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「東京電力 炉心溶融公表遅れ問題」 隠ぺいとバッシングするだけで終わらせてはならない

吉川彰浩一般社団法人AFW 代表理事
東京電力 視察者向け資料より抜粋 1から3号機について炉心が溶融

6月21日、時事通信より「炉心溶融」不使用は隠蔽=東電社長、公表遅れ謝罪―福島原発事故」が報じられました。

隠ぺい体質はいまだ改善されぬと多くの方が怒りのコメントをされています。

確かに現社長の広瀬直己氏が隠ぺいと認識していると述べ、謝罪をし減給処分を発表し、公に東京電力が隠ぺいをしたと認めたニュースとなっています。

事の発端は、新潟県原子力発電所の安全管理に関する技術委員会からの指摘により、原子力災害から国民の生命、身体及び財産を保護することを目的として制定された原子力災害対策特別措置法の15条に定められた通報対象「炉心溶融」があるにも関わらず、2011年3月14日に遡り炉心損傷を%で伝え続けた東京電力の通報が、「それは炉心溶融を指すのではないでしょうか?」といったメディア追及の中、同年5月に溶融と認めるまで続き(1号機について同年 5 月15日に、2,3 号機について同月 23日(24 日公表))、時は過ぎ2016年2月24日になり、東電社内のマニュアルに実は炉心溶融の判断基準があったことを認め、新潟県に対し5 年かかったことにつき謝罪したことが始まりです。

つまり、炉心溶融を判断する社内マニュアルがあったのにも関わらず、炉心損傷を%で伝え続けた約2ケ月間の通報のあり方(原子力災害防止法15条に基づく通報)が隠ぺいではないかと追及され、21日になり東京電力は正式に隠ぺいに該当すると認めたということになりました。

しかしながら、延べ70Pに及ぶ福島第一原子力発電所事故に係る通報・報告に関する第三者検証委員会による検証結果報告書を読み込むと、額面通りに受け止めて良いものなのかといった疑問が湧くだけでなく、私たちにとって原子力関係者との認識のギャップが浮き彫りとなる提言がなされています。

こちらは下記に沿ってが纏められ、報告されています。

  1. 事故当時の通報・報告の内容
  2. 事故当時の社内マニュアルに則って、炉心溶融を判定・公表できなかった経緯や原因
  3. 技術委員会に事故当時の経緯を説明する中で、誤った説明をした経緯や原因
  4. その他第三者検証委員会が必要と考える項目

東京電力だけが追及されることなのか

炉心損傷の5%超えた状態をもって「炉心溶融」として扱うことを原子力保安院と協議のうえで行っています。社内マニュアルにて炉心溶融の定義があったのにも関わらず、社内で共有されず定義はないと新潟県へ説明していた姿勢を元に、炉心損傷で伝え続けたことに対して筆者も言い訳の出来ない状況と思います。また、被災された方々への思いも鑑みればルールを逸脱してでもという思いもあります。

ですが、大切なことは東京電力だけを問えば済む問題ではないということです。保安院も把握していたという点は見過ごしてはなりません。5%超える損傷があったと通報はしています、状況証拠的に保安当局が判断することも出来た。東京電力のミスは許されないとしても東京電力だけが悪者とする風潮は第三者委員会からの報告からも誤っていることが分かります。

というのも「炉心溶融」の部分については、「原子炉容器内の炉心の溶融を示す原子炉格納容器内の放射線量又は原子炉格納容器内の温度を検知すること」としか規定されておらず、法令上基準が明示されていないからです。

ですから東京電力だけで決められず、原子力保安院との協議のうえで決定されます。

東電は、炉心損傷割合 5%をもって「炉心溶融」の判定基準とすることとし、その基準を立案当局にも報告していたと認められる。

出典:福島第一原子力発電所事故に係る通報・報告に関する第三者検証委員会 検証結果報告書9P

とあります。そして2011年3月14日以降の東京電力の発表ではその5%を超える通報がされています。

同月14 日5 時03 分には 3 号機の炉心損傷割合が 30%、同日 7 時 18 分には 1 号機の炉心損傷割合が 55%であるとの通報をしたものの(2 号機についても、15 日16時22分には、炉心損傷割合が 14%から 35%と高くなったとの通報をしている。)

出典:福島第一原子力発電所事故に係る通報・報告に関する第三者検証委員会 検証結果報告書3P

それだけではありません。原子力災害防止法15条に基づく通報は原子力防災管理者である発電所長の判断によって行えるものと保証されているものですが、実情は様々な意志の交錯があったのではと報告書はあげています。

東電社内においては、保安院の広報担当者の事実上の交替の理由が「炉心溶融」をマスコミに対して認めるかのような発言をしたことにあるものと受け止め、対外的には「炉心溶融」を肯定するような発言を避けるべきだとの認識が徐々に広まった。

出典:福島第一原子力発電所事故に係る通報・報告に関する第三者検証委員会 検証報告書30P

清水社長が東電本店に戻ってから、東電の部長に対し、今後、東電がプレス発表する際には、事前にプレス文案や公表資料等について官邸の了解を得るよう指示をしており、その事実からすれば、官邸側から、マスコミに公表する際には事前に官邸側の了承を得るようにとの要請を受けたものと推認される。

出典:福島第一原子力発電所事故に係る通報・報告に関する第三者検証委員会 検証報告書30P

5年以上前の出来事、火急的信用度の高い情報が求められる中、どのようなやり取りがあったのか。それは推測の域を出ることはありませんが東京電力独断で動けるような状況とは思えません。

