後を絶たないホストクラブのトラブル。犯罪行為は論外としてホストが置かれる雇用形態にも課題が
ホストクラブに通った主に若い女性が法外な売掛金(後述)を請求されて追い込まれ、売春などを強要されるといった被害が社会問題化しています。今年に入っても無許可営業で会社代表らが福岡県で逮捕されたり東京・歌舞伎町の店で都ぼったくり防止条例違反を適用して営業停止命令を出されたりと後を絶ちません。
この「ホスト問題」は違法行為と合法の範囲内であいまいな部分が混在しています。本稿では、まず違法行為を確認した上で、グレーな個所を詳細に検討。浮かび上がってくるのは意外にも「加害者」とみられやすいホストが置かれている雇用形態の問題です。
即刻アウトな違法行為一覧
最初に「論外」といえる明白な違法行為から。ホストクラブは風俗営業法(以下「風営法」。正式名称は「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」)で「客を接待して飲食する営業を主とする風俗産業」と位置づけられ、同法が適用されます。したがって同法違反は即刻アウト。
風営法は未成年(18歳未満)の入店を禁じています。したがって未成年を客として受け入れた時点で違法となり、当然、契約(売買など)も無効です。18歳以上20歳未満のお酒の提供も許されません。
料金を「客に見やすいように表示」していない場合も「料金表示義務違反」で違法です。そうであった場合の請求額も効力を持ちません。
店が都道府県公安委員会(実質的には警察)に営業許可を得ていなくても違法。風営法が認めない店のサービス自体もすべて無効です。
成年の客が売掛金返済に窮して、ホスト個人であれ店であれ「公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で」職業紹介などをしたら職業安定法違反となります。売春はそもそも違法だから論外。風営法上は合法である職(ソープランドやファッションマッサージなど)でも公衆道徳上有害業務と認定した裁判例があって許されないのです。
消滅時効成立後の取り立ても無効。ホストクラブの場合、原則5年と定められています。
民事訴訟での解決方法
恐喝、脅迫、暴行などをともなう取り立てや強要など刑法に触れる行為があって警察へ相談し、捜査に至れば違法行為として立件される可能性はあるにせよ、刑事上の犯罪があれば民事上の約束である売掛が取り消されるわけではありません。そうした行為によって受けた損害賠償請求の民事訴訟を起こすか、示談交渉を受け入れるなどの手続きが必要となるケースがしばしばです。
売掛のような借金の返済が滞る自体は刑事上の「罪と罰」に問われません(最初から踏み倒すつもりの場合はダメ)。民事上(もめごと解決)でも公権力によらない自力救済は原則禁止されているので度が過ぎれば不法行為です。穏便な話し合いで返してもらえない場合は裁判所を通しての支払督促や訴訟および強制執行といった公の手続きを踏まなければなりません。
現在は企業間取引がメーンの「掛売り」という商慣習
さてホストクラブでしばしば問題視される「売掛」についてです。「掛売り」の借り方を指します。貸し方は「買掛」です。井原西鶴の『世間胸算用』は年間の総清算日にあたる大晦日に売掛回収人と逃れようとする者の大攻防戦が描かれているように大昔からある商慣習。昭和の時代まで商人が借り方と金額を記した「大福帳」に基づいて月末の集金に当たっていました。
現代では企業間取引がメーンです。請求書を取引先に送って、後日に定めた期日までに請求書を受け取った企業が同金額を金融機関に振り込むなどして支払うというありふれた光景です。お互いの信用あって始めて円滑に進む方法。違法でも何でもありません。
ホストクラブの売掛はサービスの対価たる売り上げをその場で回収せずに「掛け」(客にとっての借金・ツケ)として後日の返済を約束する形です。客は「お勘定書」(簡易領収書)に金額を書き込んで後払いの約束とします。たいてい明細などは触れられていません。回収できないとホスト自身が店へ立替払いするようです。
小売りの大半が表示料金で現金取引する最大の理由とは
この時点で相当危ういとわかります。現在の小売りの大半が表示料金で現金取引している最大の理由は掛売すると後々の回収が大変面倒だから。いったん「返さない」「返せない」となったら前述のように裁判所を通すなど手間が大いにかかります。かつての大福帳商売はご近所顔見知りという前提があればこそ。
