「日本は謙虚に」 静かだった文在寅大統領任期”最後”の対日発言 2週間前「反日の先鋒」が失脚していた
ウクライナ情勢を意識してか、「平和」という言葉が14回。
それを上回り、「日本(イルボン)」は15回。
19分54秒のスピーチのなかでそれぞれ登場した。
韓国の文在寅大統領が日本統治下での独立運動の記念日「3.1節(日本では三一節とも)」の記念式典に寄せた内容のことだ。
全般的には”静か”な内容だった。
日本のメディアでも紹介された「日本は歴史に対して謙虚であるべき」というくだりはこういったものだ。
2021年の同記念行事の際には「日本は歴史を直視せよ」という言葉が飛び出したことを考えると、じつに穏やかだ。
2週間前に”反日の先鋒”が”失脚”
「静かな内容」の背景には、任期があと2ヶ月あまりを残すのみという事情があるだろう。ここでアクセルを踏んでも仕方がない。後任者を決める大統領選挙が8日後に迫っており、自分の発言から相手陣営に余計なツッコミを許すことも避けたいところだ。
もう一つ、この日の式典にはある「事情」があった。例年、ここに招待されるあるポストが欠席したのだ。
「光復会会長」
その座には今年の2月16日までキム・ウォヌン氏(77歳)がいた。
キム元会長は元国会議員でもあり、1992年に初当選後3期これを務めた。議員引退後、地方での生活を送っていた2019年に、光復会会長に就任。同会は日本統治下における独立運動の殉死者の遺族の権利を護ることが目的の一般社団法人だ。自身は両親が中国で独立運動を繰り広げたため資格があり、会員選挙に出馬して当選した。
例年、光復会会長はこの日の「3.1節」と「光復節(8月15日、日本からの解放記念日)」に招かれ、スピーチする機会がある。キム氏は2020年以降、その際の発言が度々問題視されてきた。国内の保守層を「親日派」として強く非難。公の場にふさわしくないとされてきたのだ。その内容は”強気”そのもの。
なぜ今年は欠席したのかというと… 会長を辞めざるを得なかったのだ。会は3月1日の式典までに新会長を定められず、騒動を「対国民謝罪」というかたちで発表していた。
キム前会長辞任の直接のきっかけは1月26日の「朝鮮日報」系のメディアの報道だった。会が国会内の敷地で運営するカフェの収益500万円相当を横領。この点を反感を持つ会員にリークされた。
(TV朝鮮によるスクープ)
すると2月16日に会長を辞任。それも会員から不信任案を出されることを察しての行動だった。疑惑は否定しつつ「騒動を起こした責任」として。事実上の失脚だ。
辞任直前の15日、国内最高権威の経済紙「毎日経済」系列の週刊誌局長が、コラムでこう記した。
「政府の先鋒」とは、キム氏に関していうと「公の場での演説内容を放任していた」という点だろう。政府主催の公式式典のスピーチ原稿を、政府側と本人がすり合わせない。本人は「誰が見せるのか?」と言い放っていたほどだ。
記事はこう続ける。
「朝鮮日報」などはこの「マッサージ」には性的サービスを提供するものも含まれており、この業態の店に6度通ったと報じている。
文在寅時代の反日は”崩壊”という面があったのだ。この日、演説で強く出たところで即座に保守陣営から「キム・ウォヌン問題」をツッコまれるのは目に見えている。
(かつてのスピーチでの内容を問題視されるキム前会長)
この5年間の反日 「親日狩り」が台頭
筆者自身、この5年間韓国社会をウォッチングしてきて、この国の「左派の強い民族主義(つまり反日)」をかなり目にしてきた。
理論が突っ走りすぎたという面は否めない。
- 文在寅大統領自身もかつて関わった、1970年代、80年代の民主化市民運動がルーツ。
- 自分たち市民こそが主体、という考えが強い。
- 既得権益や帝国主義を忌み嫌う。長らく自国を支配してきた「保守」がまずは大きな敵。
- その背後にいる「日本」も然り。
この政権の5年間で(因果関係はさておき結果として)、「徴用工」「慰安婦」の韓国内での新たな判決、日本側による「ホワイト国除外」、韓国側による「韓日貿易戦争」「NO JAPAN(不買)運動」などが起きた。
日本側とすれば「じっとしていたのに、何か急に韓国が騒ぎ出した」という印象だろう。よく分からない。「関係改善」という言葉が韓国側から度々出てくるが、これが出てくるたびにドン引き。そっちが荒らしといて、そっちが仲直り? と。いっぽう日本側も安倍サンとその影響下の方々は「突っぱねる」「裁判スルー」というやり方よりも、もっと言い返すことをすればいいと思うのだが。
いっぽうでこの時代の反日は、韓国側でも「内部崩壊」という面を見せてしまった。「先鋒」とされたキム・ウォヌン氏はより先鋭化されたロジックで「反日」を繰り広げてきたのだった。
- 日本統治下で日本の支配層と結託し、当時の朝鮮人を苦しめた「親日派」が問題。自国人のことを指す。
- この層が、日本からの解放後も韓国内で「保守派」として権力や既得権益を握り、好き放題にやってきた。
- 結果として韓国社会は腐敗した。親日派は韓国社会の「積弊(せきはい=積み重なったチリ、ゴミ)」。だから「清算」しなければならない。
- この「積弊清算」こそが、韓国社会を正常化する第一歩。
反日のなかにも、「克日」「嫌日」「侮日」といった様々な”ジャンル”があるなか、「親日狩り」という分類だ。廬武鉉政権時代に登場し、この5年間に台頭した”新潮流”だった。まずは第一に「日本統治下において日本と密接な関係にあった自国人」「その子孫」を責めるものだから、日本からどうこう言えない部分もあるが。
彼の主張はきっと、韓国社会の中で誰かが言わなくてはならないことなのだろう。
しかしやりすぎた。
何せ、国内でも反感を買っているのだ。キム前会長が自ら辞任した背景には「会員の中の保守派からの猛反発」があった。時に会事務所のある建物に乱入して、「キム・ウォヌン側」のスタッフに向けて汚物を投げつける事件まで起きた。
(乱入事件を報じるYTN)
キム前会長自身も、会長職を手にした途端、そこにあぐらをかいてしまった。思想の発端は「権力に反対する市民運動」だったはずなのに。2月25日に実妹から「やたらと権力好き」とメディアに暴露されてしまった。普段から「自分は長男だから、特別扱いされるべき」といった発言を繰り返し、妹は嫌気が指していたのだという。
どんな時代でも、人を支配したり、傷つけることは間違いだ。しかしこの5年間の韓国の文在寅影響下の人たちの日本に対する姿勢は、一方の当事者たる日本側にとっても度が過ぎ、逆に伝わりにくい面があった。次の政権ではどんな出来事があるだろうか。選挙日まであと1週間、保革陣営は歴史的な接戦を繰り広げている。