コロナ禍を乗り越えた少人数アイドルグループの胆力~4年ぶり声出し解禁のフェスTIFにて~
“世界最大のアイドルフェス”を謳う「TOKYO IDOL FESTIVAL」が、14年目となる今年も8月4~6日にお台場・青海周辺エリアで開催された。コロナ禍で制限されていた声出しやジャンプを4年ぶりに解禁。アイドルの祭典ならではの盛り上がりが戻ってきた。
この4年の間に解散したグループは少なくない。一方、出演アイドル数はコロナ前の2019年より多い233組となり、新進グループが目についた。そんな中、トップではないにせよシーンに踏み留まってきた少人数のグループが、底力を見せていた。
ブームの収束からの追い打ちで解散が続く
「TOKYO IDOL FESTIVAL(TIF)」は、アイドル戦国時代と呼ばれていた2010年に初開催。大ブームを起こしたAKB48の対抗馬的な存在だった、フジテレビ発のアイドリング!!!のプロデューサーが主導し、初のアイドルに特化した大規模な音楽フェスとなった。複数の会場で数々のライブが同時並行で行われる、ロックフェスのスタイルを模したものだ。
第1回の参加アイドルは45組。第2回以降、ハロー!プロジェクト、AKB48グループ、坂道グループも徐々に参入して、2016年には301組に。来場者数も2019年には3日間で8万8000人に達した。
だが、翌2020年にはコロナ禍でオンライン開催に。2021年は来場者のマスク着用、入場時の検温、声出し禁止などの感染防止対策を取って開かれた。
アイドルブーム自体、2010年代半ばにはピークを過ぎて、TIFのホスト役だったアイドリング!!!を始め、解散するグループが相次いだ。そこにコロナ禍が追い打ちを掛けた。
2020年に解散したのは、ハロー!プロジェクトのこぶしファクトリー、老舗のサンミュージックが21年ぶりに手掛けたアイドルのさんみゅ~、ももいろクローバーZの系譜のスターダストプラネットのはちみつロケットなど。
2021年も、大手のアミューズが成長期限定ユニットとして売り出したさくら学院、篠原涼子らが在籍した伝説的グループの名を継いだ東京パフォーマンスドール、スターダストの関西組のたこやきレインボーらが幕を下ろしている。
超メジャーと新進グループの間の空洞
昨年もテレビ朝日発のラストアイドル、オリコン1位も獲得した26時のマスカレイド、TIFで全国のアイドルファンに名を知られた大阪☆春夏秋冬らが解散。
今年に入ってからも、アイドルの枠を超越したBiSHが東京ドームで華々しくラストライブを行った。アクターズスクール広島でPerfumeの後輩のまなみのりさ、TIFに第2回から参加していた愛乙女☆DOLLも、10年以上に渡る活動に終止符を打っている。(なお、便宜上“解散”で括ったが、“全員卒業”としていたり、グループは残してメンバーを総入れ替えしたケースもある)
それでも新しいグループが次々と生まれてくるのは、アイドルが文化として根付いた証。ブームが過ぎても残った功績だ。
しかし、たとえばコロナ禍の前に離れていたアイドルファンが、久々に今回のTIFを観に来たとしたら、AKB48グループや日向坂46以外に知っているグループを見つけるのは、ひと苦労だっただろう。超メジャーなグループと新進グループの間が空洞気味になった感がある。
2015年から結成メンバーで続くわーすた
ラストアイドルなどは解散理由に「コロナ禍で思うような活動ができず」としていたが、グループによって、メンバーの年齢など事情は様々だろう。
それでも、コロナ禍がアイドルに及ぼした影響はやはり大きい。ライブができなくなったのはどのアーティストも同じとはいえ、握手会などのイベントでCDの複数買いを煽る、アイドル特有のビジネスモデルが成立しなくなった。
オンラインお話し会などに移行したが、物足りなさを感じるファンは離れていく。AKB48でさえ、シングルリリースは2020年3月から2021年9月まで、1年半空いた。少人数でアイドル界での後ろ盾が弱いグループとなれば、未来が見通せず、メンバーがモチベーションを保つのも容易ではなかっただろう。
そんな中、今年で結成8周年を迎えたのがわーすただ。エイベックス初のアイドルレーベル「iDOL Street」の第4弾として、2016年にメジャーデビューしている。
