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輸血拒否による被害実態が明らかに 信者である両親は優しかった でも教団が家族の絆を引き裂いた(前編)

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
筆者撮影

11月20日に立憲民主党の国対ヒアリングが開かれて、元エホバの証人の2世、3世らが、涙をこらえ、怒りをにじませながら、輸血拒否が行われている過酷な事態を赤裸々に語りました。

前編と後編にわけて、お二人の実体験をお伝えします。

エホバの証人問題支援弁護団の田中広太郎弁護士は「本日、勇気を持って証言をしてくださる、お二人がきてくださいました。お一人目は根尾啓太さん(仮名)です。彼は教団側の幹部だった方で、エホバの証人の中では長老は特別な幹部ですが、その長老たちに対して指示をしたり、教える側にいた方でいらっしゃいます。エホバの証人は大規模な大会というものを重視しますけれども、その地域大会で講話をしていた方です。しかも、彼は医療機関連絡委員会という輸血に関する教育を行う部署におり、日本においてその経験を話してくださるのは、初めてで重要なこと」と話します。

医療機関連絡委員には、医療行為に携わった人がいなかった

根尾さんによると、医療機関連絡委員は「エホバの証人の幹部である長老たちの中でも、ごく少数の長老たちが任命されて、輸血拒否、それに関連する活動を専門的に行う組織」のことで「信者が輸血に関わる状況になったり、妊娠がわかった時には、個々の信者が直接、その組織に連絡を取るようにと強く勧められている」といいます。

驚くことに、同委員のほぼ全員が医療の専門知識のない人だったというのです。

「私について言えば、医学を学び、医学関係の仕事をしていたわけでもなく、専門知識は全くありませんでした。とにかく教団から与えられる資料を頭に入れ、この活動をしていました。そうした医学の素人が集められていた」と証言します。

彼のところには十数人の委員がいましたが「医療事務をしている人が一人いただけで、それ以外はビルメンテナンスやクリーニングサービス、プログラマーエンジニアなどだった」といいます。

医療行為には携わったことのない人たちが、組織の指示を受けて信者らに指導している。それを聞いただけで、いかに危うい状況で信者らが輸血拒否の指導や、無輸血での手術を勧められているのかがわかります。

輸血拒否をしたために、わずか数日で死亡したケースも

根尾さんは「現実は、本当にひどいものだった」といいます。

「私が知っている中にも『内臓が潰されながらも、両親の輸血拒否によって治療ができなくて、数ヶ月の間、苦しみを強いられた幼い子供』『体に痛みを覚えて、すぐに規模の大きな病院に転院しながらも、輸血拒否をしたために、わずか数日で死亡したケース』さらには『妊婦さんが大量出血して輸血拒否をしたために母子共に亡くなる』『乳児が重篤な出血に陥り、信者である親が到着する前に医師が強制的に輸血をしてくれたので、からくも命が助けられた』というケースもありました。これは日々起きている現実なのです」

こうした状況に根尾さんは「私にとっては言いつくせぬ大きな後悔があります。しかし、エホバの証人内部で(2世として)育ち、この宗教以外の情報を遮断されていた自分には、他の人生の選択肢がなかったとも感じますし、今はこのような事実を皆さんにお知らせする責務があると考えて……発言させていただいております」と涙をこらえながら話をします。

彼自身2世という立場です。ほぼ教団の教えだけにしか接することしかできず、社会との交わりを隔絶される立場で育ってきました。その信仰の篤さからでしょう。医療機関連絡委員という責務まで与えられています。

教団への矛盾を口にすると、家族との関係が絶たれる

さらに彼に追い打ちをかけたのが、忌避(一切の関係を断ち切られ、破門された信者との交流を一切、避けること)だといいます。

「私は温かい家庭に育ちまして、両親や二人の妹を愛してきました。そしてエホバの証人の信者として、全てを犠牲にして信仰の道を生きてきましたが、やがて教団の矛盾や偽善に気づくようになりました。そのことを他の長老や巡回監督と呼ばれる幹部信者に問いただしたことが一度だけありました。すると彼らは豹変して私に極めて厳しい質問を行う委員会を設け、私はエホバの証人から排斥、つまり破門されました」

彼が犯した罪は「教団への反抗」だったそうです。その後、彼に待ち受けていたのは過酷な日々でした。

「互いに深く愛し合っていた大事な家族とはその日以降、一切の交流ができなくなりました。何とか家族と言葉を交わそうと、実家を訪ねましたが、親たちは不審な危険な人物が訪ねてきていると警察に通報することもありました。家族との断絶状態は10年以上続いていて、一縷の希望もない状況です」と言葉を詰まらせます。

「社会からの断絶によって教育の機会の喪失などに苦しみ、輸血拒否による虐待、死亡事案さえも起こっています。問題の深刻さを、ぜひ皆さんに知っていただきたい」と最後に話します。

前出の田中弁護士は「おかしいのではないかと声をあげたところ、すぐに排斥されてしまって、仲の良かったご家族と10年以上も連絡がとれない。完全に遮断されてしまっている。これは教団の本質を極めて強く示すものである」と指摘します。

根尾さんは幹部という立場で、輸血拒否をした結果、亡くなるといった、信者らの苦悩を間近でみてきています。教団を離れた今、どれほどの強い後悔が心を覆っているかと思います。何より教団の教えにより、自らの家族が引き裂かれている現状に直面している。そうした苦しい状況のなか、公の場で勇気をもって証言をしてくれています。

それにより、これまでブラックボックスであったエホバの証人内で何が起きているのかを、私たちは知ることができています。そして、輸血拒否による児童虐待などに対して、私たちが何をなすべきかの道もみえてきます。彼の勇気ある行動には、本当に感謝の念しかありません。(続く)

輸血拒否による被害実態が明らかに 信者である両親は優しかった でも教団が家族の絆を引き裂いた(後編)

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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