ただ言えることは事は恐らく単純ではないと第三者委員会は報告していることです。

そしていかなるプロセスがあったにせよ、東京電力が公式に隠ぺいし謝罪した事実は変わりません。そして謝罪だけではなく改善にまで動いていくことを社会は望んでいます。

報告書を紐解いていくことで、前述した社会から信任を預かり全権を振るう原子力関係者の認識と、私たちが持つ認識とのギャップにも大きな問題があることを報告書は伝えています。

ギャップ1

私たちにとって炉心溶融とは文字通り、炉心が解けた状態を指します。それがどの程度ではなく物理的事象として起きたら溶融といった考えです。

ですが報告書の中では私たちにとっては「え?そうなの?」といったことが報告されています。

日本原子力学会の「用語の定義」には、「炉心溶融」の語句は掲載されておらず、学術上の正式な定義はないようである。

出典:福島第一原子力発電所事故に係る通報・報告に関する第三者検証委員会 検証結果報告書P26

それゆえにヒアリングの結果ではこうした報告もされています。

今回の関係者のヒアリングにおいても、「炉心溶融」という用語は曖昧なのでほとんど使用していなかったという者が多く、また、「炉心損傷」と「炉心溶融」はほぼ同じ意味と理解している者もあれば、「炉心損傷の状態の中でも、損傷が進んだ状態が炉心溶融である。」と理解している者もあり、東電社内においても「炉心溶融」という言葉自体が統一的な用語として使われていたわけではなく、様々な意味で使用されていたようである。

出典:福島第一原子力発電所事故に係る通報・報告に関する第三者検証委員会 検証結果報告書 P26

15 条報告に該当する「炉心溶融」は、通報基準に該当するか否かなのであって、一般的な用例としての「炉心溶融」の定義の問題ではない。

出典:|福島第一原子力発電所事故に係る通報・報告に関する第三者検証委員会 検証報告書

ここで気づくギャップが、「溶けた=炉心溶融ではない」ということです。東京電力の場合、炉心が5%超えて損傷すると炉心溶融と扱い、それ未満ならば「炉心損傷」と扱うということです。そして立案当局も容認しているということが重要です。

ギャップ2

私たちが炉心溶融の他に福島第一原発事故で使う言葉にメルトダウンとメルトスルーがあります。こちらも報告書の中では次のように語られています。

「メルトダウン」なる言葉は、学術用語ではなく、法令上の用語でもない。一般的には、「炉心溶融が進み、燃料全体がどろどろになって棒状の形を失い、落下して圧力容器の底にたまることをいう」などとして、「炉心溶融」が更に進んだ状態を意味する言葉として使用されることが多いようであるが、「炉心溶融」とほぼ同義として、「炉心溶融(メルトダウン)」というように使われることもある。「メルトスルー」なる言葉も、学術用語ではなく、法令上の用語でもないが、一般的には、「メルトダウンにより原子炉の底に落下した核燃

料が、原子炉を破損して炉外に露出すること」などと言われており、「メルトダウン」が更に進んだ状態を意味する言葉として使われているようである。

出典:福島第一原子力発電所事故に係る通報・報告に関する第三者検証委員会 検証結果報告書P28

ギャップから見える共通言語をもっていない問題

原子力災害が起きたとき、原子力関係者との圧倒的な知識差で振り回される私たち。それは福島第一原発事故で嫌というほど味わっています。今の福島第一原発の状況を理解出来ないことからも然りです。

ですが原子力災害が起きたときの被害者として、知りたいと思っていることが共通の認識ではなく、共通言語でもないということが「炉心溶融公表遅れ問題」から明らかになりました。

ここで私たちと原子力関係者との間で、どちらに問題があるでしょうか。学ぶべき相手も身近におらず、そして学ぶべき場所も身近にない中では。

そう原子力関係者から分からない・知らない私たちの肌感覚に降りてきてもらうしかありません。原子力関係者にとっては当たり前のことも私たちにとっては難しく遠いものでしかありません。

原子力産業は0にはならず、再稼働も始まり私たちの傍らに存在し続けます。それはリスクが傍らにあると言えます。

今回の原子力保安当局と東京電力の中で決められていたルール(社内マニュアル)の存在を見過ごし、通報に至らなかったことは大きな問題です。追及されるものですし、改善されることを切に望みます。

ですが、この問題には私たちにもとても影響のある他の問題もあることも浮き彫りになりました。

是非そちらについても東京電力のみの問題とせず、原子力関係者全体の問題として扱い改善して頂けることを望みます。

それが何より失墜した信頼の回復に繋がることでしょうし、私たちにとっても必要とするものだからです。

一般社団法人AFW 代表理事

1980年生まれ。元東京電力社員、福島第一、第二原子力発電所に勤務。「次世代に託すことが出来るふるさとを創造する」をモットーに、一般社団法人AFWを設立。福島第一原発と隣合う暮らしの中で、福島第一原発の廃炉現場と地域(社会)とを繋ぐ取組を行っている。福島県内外の中学・高校・大学向けに廃炉現場理解講義や廃炉から社会課題を考える講義を展開。福島県双葉郡浪江町町民の視点を含め、原発事故被災地域のガイド・講話なども務める。双葉郡楢葉町で友人が運営する古民家を協働運営しながら、交流人口・関係人口拡大にも取り組む。福島県を楽しむイベント等も企画。春・夏は田んぼづくりに勤しんでいる。

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