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ラジオ天気図の放送回数が減る

片山由紀子気象予報士/ウェザーマップ所属
NHKラジオ第2放送「気象通報」

ラジオ天気図と聞いて、思い当たる人は天気好き、天気図愛好家と言えるでしょう。私はこの仕事に就くまで、気象通報を知らず、天気図を描いたこともありませんでした。しかし、気象予報士仲間には、学生時代にラジオ天気図に熱中していたことがあると嬉々として話してくれる人がいます。ほとんど男性ですが。

私は、たまたま気象予報士になって、たまたまテレビ局で働くようになり、たまたま天気図を描くようになったという、偶然が重なったようなきっかけで、これまで1万枚以上の天気図を描いてきました。

気象通報とは?

さて、ラジオ天気図を知らない人に、簡単に説明しましょう。NHKラジオ第2放送では1日3回「気象通報」と呼ばれる20分の番組があります。(2014年3月31日より、1日1回となる)各地の気圧や気温、風向風速、天気などの実況、船舶からの報告、低気圧や高気圧の位置、日本付近を通る等圧線の位置などが読み上げられ、すべてを聞き終わると一枚の天気図が出来上がります。ひとことで言うと、ラジオの天気図放送でしょうか。

20分間に多くの内容が詰め込まれているので、始めはアナウンサーの読み上げスピードについていけず、途中で断念することもしばしば。慣れるまでは録音する人もいるようですが、私はそれをせず、とにかく何度も聞いて、書いてを繰り返しました。3年ぐらい続けたら、ラジオ放送が終わると同時に天気図が仕上がるようになりました。(表紙の写真はその中の一枚です。)

余談ですが、アナウンサーの読み上げスピードにも個性があって、早口で読み上げて、時間を余らせる人もいれば、20分ジャストで読み上げて、さすがプロと思わせる人もいて、おもしろいです。

気象予報士は天気図が描けない

気象通報の歴史は古く、今年で86年になるそうです。(放送開始は1928年11月)もともとは漁業関係者向けの放送でしたが、登山愛好家や天気図を趣味とする人など、各方面で利用され、隠れた人気番組とも言われています。

実は、気象予報士のほとんどが天気図を描けません。その理由は試験に必要ないからです。気象予報士試験には実技問題がありますが、天気図を描くような問題は出題されません。もともと天気図マニアだった人を除けば、天気図が描けなくても気象予報士になれるのです。

気象関係者「さびしく思う」

大多数の人には、ラジオ天気図の放送回数の削減はどうでもいい話でしょう。でも、日本気象学会機関紙「天気」の編集後記(2014年3月号)を読んで、思わず共感してしまいました。

気象関係者の多くが、この気象通報に影響を受けたことは間違いなく、時代の流れとはいえ、一抹の寂しさを感じます。天気図を描く=予報官の基礎(職人技)であった時代も、遠くなりました。それでも、天気図は天気予報番組の定番であり、天気といえば天気図といえるほど、身近な存在でしょう。

天気図は大気の状態を現した、いわば「天気の指紋」のようなもので、一枚として同じ天気図は現れません。多くの人にラジオ天気図を描いてほしいとは思いませんが、天気図の奥深い世界に少しでも興味を持っていただけたらうれしいです。

【参考文献】

永沢義嗣,1995:天気図の散歩道,財団法人日本気象協会.

金田昌樹,2014:編集後記,天気,61,226.

大塚龍蔵,1991:やさしい天気図教室-天気図の書き方手引-,財団法人日本気象協会.

気象予報士/ウェザーマップ所属

民放キー局で、異常気象の解説から天気予報の原稿まで幅広く天気情報を担当する。一日一日、天気の出来事を書き留めた天気ノートは128冊になる。365日の天気の足あとから見えるもの、日常の天気から世界の気象情報まで、天気を知って、活用する楽しみを伝えたい。著作に『わたしたちも受験生だった 気象予報士この仕事で生きていく』(遊タイム出版/共著)など。

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