気象庁HPがアクセス集中で閲覧障害 「防災インフラ」としてのあり方・役割を考える
■ 大雨災害発生時に閲覧できなくなってしまった
活動の活発な前線が停滞して西日本を中心に記録的な大雨となり、災害が発生する中、2021年8月14日(土)の昼過ぎから、気象庁ホームページにアクセスしにくい状況が発生した。筆者も大雨対応で業務に当たっていたところ、コンテンツを表示しようとしても先へ進まず、リアルタイムで異変に気がついた。
筆者は、気象庁HPが閲覧不能でも、所属する気象会社(ウェザーマップ)の社内ツールにて、各種の情報を参照することができた。気象会社には事業者向けの専用ルート(有償)で、気象庁HPに掲載されているような様々な情報・データがリアルタイム配信されているため、代替として活用できたものが多かったわけである。しかし、気象庁HPでしか参照できない情報・コンテンツもあったり、普段は気象庁HPで使い慣れているコンテンツがあったりするなど、少なからず業務に影響を受けることになった。
気象庁によると、今回の障害の原因は、アクセス集中に伴うシステム負荷の急激な上昇で、それによりHPが表示しにくい状況になったそうだ。なぜアクセスが集中したかだが、タイミングから考えると、記録的な豪雨のため最新の気象情報への関心が非常に高まり、通常よりも多くの方々が一斉にアクセスしたことが大きな原因だと考えるのが自然だろう。詳細について気象庁でさらに調査中とのことだが、障害発生翌日の8月15日(日)までには緊急的にシステムを増強する対策を行い、現状は正常に閲覧できているようである。
一方で、再びアクセスが集中した場合には一時的に閲覧できなくなる可能性があるとして、「その際には他のウェブサイトの利用をお願いいたします」とトップページに掲載されており(8月18日(水)午前の時点)、国土交通省やNHKのサイトのリンク先が示されるという異常な事態が続いている。
■ 気象庁HPは今年2月にリニューアル
気象庁HPは、今年(2021年)2月にリニューアルをした。このリニューアルの一番の目玉は「防災情報」のページの変更・拡充で、「地域防災」をキーワードにして拡充した大胆な変更と筆者は受け取っている。
実は、リニューアル前の気象庁HPは、情報ごとにページが分かれて表示されており、自分のいる場所の気象状況や発表されている情報、災害危険度などをまとめて表示したり把握したりするのは難しかった。
情報ごとに自分の見たい地域のものを求め、ページを遷移して一つひとつ探していく必要があり、情報の意味をすでに理解している人(欲しい情報が分かっている人)や、「いま最も危険になっている場所はどのあたりなのか」という使い方をする人(全国を対象とする気象事業者や解説者、報道機関など)にとっては使いやすかった面があるが、その一方、「自分の周囲がどうなっているか」だけをいち早く知りたい一般利用者にとっては、使い勝手が良いとは言い難い仕様だったのだ。
それが、リニューアルで大きく変わった。「あなたの街の防災情報」をコンセプトとして掲げ、予め地点登録をしておくと、その市町村に発表されている情報・危険度などが一目で分かる仕様に変更されたのである。個人が情報を入手するのに特化した、一人ひとりが主体的に行動するのを強くサポートする形式に大転換したリニューアルだったのだ。いわば、主語が「情報」ではなく「個人」「地域」になり、まさに「あなたの街」の状況を容易に確認できるようになり、大雨などの災害時に活躍が期待されていたわけである。
筆者も今回の大雨を前にした8月13日(金)、出演・解説を担当するニュース番組(関西テレビ「報道ランナー」)にて、気象庁HPの積極的な活用を紹介させていただいた。生放送中にスマホ版の気象庁HPを実際に操作する形式で、時間を割いて紹介し、『テレビの放送などで「最新の気象情報を確認してください」とお伝えすることがあるが、まさにその際にはぜひ活用してほしい』旨を伝え、強く視聴者の皆様に活用をおすすめした次第である。その思いは今も変わらない。ところが、翌14日には今回の閲覧障害が発生してしまい、大変悔しく感じる事態となった。
なお、リニューアルが今回の閲覧障害の発生に影響を与えた可能性については気象庁からの言及はなく不明だが、気象庁HPは1996年の開設以降、2004年6月にもアクセス集中による閲覧障害が発生している。この時は台風が日本に上陸したことに伴いアクセスが急増し、ホームページの閲覧がほとんど不可能となった。その直後には対策を講じ、同年夏~秋の台風や地震・津波などの際には問題なく表示されるようになっていた。今回どの程度のアクセスが集中したのかなど詳細はまだ分からないが、災害時には非常に多くのアクセスが予想され、気象庁HPの重要性は年々高まっていると考えられる。アクセス数も以前の比ではなく増加しているだろう。リニューアル後の気象庁HPが個人でも活用しやすくなったと思っていただけになおさら、今回の閲覧障害は残念でならない事態だった。
■ リニューアルで防災機関向け専用サイトも統合されていた
気象庁HPは広く一般からの需要も高まっていたが、実は2月のリニューアル時には、各地での防災対策上、極めて重要な変更も行われた。それまではID・パスワード形式で運用していた防災機関向け専用サイトとの統合が図られ、一般公開されている気象庁HPとの一本化がなされたのだ。
市町村など地方自治体の防災担当者が自らの自治体に特化して情報を表示できるようにしていた気象庁の専用サイト「防災情報提供システム(インターネット版)」を廃することとし、同じ考え方で「あなたの街の防災情報」として広く誰でもアクセスできる形とし、気象庁HPのリニューアルのタイミングで一本化したのである。
