がうっすらと見えてきている。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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