財務省公文書改ざん事件の中核人物が衆院委員会で答弁。赤木氏に「哀悼の意」を述べるも自らの言葉で話さず
ひさしぶりに手に汗握る国会審議を見た。
4月9日に行われた衆議院総務委員会、共産党・宮本岳志議員の質疑である。
登壇したのは中村稔国税庁長官官房審議官。いまから7年前、財務省理財局総務課長として関わった財務省決裁文書改ざん事件において「中核的な役割を担っていたと認められる」と調査報告書に記されている人物だ。
改ざん発覚後の2018年8月、外務省へ出向したうえ在英大使館公使となるなど、異例の人事で日本を離れ、ほとぼりが冷めた2022年6月に財務総合政策研究所副所長として帰国してからも、事件に関して口をつぐんできた改ざんの中心人物はいったいなにを語ったのだろうか。
指名された本人でなく、理財局次長が答弁
2018年3月に発覚した財務省・公文書改ざん事件において、近畿財務局職員として応接記録の破棄、決裁文書の改ざん、情報開示請求に対する虚偽回答、会計検査院に対する検査忌避など数々の違法行為を強要された赤木俊夫さんは、精神に不調を来たし、自死するに至った。
しかし、同年6月4日に公表された財務省の調査報告書に赤木さんについての記載はなかった。また同書は改ざんが誰の指示で、いつ、どのように決定され、どう下達されたかが一切記されていないなど、国民を愚弄しているとしか思えない代物だった。
公文書改ざん事件はいまだ何ひとつ解明されていないのである。
ただし、改ざん行為の実行犯については「改ざんの方向性を決定づけた」として佐川宣寿元理財局長の名前があり、その次にもっとも重い責任があるものとして中村稔氏が挙げられていた。
この日の総務委員会での宮本議員の質問は、事件の真相を知るべく赤木俊夫さんの連れ合いである赤木雅子さんの起こしていた情報開示請求についてのものから始まった。情報公開・個人情報保護審査会は設置法により総務省に置かれているからである。そして質疑の中盤に至り、
「今日は中村稔審議官に来ていただいております。中村審議官、随分久しぶりでありますけれども、あなたはあの決裁文書の改ざん事件をどう受け止めておられるか率直に聞かせていただけますか?」
と問いかけた。
ところが、指名された中村氏ではなく、石田清理財局次長が答弁に立ち、「あなたには聞いてない、中村さんに聞いたんです」という宮本議員の言葉をさえぎり、
「森友学園案件に関するお尋ねであるため、現在国有財産行政を担当しているわたくしから財務省を代表してお答えさせていただきたい」
と述べたうえ、
「まずあの高い志と倫理観を持ち、真面目に職務に精励していた赤木俊夫さんにあらためて哀悼の誠を捧げたいと思います。またご遺族に対しては公務に起因して自死という結果に至ったことにつき、心よりお詫びを申し上げるとともに、謹んでお悔やみを申し上げます」と早口で紙を読み上げる。これまでの国会答弁で鈴木俊一財務大臣などによって繰り返されたものとほぼ同様の内容だった。
「中村さん、中村さん、おかしいじゃないか!」
宮本議員は改ざん事件での中村氏の位置づけを説明したうえ、「(調査報告書では)問題の全般について責任を免れるものではない」とされております。中村審議官、自覚はされておりますか?」
と再度答弁を求める。しかし、誰も演台に向かおうとしない。
「中村さん、中村さん、おかしいじゃないか。本人じゃないか」
声を上げると、ようやく中村審議官が登壇した。
改ざんが行われてから7年、発覚から6年が経つも、佐川宣寿元理財局長以外の行為の当事者が公の場で口を開くのはわたしの記憶する限り初めてである。
いったいなにが語られるのだろうか。思わず身を乗り出す。
しかし、中村審議官は手に持った紙を凝視しながら、
「高い志を持ち、真面目に職務に精励していた赤木俊夫さんに哀悼の意を表したいと思います。またご遺族に対しては公務に起因して自死という結果に至ったことにつき謹んでお悔やみを申し上げたいと思います。恐縮でございますが、本日は国税庁長官官房審議官の立場で出席せていただいておりますので、これ以上の答弁は差し控えさせていただきたいと思います」
と、これまでの財務省の答弁からは一ミリも踏み出すことのない公式見解を述べるにとどまった。
ちなみに「公務に起因して」という言葉が必ず挟まれるのがミソで、財務省はいまだに赤木俊夫さんが「仕事をしていて心を病み、そして亡くなった」というスタンスをまったく崩していない。
ちがうのである。
先にも述べたよう、彼は公文書改ざん行為だけでなく、応接録の廃棄、情報開示請求に対する虚偽回答、会計検査院に対する検査忌避など数々の犯罪・違法行為を強要されたために憤死したのである。
『彼女の人生を破壊させたのは、本省理財局です』
宮本議員はすかさず立ち上がり、
「よく聞いて下さいよ。これはこの本のなかに出てくる赤木さんが残した遺書の一部であります」
こう言うと、赤木雅子さん・相澤冬樹氏の著書『私は真実が知りたい』を読み上げる。
「『刑事罰、懲戒処分を受けるべき者、佐川理財局長、当時の理財局次長、中村総務課長、企画課長、田村国有財産審理室長ほか幹部』『この事実を知り、抵抗したとはいえ関わった者としての責任をどう取るか、ずっと考えてきました。事実を、公的な場所でしっかりと説明することができません。今の健康状態と体力ではこの方法をとるしかありませんでした(55才の春を迎えることができない儚さと怖さ)』『家族(もっとも大切な家内)を泣かせ、彼女の人生を破壊させたのは、本省理財局です』」
そして再度問いかけた。
「中村さん、あなたはこれを読んだんですか。読んでもなんとも思わないんですか。亡くなった赤木さんや、赤木さんのお連れ合いになんの言葉もないんですか。中村さん」
ふたたび答弁に立った中村審議官は「お答えいたします。先ほど申しましたとおり、まず職務に精励していた赤木俊夫さんには哀悼の意を表したいと思います。ご遺族に対して、公務に起因して自死という結果に至ったことについて、謹んでお悔やみ申し上げたいと思います。大変繰り返しで恐縮でございますが、本日は国税庁長官官房審議官という立場でご出席させていただいておりますので、これ以上につきましては差し控えさせていただきます」とふたたび紙を読み上げる。
予想していた答えだったとはいえ、苦い感慨がわき起こった。
赤木雅子さんの国家賠償請求訴訟や不開示決定取消請求訴訟、個人情報保護審査会への審査請求はただただ「夫が亡くなった真相を知りたい」としてなされたものである。
佐川宣寿元理財局長や中村稔国税庁長官官房審議官に改ざんを命じた人間がいる。そして、その人物の名前はわかっていない。
彼らはどうしてそこまでして真犯人を守ろうとするのか。これが官僚組織というものなのか。
日本国憲法15条第2項には「すべて公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない」とあり、国家公務員法96条は「すべて職員は、国民全体の奉仕者として、公共の利益のために勤務し」なければならないと定めている。
中村審議官には真実を語る責務がある。
だんまりを続ける限り、公文書改ざん事件の真相究明を求めるものからの追及は永遠に終わらないにもかかわらず、なぜ口をつぐみ続けるのだろうか。