にも拘わらずホストクラブで掛売が常態化しているのは「その場での持ち合わせがないぐらいの高額」を予定し、かつ最終的に回収する手段をホスト側が持っていると推測されます。若い女性の多くが持ち合わせない金額の回収方法が公衆道徳上有害業務へ「沈める」であるケースがしばしばなので社会問題化するのです。
ホストの雇用形態が「業務委託」だから「個人間の貸し借り」成立
ではホスト側が全面的に悪いのでしょうか。ここで提起したいのがホストの雇用形態となります。
多くの店はホストを「雇用された者」でなく個人事業主と主張しているようです。「雇用された者」=正社員ではありません。パートやアルバイトなどの非正規雇用も含まれます。
個人事業主への仕事の発注の多くは「業務委託」です。うち営業行為の「請負」は業務を任せて売上のいくらか(あらかじめ定める)を報酬とすると契約します。つまり売上ゼロならば報酬もゼロ。ホストクラブの多くがうたう「完全歩合制」と一致する概念です。
もう1つの「委任」は定められた業務を実行すれば、いくらか(同)を支払う契約。売上ゼロでも報酬は発生するため、ホストクラブの実態と合いません。つまり「請負」と推察されます。
これが法的に妥当としたらホストと客の掛売は「個人間の貸し借り」。請求額に金利を乗せてなければ銀行法や貸金業法が禁じる早朝深夜や勤務先への取立などが直ちに違法ではなくなります。
とはいえそうした取立は刑法の業務妨害罪や不退去罪などに問われる危険性を内包しているのです。借り方の迷惑ばかりでなく債権回収のアマチュアに過ぎないホストが焦って刑事罰を問われる双方不幸な状況を醸成し、かつ店側は無傷で当該ホストを放逐するだけと都合のいい仕組みといえます。
請負契約で許されていない店側の指揮命令権が行使されていないか
ここで「請負」かというテーマが浮上。法的な根拠を探ると相当にグレーです。
風営法は「従業者名簿」の作成を義務づけています。対象は「客に接する業務に従事させようとする者」なので請負であっても記載されていればOK。
次に労働契約法上の「労働契約」であるかどうか。ホストがそうと認定された裁判例があるので。ここでも請負が含まれるとの解釈もなされています。
半面で実態は「雇用された者」で労働基準法などの適用を受けさせるべきとの主張も。ホストの「請負」契約を実行する場所は主に店舗。そうした形そのものは合法ながら、事実上、請負契約で許されていない店側の指揮命令権が行使されていないかという疑問です。厚生労働省東京労働局のWEBサイトによる「請負と言いながら、発注者が業務の細かい指示を労働者に出したり、出退勤・勤務時間の管理を行ったりしてい」るケース。
労働基準法が保護する「労働者」とは「使用される」者で厚労省の判断基準だと「指揮監督下の労働」を意味します。同時に「賃金を支払われる者」でなくてはいけません。
労働者性を認めて労働基準法を適用したら
仮にホストへ労働者性を認め、労働基準法を適用すべしとなれば話は大きく変わってきます。同法は賃金を全額支払わなければならないとし、立替払いでの相殺は違法です。「完全歩合制」自体も出来高払いでさえ「一定額の賃金の保障をしなければならない」と定められているので成立しません。
売掛の取りはぐれも全額を労働者の責任として経営側は何ら責任を負わないというのも多分認められないでしょう。そんな蓋然性を含んだ労働環境を用意し、働かせた責任が問われます。わざと未収金を積み重ねたならばともかく、店のルールに沿っての損害であれば店側が原因を生み出しているともみなせ、賠償責任をホストに問うのは法的に厳しいのです。
ホストに労働者性があるかどうかは個別の訴訟で判断が割れています。この問題が重大であると認識するならば立法府が何らかの法的措置を講じるべきです。
成年が作った借金は合法的回収から原則逃れられないのでご用心
最後に売掛の回収に悩んでいる客に対して。違法行為には敢然と立ち向かって警察に相談したり消費者ホットライン「188」に電話するなど身の安全を図るべきです。
ただし成年が作った借金は前述のような裁判所を介した合法的回収から原則逃れられません。途方もない高額ならば民法の公序良俗違反などで減免されるかもしれませんが、あくまで司法の判断です。自ら進んで公衆道徳上有害業務を選択して返済するところまでホストクラブの責任は問えません。くれぐれもご用心。