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ファミコン30周年―テレビゲームの影響について考える

矢萩邦彦アルスコンビネーター/知窓学舎塾長/多摩大学大学院客員教授

1983年7月15日に任天堂ファミリーコンピュータが発売されて30周年になります。それ以前にもテレビゲームは存在しましたが、「ファミコン」はコントロールパッドが付いた形の定番ハードの基礎になりました。30周年にちなんで現在のフラッグシップ機である「Wii U」向けに懐かしのコンテンツを30円で配信するキャンペーン中の任天堂は、当のWii Uが不振で2期連続の営業赤字になっています。かつて一世を風靡したゲームメーカーが勢いを失いつつある現代、若者達はテレビゲームについてどう考えているのでしょうか。テレビゲームブームの渦中に生まれた大学生、そして現役の小学生と考えてみました。

◆ファミコン以前と以後の感覚

それまでゲームセンターや喫茶店でやるのが普通だったコンピューターゲームが、家庭に入り込んできたことはゲームをする少年少女だけでなく、大人達にとっても衝撃を持って迎えられました。しかし、それと同時にテレビゲームの悪影響も取りだたされることとなりました。

「テレビゲームの子供への影響というと負の側面ばかりが強調されるように思いますが、生まれたころから当たり前のようにゲームが存在した我々の世代にしてみると空論にしか聞こえません。」と話してくれたのは、今年から東京大学に通う吉野良祐さん。普及後の悪影響という考え方には、「ゲームが普及する必然性」という視点が欠けているのではないか、と分析しています。

それまで「勉強をしない」というような小さなことから「非行」と呼ばれるような状態まで、その責任は学校や家庭に向けられていました。しかし、「ゲームばっかりやっているから」という理由づけは、多くの家庭や学校で便利に使われるようになったのではないか、と感じます。また、少年犯罪などとの関係も語られますが、暴力シーンなどが多いゲームがきっかけでそういう風になっていったのか、はたまた、元から持ち合わせていた性質や、環境からそういうゲームにはまったのかは、分けて考えなければならないとも思います。

◆「当たり前」だったファミコン

90年代後半を小学生として過ごした大阪大学の井上理翔さんは「みんなが持っているから自分もほしい、と考えたのはテレビゲームが初めてでした。」と振り返ってくれました。これについて、井上さんはテレビゲームが他者への同調性を強めるきっかけになったのではないか、といいます。

確かに「ファミコン世代」と呼ばれる30歳代の小中学生時代には、ファミコンを持っているかどうかでグループが出来たり、またゲームソフトの貸し借りを基盤とするコミュニティー化が進むことで、仲間はずれが生じたりするケースも散見され、問題視する教育関係者もいました。

現在空気のように浸透していったテレビゲームは、ポータブルゲーム機を経て、スマートフォン化した携帯電話へフィールドを移しつつあります。多様化したハードと、統合されたプラットフォームの共存により、同一ゲーム機を持っているかどうかで仲間はずれが起こるような事態は減少しているように見えます。

◆ゲーム離れしているのか

ゲーム業界の不振について「ゲーム離れ」が進んでいるという声も聞きますが、かつて「ファミコン」と同義だった「テレビゲーム」という言葉がいったい何を指すのか分からなくなってきた現代において「ゲーム離れ」という概念自体が意味をなさなくなっているような気がします。また、ソーシャルゲームなどの新しいジャンルの台頭で、ゲームに対する欲求の形もだいぶ変わってきたような気がします。

先日、小学生100人にテレビゲームについてアンケートをしたところ、テレビゲームは良い・悪い・どちらとも言えない、の3つの意見がちょうど3分の1くらいずつという結果になりました。顕著だったのはそれぞれの意見の理由が偏っていたことで、「良い」と答えた生徒は「ストレス解消」「楽しいから」が最も多く、「悪い」と答えた生徒のほとんどが「目が悪くなるから」と答えており、「目が悪くならなければ良いか?」という問いには、良いと答えています。また「どちらとも言えない」理由については、「ゲームによって良いものも悪いものもある」とソフトの違いについて言及するものがほとんどで、「ゲームによって性格や行動への影響があると思うか?」という問いには、「特にないと思う」という意見が大半でした。

ファミコン世代を親に持つ現代の小学生。ゲームに対する価値観はあまり多様性を感じられない気もします。果たして今後、どのような「影響」が語られるようになるのか、その真偽や可能性を冷静に判断しつつ、世代を問わずポジティヴに「ストレス解消」を「楽しんで」いければ良いのではないかと思います。(矢萩邦彦/studio AFTERMODE)

アルスコンビネーター/知窓学舎塾長/多摩大学大学院客員教授

1995年より教育・アート・ジャーナリズムの現場でパラレルキャリア×プレイングマネージャとしてのキャリアを積み、1つの専門分野では得にくい視点と技術の越境統合を探究するアルスコンビネーター。2万人を超える直接指導経験を活かし「受験×探究」をコンセプトにした学習塾『知窓学舎』を運営。主宰する『教養の未来研究所』では企業や学校と連携し、これからの時代を豊かに生きるための「リベラルアーツ」と「日常と非日常の再編集」をテーマに、住まい・学校職場環境・サードプレイス・旅のトータルデザインに取り組んでいる。近著『正解のない教室』(朝日新聞出版)◆ご依頼はこちらまで:yahagi@aftermode.com

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