これまでは防災担当者のみが閲覧できていた、地域に特化した仕様のHPが広く国民一般にも使用可能となった改善だったのだが、これに伴い、地方自治体などの防災担当者も同じ気象庁HPを利用して防災業務に当たることになった点は重要だ。つまり、今回の閲覧障害は、こうした人々にも多大な影響を及ぼした可能性がある。
第一線で防災対応に当たる地方自治体の防災担当職員も情報の閲覧ができなくなったわけであり、厳しい言い方だが、専用システムと一本化したからには絶対にあってはならない障害だったと言わざるを得ない。市町村へは都道府県からの伝達やFAX・メールなど別の手段による警報などの直接的な送受信は行われているのだろうが、いまや気象庁HPは、一般向けにもプロ向けにも、住民の命を守るための極めて重要な「防災インフラ」なのだ。それに重大な障害が発生するということは一刻を争う防災業務を妨げかねない重大な事態だと感じる。
■ 気象解説者の立場でも影響が大きい
また、気象解説者の立場・業務から申し上げるならば、以下の2点だ。
まず、気象庁HPは住民自らが主体的に情報を入手できるツールとして紹介しやすい、貴重な「公的」なサイトなのである。信頼性の観点もあり、国や地方自治体など「公の機関が運営するサイト」という点は非常に大きい。また、テレビなどで「気象庁HPで最新情報をお確かめください」とは紹介しやすいが、一民間企業や気象会社のサイトを番組などで紹介するのは様々な面でハードルが高いと言える。特に、民放ではスポンサーの兼ね合いなど、なおのこと容易ではない場合が多い。
さらに、放送局・番組によっては、気象庁HPのコンテンツをスクリーンショットして画像化し、ニュースや気象解説などでそのまま紹介している場合もある。実は、各種の気象庁が発表・配信する情報やデータは気象業務支援センター(気象庁が指定)を経由して放送局や気象会社など民間へ配信されているが、毎年のように新しい情報が作成されて配信される中、それをその都度すぐに放送に利用するのは簡単ではない。情報を受信するのも画像化するのも、タダではないからだ。
コンスタントにかかり続ける情報受信料や作画システムの構築・改修に、多額のお金がかかるという現実がある。東京のキー局ならばいざ知らず、規模の小さな地方の民放などはその負担が非常に大きいため独自の作画システムを作らず、気象庁HPの画像を引用したり、HPそのものを操作したりする形で防災解説に利用している場面は決して少なくない。そういった面でも、今回は直接的に影響が出ていた可能性もあるのだ。
■ HPの運用も含め、防災には一層手厚い予算・体制を組むべき
気象庁HPは、今では社会の重要な「防災インフラ」であることを、気象庁や国はこれまで以上に強く認識してもらいたい。以前、筆者が取り上げたHPへの「広告掲載」の問題もまた然りである。社会的に重要な「命に関わる情報」を掲載するインフラとしての気象庁HP(特に防災情報のページ)に、広告の掲載はそぐわないと筆者は今も考えている。当然これまでも最優先で運用していたのだろうが、気象庁HPの「安定性」「信頼性」を一層重視し、着実に運用してもらいたい。気象庁HPの重要性が高まる中、そのあり方の検討も今一度必要ではないか。
筆者の私見だが、今回のHP閲覧障害は、一官庁のHPが一時的に見られなくなった、というだけの単純な問題ではなく、国民の「安全・安心」に直結する重大な問題だと思う。そのためにも、一層手厚い予算・体制を組むべきなのだろう。これも以前から筆者は指摘しているが、気象庁全体の根本的な問題として、重大な防災対応をする危機管理官庁でありながら、予算規模がそもそも小さ過ぎる、と思う。気象庁の予算は「コーヒー予算」(=年間予算の国民一人当たりの額が、喫茶店のコーヒー1杯の料金程度(=500円程度)の規模)と言われ続け、限られた予算の中で設備の維持や日々の観測・予報など24時間業務を行っているのだ。
災害が頻発する中、第一線の観測や予報・警報の発表が任務である気象庁の防災体制を一層拡充するため、もっと多くの予算をつけるべきだと筆者は思うのだが、読者の皆様はどうお感じになるだろうか。今回のHP閲覧障害についても、背景にはこの問題が多少なりともあるような気がしてならない(気象庁はそうは言わないだろうが…)。
とはいえ予算の増額は簡単には進まないのだろう。しかし、ただでさえ予算が少ないので、「何かを新たに行うには、その代わりに何かを削る」という考え方が基本にあるようでは解決にはつながらない。もちろん、無駄なものは廃すべきだが、そのために、必要なものの安定運用すらままならなくなるのでは本末転倒である。
筆者には、気象庁HPも含めた、必要で重要な施策には積極的に予算を増額するような後押しが必要に思えてならない。その後押しは、世論であり、ある面では政治判断だろう。気象庁は国務大臣・政務官のいる官庁ではないので、間接的ながら、国土交通大臣(気象庁は国土交通省の外局)や防災担当大臣の所管になるのだろうか。広く「防災」という観点では省庁横断で対応する面もあるから、官邸マターとして総理大臣の政治判断、ということも求められるのかもしれない。待ったなしの災害対応として、迅速に、一層手厚く予算・体制の確保ができるよう進めていくべきではないか、と筆者は強く思っている。
防災情報は、国民全員が平等にアクセスできるべき、命に関わる情報である。気象庁が発表する情報は、誰もが容易にアクセスできるということも非常に重要な側面であり、その伝達手段としての気象庁HPは、極めて重要な防災インフラに成長していると感じている。防災情報の利用・受信の「平等性」の観点からも国が責任をもって取り組み、「安定性」「信頼性」に最大限の配慮を行った運用になるよう、これまで以上の万全な対策を施すべき、と筆者は強く感じている。
【参考】
・ 気象庁のお知らせ「気象庁ホームページが閲覧しにくい状況となったことについて」