「伊達直人」と人助けと子どもの心:実名顔出し大成功を心理学から
恥ずかしがり屋の日本人に、この活動は良いかも。だって本当はみんなタイガーマスクになりたかったから。
■「伊達直人」さんが初めて正体を明かす
「伊達直人」の名前で養護施設の子ども達などににランドセルを送り、後の「タイガーマスク運動」「タイガーマスク基金」のきっかけを作った男性が、初めてマスコミに登場しました。
せっかく盛り上がった運動が、ここのところ下火になり、もう一度運動を盛り上げたいという意図があったようです。プロレス会場からのメッセージは、多くの人々に感銘を与えました。
実名と顔を出すことは、多くのリスクを伴いますが、今回は成功だったように思えます。
■人助けの心理学
人は、自分の利益になることをしますが、それだけではありません。他の人々のためになる「愛他的行動」「援助行動」を行います。これは、他の動物にも見られることで、集団で生きる生き物に備わっている行動です。
さらに、ポジティブ心理学の研究によれば、親切行動を続けている人は、幸福感が高まります。人は、他の人を助けるようにできているのです。
私達は、本心では人助けをしたいし、できることならタイガーマスク(伊達直人)のようになりたいのです。しかし、なかなかそのチャンスがなかったり、恥ずかしかったりして実行できないことも多いでしょう。
■人助け行動にブレーキをかけるもの
人助けをしたいと願ってはいるものの、いつどのようにしたら良いのかがわからないと、行動できません。
社会心理学の研究によれば、援助行動の実行には次のステップが必用です。
何かが起きていると気づく→助けが必要な事態だと判断する→私に助ける責任があると考える→助けるための具体的方法を思いつく→その方法のコスト(手間や時間、危険性など)が一定範囲内だと計算する→援助行動の実行。
このステップのどこかでつまづけば、援助行動にブレーキがかかってしまいます。
さらに困っている人に共感できたり、自分の行動が本当に人助けになっている実感があったほうが、援助行動は出やすいでしょう。
また、みんなが行動していないとき自分だけ行動することは、かなり大きな心理的負担です。特に寄付行動が社会的に根付いていない日本では、そうでしょう。
良いことをしているのに、「売名」などと非難されることもしばしばです。人々は、善行に対して完璧を求める事があります(実際にボランティア等をしていない人に多いと思いますが)。小さな問題を指摘して人格攻撃をしたり、その運動自体を否定する人もいます。
良いことをして表彰され報道された人のところへ、多くの批判電話がかかってくるようなことも、珍しくはありません。
こうなってしまえば、善行にもブレーキがかかりますが、ではタイガーマスク運動はなぜ成功したのでしょうか。
■伊達直人、タイガーマスク運動が成功した理由
伊達直人、タイガーマスクというキャラクターを用いたことで、大上段に構えた善行という枠が取り払われ、良い意味での遊び感覚がでたのでしょう。各マスコミも好意的に報道し、全国各地にそれぞれの「伊達直人」が登場し、ある種の「祭り」状態になっていきました。
各地に次々と「伊達直人」が登場し始めたときには、自分達の町には現れないことに焦りを感じたり、自分も何かをしなくてはという強い思いに駆られた大人たちも多かったことでしょう。
しかし、一般にはこのようなお祭り的盛り上がりはすぐに終わってしまいます。ところが、今回は「タイガーマスク基金」が作られ、運動は継続されました。
それでも、運動の熱は徐々に冷めていきます。そこで今回の実名顔出しとなりました。
■プロレス会場で「タイガーマスク」と共に正体を明かす
現代社会で運動を思考させるためには、良い意味での遊び感覚、楽しさが必用です。一時期は時の人となった伊達直人さんが名乗るのですから、まじめな記者会見でも良かったでしょう。
しかし選ばれたのは、プロレス会場。しかもプロレスで実際に活躍した初代タイガーマスクと一緒でした。
運動自体はとても真剣で、伊達直人さん(本名:河村正剛さん)も真面目な方です。それでも、演出は必要であり、この演出は大成功でした。
河村さんご自身が、家庭環境に恵まれずランドセルを買えなかった過去があったことも語られました。本物の河村さんのキャラクターも、伊達直人に負けず劣らず、誠実で魅力的でした。
初代タイガーマスクに「本物の伊達直を紹介します」言われてリングに上がる河村正剛さん。まるでドラマのような展開です。今回の企画は大成功でした。
匿名での善行は、陰徳の文化がある日本の特徴に合っているでしょう。しかし、しばらくした後で名前が明かされることは、一般人でも有名人でもあることです。騒ぎが収まってからの方が、心無い批判も少ないでしょう。
そして、個人の名前が出たほうが、多くの人々が援助行動に関わっている実感が持て、社会全体での援助行動参加にもつながっていくでしょう。
■タイガーマスク運動のすばらしさと子どもの心
子ども達の貧困が社会的問題になっています。愛されている実感が持てない多くの子ども達がいます。現代では、養護施設の子ども達も、就学援助や生活保護を受けている家庭の子ども達も、ランドセルを持てます。日本は豊かな国です。
それでもお金は必要であり、寄付行動も大切です。けれども、子ども達はお金や食べ物、衣服や文具があれば育つわけではありません。
子ども達には、愛が不可欠です。タイガーマスク運動は、お金や物を届けるだけではなく、君の事を心配し愛している人が確かにいることを、子ども達に伝えたのだと思います。
きっとその思いが届いているという確信が、さらに大人たちの心をも揺り動かし、さらなる活動への広がったのでしょう。
私達は、だれかを愛したいと願っていますし、そして愛されることを必用としている子ども達がいます。
この活動が長く広く続いていきますように。
「子どもたちは虐待されるために生まれてきたんじゃない。抱きしめられるために産まれてきたんだ。この思いを胸に、僕はこれからも活動を続けていきたい」(伊達直人こと河村正剛)