松井一郎前大阪市長、カジノ業者らはIRでの損害1000億円を賠償せよ。訴訟を視野に市民が住民監査請求
昨年4月3日、格安賃料による借地権設定契約の差し止めを求め、大阪市長や大阪港湾局長相手に住民訴訟を提起した市民らのグループが、松井一郎前大阪市長、横山英幸現大阪市長、大阪港湾局長、大阪IR株式会社、鑑定評価を行った不動産鑑定業者4社とそれを実行した不動産鑑定士個人に対し、適正な賃料との差額である約1000億円超の支払いを求める第2次住民監査請求を行うことがわかった。
先の訴訟も、第1次住民監査請求が合議不調に終わったため提起されたもので、今回の請求もまた裁判へ移行することを想定しているという。
9月7日、オリックスや日本MGMリゾーツなどが出資する大阪IR株式会社は大阪府と結んだ協定のなかで、2026年9月までは違約金なしで解除できるとした権利を放棄する方向だと報じられ、その後、事業者が確認書を取り交わしたと発表。新聞には「日本初のIR、2030年秋開業へ」「令和12年秋にも開業、ほぼ確実」といった見出しが並んだ。
はたして大阪カジノは本当にスタートできるのか?
迷走する大阪・関西万博会場の真横で土壌改良工事が続く大阪IR。その行方に待ったをかける市民の動きを探る。
不動産鑑定での「奇跡の一致」。IRは考慮外
IR業者に土地を貸し付ける大阪市は、不動産鑑定業者4社に適正賃料や土地の価格の評価を依頼した。
2019年11月に出された不動産鑑定評価書のうち、3社の評価額は1平米あたり月額428円の賃料、1平米あたりの基礎価格12万円、そして4.3%の利回りまですべて同一だった。2021年3月に3社が発行した評価書でもやはり2社の数字はピッタリ一致していた。
関西のメディアは「完全に同じ数字が並ぶということなど業界の常識としてあり得ず、『奇跡の一致』だ」と一斉に報じた。
また鑑定した各社はいずれもIR事業を考慮外としていた。
不動産の鑑定評価は最有効使用、すなわち不動産の効用が最高度に発揮される可能性の最も富む使用方法を前提として算出すべきとされている。
ところが鑑定した4社はいずれも中層の大規模複合商業施設、要はイオンモールのような低層・中層の郊外型ショッピングセンターを最有効使用として判断していたのだった。IR事業を行う用地を貸し出すために鑑定を依頼したのに、予定されている高層ホテルといったIR施設が建設されることは考慮されなかったのである。
大阪メトロ延伸計画、夢洲駅開業を無視
人工島である夢洲(まいしま)には大阪メトロが延伸し、カジノなどが入る高層建物の予定地のすぐ前には「夢洲駅」が建設中だ。大阪市は9月5日、大阪・関西万博開幕の約3ヵ月前である来年1月19日に開業すると発表した。
しかし、IRの賃料を決める不動産鑑定において、真横にできる夢洲駅は考慮されていない。
一番近い駅からの距離を基本に算出されるはずの土地価格なのだが、各社の鑑定は最寄り駅をIRから3.2キロメート離れたコスモスクエア駅として算定されているのである。
地下鉄の延伸計画があることは鑑定評価書のなかにも記載されている。しかし、実現可能性が確実ではないとして夢洲駅を最寄り駅としていない。
不動産鑑定時に地下鉄延伸計画は認可済みで、すでに工事にも着手していた。また大阪メトロは民営化にあたり大阪市が100%出資しており、その株式は売却されていない。まさに大阪市の事業と言っていいにもかかわらず、賃借料の決定に際して延伸計画そのものが無視されていたのだった。
「ない」と言っていたメールからわかったこと
2023年7月、大阪市が「存在しない」と言っていた不動産鑑定をめぐるメールが198通残っていたことが明らかになった。
カジノ格安賃料差止め訴訟グループが大阪市と鑑定業者間のやりとりのメールを分析すると、大手であるA社が「カジノ事業を考慮外」として鑑定するというメールを大阪市に送ると、全く同じ内容のメールを大阪市が他の3社に鑑定条件として送信していたことが判明した。しかも、そのメールには土地価格の算定額(12万円/平米)が参考価格として記載されていたのである。その後、夢洲の土地の価格を3社が全く同じ価格(12万円/平米)、残る1社もほぼ同じ価格であると鑑定したのだった。
さらに4社がそろって夢洲駅開業を無視したカラクリも明らかになった。4社のうち2社は、当初、「地下鉄延伸、夢洲駅の開業を前提として鑑定する」と回答していたのだが、A社が「地下鉄延伸は考慮しないで鑑定する」というメールを大阪市に送信した後に、大阪市から地下鉄延伸を前提としない鑑定条件を示したメールが4社に送られた。その後の鑑定評価では、4社すべてが、最寄り駅をコスモスクエア駅として賃料を算定していたのである。
なぜ大阪市民に与えた損害が1000億円なのか?
2023年9月28日、大阪市と大阪IR株式会社は夢洲3区の事業用定期借地権設定契約を締結した。
賃貸借期間は引き渡し日から2058年4月13日まで。賃料は1平米あたり金428円で、月額2億1073万円。消費者物価スライドとなっているものの、大きく変動することがない限り、賃料の変更はないという。
カジノ格安賃料差止め訴訟を起こした市民らは、不動産鑑定士に依頼して、本来もらうべき適正な月額賃料を算出。土地はまだ引き渡しはされていないが、近々工事が始まると見込み、住民監査請求において33.5年分の差額の支払いを求めるという。総額は1000億円超になるとのことで、9月20日午後2時半から大阪市役所で行う記者会見にて正確な請求金額や算定方法を説明するという。
弁護団長の長野真一郎弁護士は、
「大阪市民の貴重な財産である夢洲をIR事業のために著しく安い賃料で賃貸することは、その適正な対価なくして貸し付けを行ってはならないという地方自治法237条2項に反する違法な財務会計上の行為にあたると考えています。カジノ計画を白紙撤回させるべく、みんなで力を合わせてがんばりたいと思っています」
と語る。
9月9日には「夢洲カジノを止める大阪府民の会」という市民団体が、IR予定地の液状化対策工事業者を随意契約で決めたのは違法だとして、大阪市長らに対し、大阪IR株式会社への土地改良費支払い差し止めと、同社が無償で使用している用地の賃料請求をするよう求める住民訴訟を大阪地裁の起こすという新たな動きもあった。
衆議院解散が取り沙汰され、参議院の任期も来年夏に迫るなか、「維新」肝いりの事業である大阪IRの行方は、関西・大阪万博の成否とともに、今後も目が離せない。