自民は最悪、高評価は立憲民主-安全保障、成長戦略としての「脱炭素」 参院選2019
今月21日に投開票される第25回参議院選挙。多くの人々の関心は年金や消費税であろうが、重要な争点はそれらにとどまらない。環境問題、とりわけ温暖化対策は、もはや人類の存亡をも左右しうる最重要課題だ。昨年の西日本豪雨災害など温暖化が原因とされる異常気象は既に日本の人々にもその牙を剥き出しにしている。温暖化対策は、人々の生命や財産を守るための安全保障政策なのだ。また、温暖化対策は、電気自動車の普及にむけた各国の動きなど、世界の産業構造が「脱炭素」へと大きく変革しつつある中での成長戦略でもある。そこで、本稿では、環境NGOによる各党政策レビューを紹介する。
○気候ネットワークの各党公約レビュー
認定特定非営利活動法人「気候ネットワーク」は、参院選での各党の公約を温暖化防止・脱原発の視点からレビュー。今月4日にその評価を公表した。評価のポイントは、以下の4つで、具体的な記述の有無や意欲的であるか否かで採点している。
・パリ協定の遵守と野心的な温室効果ガス削減目標の設定
・エネルギー政策と脱石炭火力発電の推進
・再生可能エネルギーの導入と野心的な目標設定
・脱原発の実現
採点で最も高得点を得たのは、立憲民主党。次いで国民民主党、共産党が続いた。最も点数が低かったのは、自民党だった。CO2など温室効果ガスの削減目標や太陽光や風力などの再生可能エネルギーの導入目標が低い上、膨大なCO2を放出する石炭火力発電を推進することや、原発の再稼働、活用を続けることから低評価となった。公明党もワースト3位であった。
以下、各項目について順に解説する。
○パリ協定への本気度
パリ協定とは、2020年以降の地球温暖化対策の国際的枠組みを定めた協定で、先進国や途上国を問わず、世界196カ国の国々が参加。温暖化による破局的な悪影響を防ぐため、地球平均気温の上昇を2度より低く抑え、1.5度未満を努力目標とする。そのために、今世紀後半には、温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることが求められる。
このパリ目標を実現するためには、2030年までの中期目標が重要であり、気候ネットワークは自民党や公明党の公約について、「既存の日本政府の目標を踏襲したもので、パリ協定に基づく脱炭素化にむけて政策強化を図る先進国に比べると見劣りする」と評している。
実際、EUは「2030年までに1990年比で少なくとも温室効果ガス排出を40%削減」としているのに対し、日本は「2013年比で26%削減」。削減の割合だけでなく基準年をずらすことで排出目標を低く設定している(日本の温室効果ガス排出は1990年で12億7500万トン、2013年は14億900万トン)。
他方、野党では、立憲民主党が「2050年CO2排出ゼロ」、共産党も「2050年CO2排出実質ゼロ」とパリ協定に即した目標を掲げており、気候ネットワークも評価。ただし、両党ともに2030年の中期目標については言及していなかった。国民民主党は「2030年に1990年比で30%以上削減」と大きく踏み込んでいるものの、2050年以降の目標についての言及はなかった。
○石炭活用VS脱石炭
石炭火力発電は、石油や天然ガスによる発電に比べても、はるかに膨大なCO2を排出する。そのため、石炭火力発電を廃止していく「脱石炭」は温暖化対策の最優先課題だ。脱石炭の動きは、例えばイギリスが2026年までに、カナダが2030年までに、ドイツも2038年までに石炭火力発電を廃止するとしている。また、石炭産出国であり主力エネルギー源としてきた中国も石炭依存から脱却する方針を打ち出している。こうした動きの背景には、各国の機関投資家が石炭火力への投融資を引き上げるダイベストメントも影響している(関連情報1、同2)。
