鳥インフルエンザ ヒトへの感染は起こるのか?
日本国内の養鶏場の鶏からH5型の鳥インフルエンザウイルスが検出される事例が相次いでいます。
家禽での広がりも公衆衛生上大きな問題ですが、ヒトへの感染は起こり得るのでしょうか?
インフルエンザの種類と宿主の関係
インフルエンザウイルスには、A、B、C、Dの4つの型があります。この中でB型とC型のインフルエンザウイルスは、一部に例外はあるものの基本的にヒトにのみ感染を起こします(D型についてはまだ分かっていないことが多いです)。
A型はウイルス表面上のヘマグルチニン(赤血球凝集素 HA:haemagglutinin)とノイラミニダーゼ(NA:neuraminidase)の違い、その組み合わせによってH7N9, H5N1など複数の亜型に分類されています。現在ヒトで流行しているのはH1N1、H3N2です。B型、C型、D型には亜型はありません。
A型インフルエンザウイルスはカモなどの水鳥が保有しているウイルスで、鳥類だけでなく、ブタやヒトなどの哺乳類にも感染を引き起こします。1918年から大流行を起こしたスペインかぜは鳥の持っていたインフルエンザウイルスH1N1がヒトに感染し適合することによって広がったと考えられています。
また、A型インフルエンザウイルスは、遺伝子の突然変異や組み換えによってその性格が変化しやすいという特徴があります。日常的に「連続変異(=小変異)」と呼ばれる変異は起こっており毎年の流行を引き起こしますが、それまでヒトの間で流行していなかった亜型のウイルスが突然出現する「不連続変異(=大変異)」が起こると、ヒトは新しいウイルスに対する免疫を持っていないため大流行が起こります。2009年にパンデミックを引き起こしたA型インフルエンザウイルス(A/H1N1pdm)はブタ由来でした。
このように、鳥や豚の持つインフルエンザウイルスが直接、あるいは遺伝子情報の再集合(2つの類似のウイルスが同じ細胞に感染した際に起こる遺伝物質の混合現象)が起こることによってヒトに大流行を起こすことがあります。
鳥インフルエンザはときどきヒトにも感染している
野鳥や家禽が持つ鳥インフルエンザは、ときどきヒトでも感染例が報告されています。ヒトへの感染例のほとんどは、感染した家禽、特に病気や死亡したニワトリとの密接な接触に関係しています。
有名なところではH5N1インフルエンザはアジアでもヒト感染例の報告が多く、これまでに800人を超える感染者が報告されており、その半分以上の方が亡くなっています。近年は世界的にもヒト感染例の報告は減ってきています。
鳥インフルエンザウイルスは渡り鳥などによって大陸を渡って広がるため、日本でも過去に鳥類からH5N1インフルエンザウイルスが検出されたことがありますが、幸いヒトでの感染事例は報告されていません。
また中国からは鳥由来のH7N9インフルエンザのヒト感染例が報告され、2013年3月以降、ヒトの感染患者は1500名を超えており600名以上の方が亡くなっています。しかし、2018年以降はほとんど報告されなくなっており、これは中国での家禽類へのワクチン接種が有効だったのではないかと言われています。
現在、日本や世界中で広がっている鳥インフルエンザH5N8はヒトにも感染するのか?
2020年に入り、日本国内でも養鶏場のニワトリから鳥インフルエンザウイルスが検出される事例が増えています。
12月19日現在、12の県の合わせて30の養鶏場から鳥インフルエンザウイルスが検出されているとのことです。
現在国内で検出されている鳥インフルエンザウイルスはH5N8という亜型であり、ヨーロッパでも鳥での報告例が相次いでいます。
ではこのH5N8鳥インフルエンザウイルスはH5N1やH7N9のようにヒトにも感染することがあるのでしょうか?
現時点でこのH5N8鳥インフルエンザウイルスに感染したヒトの事例は報告されておらず、世界保健機関(WHO)はヒトが感染するリスクは低いとしていますが、同じ「2.3.4.4」というClade(生物分岐群)に属するH5N6鳥インフルエンザでは2014年以降14人のヒト感染例が発生しており6人が死亡していることから、引き続き警戒すべきとしています。
ということで、現時点ではH5N8鳥インフルエンザウイルスからヒトへの感染を過度に心配する必要はなさそうですが、
・病気や死亡した鳥類(ニワトリや野鳥)との接触を避ける
・こまめに手洗いをする
ようにしましょう。