レアルがCLで決勝に進出した理由。シティ、チェルシー、パリS Gを「スペイン新王者」が撃破した意味。
本拠地で、再び、魔法がかけられた。
今季のチャンピオンズリーグで、決勝に勝ち進んだのはレアル・マドリーとリヴァプールだった。マドリーは準決勝でマンチェスター・シティ相手に劇的な逆転勝利を収め、ファイナルの舞台に臨む運びとなっている。
シティだけではない。チェルシー、パリ・サンジェルマン、決勝トーナメント進出以降、全てのチームがマドリーに逆転負けを喫している。「サンティアゴ・ベルナベウの魔法」が、マドリーの選手たちに力を与えた。
少し時を遡る。この夏、マドリーは、キリアン・エムバペを狙っていた。だが移籍金2億ユーロ(約270億円)と目されるオファーはパリSG側に断られ、期待された補強はかなわなかった。「2億ユーロのオファーでも首を縦に振らないクラブがある。国家クラブと競うのは非常に難しい」とはフロレンティーノ・ペレス会長の言葉だ。
そう、近年の欧州のフットボールシーンでは、国家クラブが台頭してきている。パリSGのバックにはカタールが、シティのバックにはアラブ首長国連邦(UAE)が事実上ついている。
オイルマネーで資金が潤うクラブだ。極端に言えば、選手売却の必要性は生じない。それはつまり、フットボールのクラブ間でのビジネスが成立しないことを意味する。オファーをかけ、移籍金の交渉をして、合意に漕ぎ着けるというプロセスそのものがなくなるためだ。
■補強に投じる資金
2012−13シーズン以降の補強費を見てみると、それは顕著だ。今季のチャンピオンズリーグで決勝トーナメントに進出したチームで、シティ(16億9900万ユーロ/約2290億円)、チェルシー(16億1400万ユーロ/約2178億円)、パリSG(14億4500万ユーロ/約1950億円)の補強費はトップ5に入る。
一方、マドリー(11億100万ユーロ/約1481億円)は、意外にも補強に資金を投じていない。2020年夏に関しては、コロナ禍であるという状況もあったが、補強費はゼロだった。
「我々がジャック(・グリーリッシュ)を獲得したのは、その前に選手の売却で60億ポンドを得ていたからだ。なので、我々は彼の獲得に40億ポンドしか費やしていない。我々は完全にルールに則っている。ウチのオーナーが、お金を失おうと思っているわけではない。だがお金を使いたいとは考えている。だから補強が可能なんだ」とはジャック・グリーリッシュ獲得に際するペップ・グアルディオラ監督のコメントだ。
「オーナーのなかには、フットボールを通じて収益を得たいと考える人がいる。だがウチのオーナーは違う。補強をして、それを収益につなげようと考えていない。数年前まで、マンチェスター・ユナイテッドがたくさんタイトルを勝ち取っていた。なぜなら、他クラブより多くのお金を使っていたからだ。それを覚えているだろうか? シティには、現在のオーナーがおらず、それができなかった」
■移籍金の高騰と戦略
大半のビッグクラブは補強に大金を投じて勝利を得る、という方向に舵を切った。
ネイマール(パリSG)、エムバペ(パリSG)、ジョアン・フェリックス(アトレティコ・マドリー)、フィリップ・コウチーニョ(バルセロナ/移籍成立時)、アントワーヌ・グリーズマン(バルセロナ/移籍成立時)、グリーリッシュ(シティ)、ロメル・ルカク(チェルシー)、クリスティアーノ・ロナウド(ユヴェントス/移籍成立時)、ウスマン・デンベレ(バルセロナ)、ポール・ポグバ(マンチェスター・ユナイテッド)…。高額な移籍金のランキングで、トップ10にマドリーの選手は存在しない。
カリム・ベンゼマ(移籍金3500万ユーロ/約47億円)、ヴィニシウス・ジュニオール(移籍金4500万ユーロ/約60億円)、ロドリゴ・ゴエス(移籍金4500万ユーロ)、彼らの移籍金の総額は、グリーリッシュのそれと、ほぼ同額である。
2021−22シーズンのリーガエスパニョーラで、マドリーは優勝を飾り、スペインの「新王者」となった。そして、チャンピオンズリーグで決勝に進出した。マドリーの近年の補強策は、ひとつ、結実したと間違いなく言える。
逆転に次ぐ、逆転。「信じられない」と欧州のメディアはこぞって書き立てた。
歴史がモノを言う。その側面はある。ただ、それ以上に、クラブのマネジメントが背景にあった事実を、忘れてはならない。