増え続ける「ヘリコプター上司」「ヘリコプター人事部」が日本企業をダメにする
「モンスター・ペアレント」ではなく、「ヘリコプター・ペアレント」という言葉があります。1990年にアメリカの医師、フォスター・クライン氏が著書「愛情とロジックのペアレンティング ―子供に責任を教える」の中でこの「ヘリコプター・ペアレント」という表現を使いました。
ヘリコプターのように、いつも子どもの周りを旋回し、何かあると空から急降下して干渉する過保護な親のことを言うそうです。過保護、過干渉であるがゆえに、子どもの成長に大きな影響を与えます。子どもが困っていると、親が代わりに学校の手続きをしたり、大学の授業に出たりします。子どもの友だちや学校関係者に無理難題を押し付けたり……と、モンスター化するケースも増えているようです。
企業にも「ヘリコプター・ペアレント」と同じような「ヘリコプター上司」がいます。頭上を旋回するヘリコプターのように部下を監視し、トラブルが起きたら急降下して、すぐさま介入する上司です。採用難の時代ですから、離職されては困ります。”親心”のつもりなのか、いらぬ手出しをし続けてしまうのです。
「見積り資料の作り方がわからない? わかった。高橋君、どうして見積り資料のマニュアルを作っておかないんだ? 新入社員が困るだろう」
「あれ? これは誰に頼まれた仕事? 生産管理部の主任に言われた? 冗談じゃない。これは生産管理部がやる仕事だ。私はちょっと文句を言ってくる」
……と、こんな過干渉を続けていれば、若い人たちの自主性や、判断能力が育っていきません。乱暴な表現かもしれませんが、新入社員は「叱られながら育つ」ものです。周囲に手厚く「おもてなし」されればされるほど、認知能力は落ち、姿勢はドンドン「受け身」になっていきます。
直属の上司ではなく、人事部そのものが「ヘリコプター化」するケースもあります。私は企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントです。営業に、お客様との接点量を爆発的に増やしてもらい、関係性を構築させ、見込み客の資産形成を促すことをメインにお手伝いしています。
私どものやり方に賛同するのは、ほとんど経営者です。営業部は、日ごろからの営業活動を根本的に変えなければならなくなるので、激しく抵抗してきます。したがって私たちがコンサルティングする際、一番はじめにやらなくてはならいのが、当事者である営業部たちの意識改革です。
市場の分析、正しい顧客戦略をしたうえで、行きやすいお客様のみならず、ポテンシャルのあるお客様に対して継続的に接点を持ち、未来の「見込み客」になってもらうために関係性を構築することはとても重要なこと。これをキチンと説明すれば、営業部の人たちは理解してくれます。
新しいことをするのに、体は抵抗しても、頭ではわかってくれるものです。
ところが、当事者の営業部ではなく、人事部が出てくる場合が最近増えています。営業活動を根本的に理解していない人は、「単純接触を繰り返すことで、お客様との人間的な繋がりができ、相手が聞く耳を持つようになってはじめて、こちらの提案にも耳を傾けてくれる」という発想がわからないのです。
「今の時代、馬鹿みたいにお客様のところへ通わせて意味があるのか? 特に若い子たちにそんなことをさせたら、すぐ会社を辞めてしまう!」
「若い子に対する指導があいまい過ぎる。誰もがわかるように、もっとマニュアルを整備してほしい」
当事者である営業の人たちが興ざめするぐらいに、部外者である人事部が乗り込んでくるとお手上げ。頭ではわかっているけれど、なかなか体が言うことをきかない。わかっちゃいるができないことを「ノウイング・ドゥイング・ギャップ」と呼びます。知っていることと、やっていることに、ギャップがある、という意味です。
この状態を抜け出すためには、無理やりにでも行動をすることです。「やればわかる」ことなのに、やる前から意味がわからない、理解できないと言う人は、体が抵抗しているだけなのだと知ることが重要です。
経験の浅い人に「やればわかる」ことを理解させるためには、やらせなければダメです。グダグダ考えていても仕方がありません。やればわかることなら、やる必要があるのです。にもかかわらず、何か新しいことをしようとするたびに上司や人事部が「新人にも意味がわかるように説明しろ」とか「マニュアルを整備しないと若い子はわからない」などと介入してくると、話が噛み合わない。話が前に進みません。
意外と本人たちは、「まずはやってみますよ」「やってみないことにはわからないので、やります」と言っているのにもかかわらず、です。
ベテランになればなるほど、わかっちゃいるけど、なかなかできない……つまり現状維持バイアスがかかるもの。経験の浅い若い人ほどバイアスはかからず、伸びしろがあるのです。手取り足取り干渉されると、育つ若者も育っていきません。
私たちが苦労するのは、部長や課長の意識改革です。若い人たちほど、意外と短い期間で意識を変え、すんなりと新しいやり方に順応します。つまり、先入観や思い込みが強くなっているベテラン上司や、現場のことを良く知らない人事部がナーバスになりすぎて、若い人たちの毎日の仕事に強く干渉する行為は「人材教育」の観点に反しているのです。放置はもちろんいけませんが、バランスが大切で、「甘やかせ過ぎ」は当然にダメなのです。
部下に強い関心を持つのは大切ですが、もっと大切なのはお客様です。事業はお客様で成り立っているのですから、その姿勢をもっとお客様に対して向けるべきです。