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飲酒運転で公園に突っ込み11人死傷 犯人は「薬物依存症カウンセラーで断酒本の著者」という闇

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
事件の翌日、NY市警に連行されるハイデン容疑者。(写真:ロイター/アフロ)

今月4日夜、ニューヨーク市内で男が飲酒運転で事故を起こし3人が死亡、8人が負傷した。

市内ではこの日、国の独立記念日を祝うため多くの人が公園でバーベキューや花火を楽しんでいた。

NBCニュースによると午後9時ごろ、ダニエル・クリストファー・ハイデン(44)は、自身が運転するトラックで歩道に乗り上げ、フェンスに激突しながらコーリアズフック公園に突っ込み、11人をはねた。2人は現場で死亡が確認され、1人は搬送先の病院で死亡した。また1人が重体で、11歳の男児含む7人が軽傷を負った。

事件後、ハイデン容疑者は薬物依存症カウンセラーであることが判明した。また自身のアルコール中毒の体験を交えた断酒本『The Sober Addict(飲酒しない中毒者の意)』(2020年)の著者(作家名:DC Hyden)であることもわかった。

本のタイトルには「依存症という機能不全疾患とうまく付き合うためのガイド本」と謳われている。またAmazonの著者プロフィールにはこのように書かれている。「依存症は治療せずに放置すると不治の病になる...。あなたの中の50%があなたを殺そうとしている。それが想像できるならこの病気と共に生きることがどんなことかわかるだろう」。(一部抜粋)

他州も含め少なくとも3度の逮捕歴があるというハイデン容疑者は、著書の中で「(アルコールの)乱用経験18年以上のプロの元中毒者」と自己紹介していた。そして「私は、薬物依存者が死ぬことなく治療の段階でさまざまな変化をうまく乗り越えられるような手引きに情熱を注いでいる」とある。また「ほとんどの中毒者は罪を犯して最終的に刑務所に入る。まるで通過儀礼のようなものだ。刑務所に行く回数が増えるほど、釈放を手伝ってくれる人が減った」とも書かれていた。

ハイデン容疑者はアルコール中毒の完治に向け、心血を注いできたことがわかる。彼は心理学と依存症カウンセリングの修士号を取得し、依存症からの回復について数年間にわたり独学でも学んできたというのだ。薬物乱用者のカウンセラーとして、 3ヵ月前から市内の薬物治療プログラムを提供する団体に勤務していた。

「彼は長年、依存症に苦しんでいた。私たちが2016年に別れた後、彼はアルコールとドラッグのカウンセラーの資格を取得。自分を向上させるために大学にも通い始めた」。容疑者との間に12歳の娘がいる元恋人はメディアに容疑者についてそう話した。

容疑者は健康にも気遣っていたようだ。自らを認定依存症回復コーチおよび認定パーソナルトレーナーと称して、登録者数3300人以上の自身のYouTubeチャンネルで依存症に関するアドバイスやジムでのトレーニング方法を発信していた。しかし投稿は9ヵ月前に止まっている。

ニューヨークポストによると、ハイデン容疑者は殺人、傷害、飲酒運転、無免許運転など8つの罪が問われている。彼は、事故を起こす1時間前にすでに酔った状態で、近くのバーに入店を断られるなどトラブルがあったという。

彼自身が薬物の恐ろしさを一番わかっていたはずだが…。

(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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