そうした中、安倍政権は石炭火力を国内外で推進、国際社会からの批判を浴びている。今年2月に来日し、都内で会見を行ったクリスティアナ・フィゲレス前国連気候変動枠組条約事務局長も、「石炭火力発電の新設はすべきではない。日本は石炭火力技術の輸出を続けることで国際的評判を落としている」と警告した*。気候ネットワークも「2013年以降浮上した石炭火力発電所のうち、現時点で13基が稼働、17基が建設中にあり、石炭火力廃止に向かう世界とは真逆に動いている」と指摘している。これらの批判にもかかわらず、自民党の参院選公約では「高効率の石炭火力発電所の新増設・リプレースを推進」とあり、温暖化対策としては最悪の政策である。高効率であっても石炭火力発電のCO2排出係数は天然ガス火力発電のそれの2倍以上だからだ。他方、立憲民主党は各党の中で唯一「2030年に全廃」としており、気候ネットワークも評価している。
*クリスティアナ・フィゲレス前国連気候変動枠組条約事務局長 会見(日本記者クラブ)
https://www.jnpc.or.jp/archive/conferences/35326/report
○再生可能エネルギーの活用
温室効果ガス排出削減のため必要不可欠なのが、石炭や石油、天然ガスなどの化石燃料から、太陽光や風力などの再生可能エネルギーへの転換だ。近年、再生可能エネルギーは発電効率やコスト面で飛躍的に進歩し、その活用は経済合理性という点でも重要になってきた。また、欧州では、広域の電力融通やビッグデータを活用した天候予測による需要と供給の調整など、「天候任せ」という再生可能エネルギーのこれまでの弱点を補うことが可能となっている。欧州委員会は昨年11月、2050年までにエネルギー消費の電化を徹底し、かつ電力の8割を再生可能エネルギーにするとのビジョンを発表した。
参院選の公約では、自民党、公明党はともに再生可能エネルギーを具体的な数値目標に言及しておらず、「『主力電源化』するという(政府の)エネルギー基本計画をなぞったものに過ぎない」と気候ネットワークは指摘。立憲民主党の公約には「自然エネルギー100%を目指す」との文言があり、国民民主党は「2030年に30%」、共産党は「2030年に40%」、社民党も「2050年までに100%」との目標を掲げた。
○脱原発の実現
よく原発推進側は「温暖化防止には原発が有効」と主張するが、実際には、建設・稼働開始に時間がかかりすぎる上、安全対策のコスト増などもあり、経済性でも再生可能エネルギーに及ばなくなってきているのが、現状だ*。
*太陽光、風力に駆逐され原発はオワコン化ー安倍ジャパンだけが直視しないエネルギー産業の激変
https://news.yahoo.co.jp/byline/shivarei/20190128-00112689/
地震リスクの高い日本において、原発はもはやデメリットしかない。参院選の各党公約では、自民党は「再稼働を推進」「ベースロード電源として活用」としている。これに対し、立憲民主党、共産党、社民党は「原発ゼロ基本法の早期成立を目指す」としている。れいわ新選組も「原発の即時禁止」を掲げている。
○成長戦略としても重要
今年5月に行われた、日本政府の「パリ協定長期成長戦略案」についての環境NGOや専門家達と、資源エネ庁などの関係省庁の会合で、筆者は政府側に対し、「日本の環境関連の技術は、先駆的な国々のそれに比べ、もはや遅れていることの自覚はあるのか?」と問いただした。これに対し、経産省・資源エネルギー庁の担当者は「事実として、残念なことに太陽光と風力では、完全に他国に出遅れています」と認めた。
「太陽光は中国、風力は欧州が進んでいる中、最近、日立が風力発電機の生産から撤退してしまった、日本からそうした技術が失われていることは、事実としてしっかり受け止めないといけないと思っております」(同)。
地球環境や人々の命や財産を守ることは当然として、日本が「衰退国家」「環境後進国」とならないためにも、今回の参院選の有権者の動向が非常に重要なものとなるだろう。
(了)