アメリカはクルド民族主義勢力の支配下にあるシリア北東部からも撤退、代わってUAE軍が展開か?
ジョー・バイデン米大統領は7月8日、ホワイトハウスで記者会見し、アフガニスタンからの駐留米軍撤退を8月31日に完了させると正式に表明した。また同月26日には、ホワイトハウスでイラクのムスタファー・カーズィミー首相と会談し、イラクへの軍事教練や助言は継続するとしつつも、年末までに同国でのイスラーム国に対する戦闘任務を終了すると表明した。
こうしたなか、シリアの反体制系サイトのジスル・プレスは8月3日、複数の独自筋からの情報として、シリアのユーフラテス川以東地域各所に駐留を続ける米軍部隊にも撤退の動きが見られると伝えた。
シリアへの違法駐留
シリアに駐留する米軍は、イスラーム国に対する「テロとの戦い」が根拠となっている。2014年8月からシリアでイスラーム国に対する爆撃を開始した米軍、そして有志連合は、クルド民族主義組織の民主統一党(PYD)が擁する民兵組織の人民防衛隊(YPG)、そして同部隊を主体とするシリア民主軍を「協力部隊」とみなし支援を続けてきた。そして、その過程でシリア政府の同意を得ないまま、各所に違法に基地を設置し、駐留した。
ドナルド・トランプ前大統領は、2017年末と2018年末にシリアに駐留する米軍部隊の撤退を決定(発表)したが、いずれも撤回した。2度目の撤退決定とその撤回に際しては、油田防衛を強調した。トルコのシンクタンクのジュスール研究センターによると、シリア国内には2021年1月現在、米軍主導の有志連合は33の基地があるという。
撤退をめぐる動き
ジスル・プレスによると、シリア民主軍の政治母体であるシリア民主評議会のイルハーム・アフマド執行委員会共同議長は、米軍部隊がシリアから近く撤退すると示唆したという。また、シリア民主軍のマズルーム・アブディー総司令官も、同軍司令官や北・東自治局の幹部らに対して、米軍からの直接の援護が行われなくなることを想定して準備を行うよう話したという。
PYDが主導し、ユーフラテス川以東地域を実効支配する自治政体の北・東シリア自治局の幹部の1人は匿名を条件に、米軍の撤退に合わせて、シリア民主軍の援護、北・東シリア自治局とシリア政府の対話支援を、アラブ諸国に移譲するための合意が交わされるだろうと述べた。そのうえで、アラブ首長国連邦(UAE)がその役目を引き受ける公算が高いと付言した。
UAEは、2011年にシリアに「アラブの春」が波及し、シリア政府が抗議デモや反体制派への弾圧を強めたことを受けて、同政府と断交していた。だが、2018年12月に首都ダマスカスの大使館を再開し、シリア政府との関係を修復している。
北・東シリア自治局の匿名幹部によると、8月1日に開催されたシリア民主評議会の年次大会に有志連合の代表が出席した真の目的は、米軍撤退に向けた軍事関連の措置の調整、シリア民主軍の兵士の従軍への補償金の支払い、米軍撤退後の必要な物資の提供だったという。