このレーベルでも第2弾のCheeky Parade、第3弾のGEMはすでに解散。第1弾のSUPER☆GiRLSはメンバーの卒業と加入を繰り返し、もうオリジナルメンバーはいない。現リーダーで3期生の阿部夢梨も今年末での卒業を発表している。ハロー!プロジェクトを模したストリート生(デビュー候補生)の制度もなくなった。
わーすたは当時のスト生の精鋭5人の中・高生メンバーで結成。1人が2021年末に卒業したが、他は変わらない布陣のまま活動を続けている。全員ルックスも強いが、最大の武器は廣川奈々聖と三品瑠香のツインボーカル。
アイドル界屈指の歌唱力を持つ二枚看板のうえ、その持ち味が対照的なのだ。胸をくすぐり安定感も高い廣川と、クールでカッコよく飛ばす三品。いわば大砲とレーザービームを揃えているようで、その色合いの違うボーカルが交錯して楽曲に豊かなグラデーションを付ける魅力は、当初から光っていた。
かわいさの中でキャリア10年の風格
コロナ禍にあっては、2020年3月の初のLINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)でのライブがチケット完売ながら無観客になったりと、例に漏れず多大な影響を受けた。2022年から4人体制で再スタートを切っている。
今年のTIFでは、初日にHEAT GARAGE(Zepp DiverCity)でのステージを観た。デビュー当時から同じSEに乗って登場。まだ24歳と22歳が2人ずつだが、スト生からのアイドル歴は10年。トレードマークの猫耳姿はかわいくも、並びの若手グループにはない風格を醸し出す。
1曲目は軽快なアップチューンの『KIRA KIRAホログラム』。廣川と三品のボーカル力はこの1年ほどでさらに向上し、バリエーションを広げて明るさの中に響く。アイドルのライブでは、かわいいし楽しくても、歌が流れた途端にカクンとなることも少なくないが、わーすたは歌でさらに引き込む。
しかも、表立って実力派などと打ち出すのでなく、いかにもアイドルらしい見た目の彼女たちが、さり気なくハイレベルなパフォーマンスを繰り出すのがいい。
イベントが減った間にアップグレードした力強さ
おもちゃ箱的ににぎやかな『ミラクルマジカルヘルシーパワー』から、新曲のロックチューン『メロメロ!ラヴロック』はスリリングでシビれる。間奏では松田美里と小玉梨々華のキレの良いソロダンスも目を引いた。
一転、『空とサカナ』ではゆらゆらした幻想感を漂わせ、骨太ポップの『清濁あわせていただくにゃー』はステージを右へ左へと走りつつ、三品がシャウト。そこに廣川が豊かな声量でシャクリも絡めて、わーすたの強みがフルで発揮された。
ラストはオシャレなフレンチテイストの『マッシュ・ド・アート』。跳ねたリズムに速い節回しと難易度は高いはずだが、わーすたは軽やかに歌いこなして楽しさを溢れさせた。
ここ数年の取材で、コロナ禍でイベントなどが減った分、レッスンに改めて力を入れていることを話していたが、この日の25分のステージでも、バラエティ豊かな6曲にそれぞれの味わいを見せながら、全体的に力強さが増していて。エンジンを排気量の高いものにアップグレードしたかのようだった。
危機下でも続けることで培われるもの
それもこれも、コロナ禍にも歩みを止めなかったからこそ。アイドル戦国時代のいわば戦後に生まれ、パンデミックの世界的危機も乗り越えて、今もアイドル界で生き抜く希少な少人数グループのわーすた。ここ数年にデビューした新進グループにはない、胆力のようなものが培われていた。
同じようなことを、ukka、Task have Fun、真っ白なキャンバスといったグループのステージでも感じた。
そんなわーすたでもまだブレイクに至ってはいないが、TIF後の8月12日に行った生バンドライブでは、日本武道館を目指すことも宣言した。とにかく何より続けること。浮き沈みはあっても、持ちこたえた先に光は見えてくるはず。そんなことも思わせた。
そして、TIFというフェス自体もそうあってほしい。去年の来場者は3万人、オンライン視聴は2万5000人。今年は来場者が7万500人と持ち直した。事業として、どんな収益になっているのかは知らないが、アイドルフェスの草分けとして、この年に一度の空間を継続する意義はかけがえがない。