輸血拒否による被害実態が明らかに 信者である両親は優しかった でも教団が家族の絆を引き裂いた(後編)
11月20日に立憲民主党の国対ヒアリングが開かれて、元エホバの証人の2世、3世らが、涙をこらえ、怒りをにじませながら、輸血拒否が行われている過酷な事態を赤裸々に語りました。後編です。
心臓の真ん中部分に大きな穴が開いていても、輸血拒否で手術できず
エホバの証人問題支援弁護団の田中広太郎弁護士が、お二人目として紹介するのは、エホバの証人3世のナオトさんです。
「彼は現在20歳で、18歳になるまで、約8年にわたり、すぐに受けるべき手術ができずに、信者である両親のもとで過ごしました」(田中弁護士)
ナオトさんは「10歳の時に学校の検診がきっかけで、心臓の真ん中部分に大きな穴が開いていることがわかり、大きな病院で検査を受け、すぐに手術をした方がいいと言われました。それでも両親は(教義における)輸血拒否を理由に、僕が手術を受けることを拒否しました。最初の頃には、エホバの証人の医療機関連絡委員という幹部が両親ともに、僕の意見は一切聞かずに『輸血は拒否しないといけない』と(医師に)説明していました」といいます。
そのことは、当時の病院のカルテにもはっきり書かれているといいます。
「お医者さんからは心臓の穴が大きいこと、すぐに手術をした方がよいことを説明してくれましたが、両親が輸血拒否をしたため、約8年間も手術を受けることはできませんでした。当時は、年に一回の病院の検査から帰るたびに、私は鞭をされました」
その理由は「どうして自分の口から輸血拒否をすると、お医者さんにはっきり伝えないんだ」ということです。
「宗教の教えのせいで親から手術を拒否され、命が危険な状況になっているのに、さらに鞭をされることで、どれほど絶望的な気持ちになったか想像していただけると思います。心臓の病気のせいで高校卒業まで、体育の時間には自分だけ走ることもできず、毎日の生活の中でとても苦しい思いをしました」
成人年齢18歳になった時に、自分の意思で手術を受ける
しかしナオトさんは、成人年齢18歳になった時に、自分の意思で手術を受けることを決意します。
「それでも、父親は輸血の承諾書の立ち会い人の覧に、最後までサインをしませんでした。それをみかねた看護師さんが代わりに立ち会いのサインをしてくれました。自分は両親が輸血を拒否したのは、エホバの証人からの強制があったこと、この宗教からの恐怖心があったこと、それが理由だと絶対に言い切れます」
彼は父親のもとを調べたことがあり、教団から受け取った「輸血は拒否するように」という書籍や雑誌の中にびっしり線を引かれているのをみます。
「衝撃だったのは『子どもの輸血を拒否するように』とはっきり指示が書かれているものもあったことです。その書類にはS55という番号がありました。あまりにショックでした」
当時、ナオトさんの母は重い病気にかかっていて、余命があまりない状態でした。
「母は自分や僕が死んでもハルマゲドンの後に復活して再会できる。もし僕が輸血を受けたら『自分が死んだ後に復活しても僕と再会できない』と本気で信じていて、危機迫るような感じで、輸血拒否を口にしない私に鞭をしてきました。母が僕を失いたくないという恐怖心は、すごく強かったのではと思っています」
本当は優しい父と母
その後、母親は病気で亡くなります。
「いつもの父は、とても優しい人でした。しかし、この宗教からの指示による輸血拒否についてだけは、絶対に譲りませんでした。母もこの宗教の信仰があったので僕を失いたくないという思いから輸血を拒否し、鞭を続けたのだと思います。僕たち家族を苦しめたのはエホバの証人の教団だと確信しています」
ナオトさんは、自分の命の危険にさらし続けた両親との関係にはずっと悩んできましたが、今は次のように考えています。
「本当は優しい親たちです。僕たち家族を苦しめたのはエホバの証人の教団だと確信しています。家族の関係を破壊したのは教団です。このことを僕は一生許すつもりはありません。母は僕が手術を受ける前に病気で亡くなりましたが、死ぬ時まで輸血拒否への強制は変わりませんでした。母との関係を取り戻すことが、永久にできなくなったことも、絶対に許せません。これまでの僕の人生はすべてエホバの証人の教えのせいで本当に辛いものでした。僕は今まで一度もエホバの証人の教えが正しいと思ったことはありません。一度もです」
まったく信じていない宗教を強制されてきた苦しみを乗り越えて、ナオトさんは前をむいて次のように話します。
「これは2年前に自分の身に起きていたことです。それを考えると、同じように教団の教えのせいで、命を危険にさらされて、苦しんでいる子供もたくさんいると思います。教団の外にいる人たちが、そういう子供たちに目を向けて、助けの手を差し伸べてほしい」と強く訴えます。
本来、幸福で穏やかであった家庭を宗教が確実に破壊した
田中弁護士は「民法改正がなされて成人にならなければ、今もどうなっていたかわからない状況です。8年もの間、毎年病院に行って、心臓の手術が必要と言われても受けることができず、帰ったその日に鞭をされる。最初は、どんな家庭なのだろうと思っていたわけですけれども、彼から話を聞くと、お父さんは優しい人だった。お母さんに関しては、自分が死ぬ状況なので、彼のことを失いたくないと思いから鞭をしていたということです。本来であれば、幸福で穏やかであった家庭をこの宗教が確実に破壊した。決して特異な例ではありません。こうした事実にぜひとも目を向けていただきたい」と話します。
ナオトさんは、周りの人たちから「必ず自分の人生を取り戻せる」と励ましや支えてを得て、20歳になった今、将来に目を向けて、自分の人生を自らの足で歩み始めています。
児童虐待のトリガーを引かせているのは、教団の教え、指導
前編では、輸血拒否の指導をする立場だった根尾さんの話があり、上からの輸血拒否の指導を両親が受けて、医療ネグレクトを長年受け続けてきたのがナオトさんです。お二人の勇気ある証言から、輸血拒否による実態が見えてきています。
安倍元首相の銃撃事件をきっかけに、旧統一教会の問題が明らかになり、宗教2世の問題もクローズアップされました。
お二人の証言からもわかるように、表面上は親が虐待をしているようにみえるかもしれません。しかしカルト思想を持つ団体においては、児童虐待のトリガーを引かせているのは、教団の教え、指導があるわけです。つまりこれは組織による児童虐待の行為といえます。
今も苦しみ続ける子供たちのために、国が、社会がどのような手を差し伸べることができるのか。しっかりと被害者の声を聞き、真剣に考えていかなければならない時をむかえています。