意外と知られていない、麻疹(はしか)のリスクとは?
麻疹(はしか)の大きな流行がはじまるリスクが高まっています[1]。
新型コロナ対策中、麻疹の患者さんは少なくなってきていましたが、その間、予防接種率が低下していました。そのため、対策解除にともなって世界的に麻疹が増加傾向にあります[2][3]。
そして現在、日本でも2回の接種が必要な麻疹ワクチン接種率は低下しています。
1回目接種も2回目接種も接種率は95%を割り込み、『いつ流行が大きくなってもおかしくない』状況です[4]。
麻疹が感染したときに、重篤な肺炎や脳炎を起こす可能性を持っていることはよく知られています。
しかし、麻疹が改善した後も『長い間、さまざまな感染症にかかりやすくなり』『長い間、現在の医学では治すことのできない脳炎のリスクを抱える』ことになることは思ったほど知られていません。
そこで今回は、それらの『麻疹が治ったと思っても長期間抱えるリスク』を簡単に解説してみたいと思います。
麻疹(はしか)に罹った後、数年間、さまざまな感染症に罹りやすくなるリスクが高まる
麻疹ウイルスは特殊な性質を持っていて、感染した数週間の間、免疫の働きを強く抑え込みます。
さらに、免疫細胞の記憶を損なう機能を発揮し、何年間も『免疫が健忘状態になる』ことが知られています[5][6]。
すなわち、麻疹以外の感染症にもかかりやすくなるということです。
たとえばオランダの研究では、麻疹に罹患した子どもは、麻疹が治ったあとも1ヶ月は4割以上、1年間は2割以上、さまざまな感染症の発症するリスクが高まることを報告しており、その影響は5年間続くとしています[7]。
このような現象は、スイスやブラジルからも報告されており、麻疹に罹った後のリスクの長期化が懸念されることになります[8][9]。
麻疹が治ったと思った数年後に発症する、現在の医療では治療法のない脳炎
英国では2013年から麻疹ワクチン接種率が低下し、麻疹を発症するひとが増えていました。
そして2017年から2019年までの3年間に、麻疹を過去発症したひとのなかから、6人の小児が麻疹後の脳炎を発症しました。
この脳炎を、SSPE(亜急性硬化性全脳炎)といいます。
現在の医療ではSSPEに対する治療方法はありません。全員が6ヶ月以内にけいれんなどを発症し、認知機能が低下したのです[10]。
SSPEの発症率は麻疹に罹患した人の数万人に1人で、たしかに多くはありませんが[11]、麻疹に感染してからSSPEを発症するまでの期間は中央値3年(範囲2-6年)と報告されており[10]、長く心配を残すことになると言えます。
麻疹は、決して軽くない感染症です。
そして、治ったと思っても、長く心配を残すことになるのです。
51歳以上のひとは予防接種が未接種の可能性、23歳~51歳の方は1回接種のみの可能性が高く、そして、もしかすると定期接種の麻疹予防接種を延期したままの方もいらっしゃるかもしれません。
数年続く感染症のリスクや、SSPEの発症を心配することのないよう、感染のリスクが高まり予防接種が不足する前に。予防接種をご検討いただくことを願っています。
参考文献
[1]はしかの流行懸念 海外から拡大か 専門医「ワクチン接種を」
(2023年6月11日アクセス)
(2023年6月11日アクセス)
[3]世界で麻疹(はしか)の患者が急増。日本でも大きな流行になるリスクが高まっています
(2023年6月11日アクセス)
[4]麻しん風しんワクチン接種状況(厚生労働省健康局健康課,国立感染症研究所感染症疫学センター)
(2023年6月11日アクセス)
[5]Immunol Rev. 2010 Jul;236:176-89.
[6]Science. 2019 Nov 1;366(6465):599-606.
[7]BMJ Open. 2018 Nov 8;8(11):e021465.
[8]Pediatr Infect Dis J. 2020 Jun;39(6):478-482.
[9]J Infect Dis. 2022 Dec 28;227(1):133-140.
[10]Pediatric infectious disease journal 2023; 42.
[11]亜急性硬化性全脳炎(SSPE)(指定難病24)(難病情報センター)
(2023年6月11日アクセス)