商店街活性化のヒント
■シャッター商店街化は防げる
東京都世田谷区にある下高井戸商店街は、都内でも活気のある商店街として知られている。そこに昨年12月にオープンしたばかりの店がある。「しもたか ふるさと屋商店」が、それだ。
ふるさと屋商店がオープンしたところでは、もともと味噌専門店が長く営業していた。そこの店主が高齢のため、店を閉めざるをえなくなったのだ。店主の高齢化と後継者不足、そして閉店・・・多くの小売店舗が直面している問題である。そういうところが増えていけば、シャッター商店街となっていく。
しかし下高井戸商店街の味噌専門店だったところにシャッターは降りなかった。ふるさと屋商店という新しい店が登場したからだ。
ふるさと屋商店の店主を、赤池英和氏という。もともとの味噌専門店とは縁もゆかりもない。それどこころか、赤池氏の本業はIT関連企業の経営で、小売業とは無関係、まったくの素人でありながらふるさと屋商店をオープンさせたのだ。
その赤池氏がふるさと屋商店を始めたのは、仕事の関係で日本全国をまわっていて、それぞれの土地に隠れた名産があることに気づいていたからである。もともとグルメの彼は、そうしたものへの感覚もするどい。そうした自分自身が興味をもった商品を並べた店を開くことは、彼の夢のひとつでもあったのだ。
オープンしたふるさと屋商店の店頭に並べられている商品を見てみれば、青森県「名川果汁」のこだわり100%ジュース、静岡県焼津市「丸又」の無添加という珍しい魚の練り物、長崎県雲仙市の郷土食を手軽に食べられるようにした「自転車飯の素」と、どれもこれもこだわりの一品ばかりである。下高井戸商店街にとっても多くの顧客を呼べる、貴重な店が登場したといえる。
赤池氏も夢を実現できたし、下高井戸商店街にとっても商店街にシャッターが降りたままの店舗ができて雰囲気を壊すのを回避できただけでなく、商店街に人を呼ぶきっかけになるような店ができたのだ。ますます活性化する可能性が高まったといえる。
高齢化や後継者問題によるシャッター店化を防ぎ、なおかつ商店街の活性化につなげるためには、味噌専門店がふるさと屋商店に替わったような変化が、どうしても必要なのだ。商店街の活性化には、「新陳代謝」が必要になってきている。
■新陳代謝に必要な商店街の機能
もちろん、新陳代謝も言うほど簡単ではない。まずは、赤池氏のようなアイデアと意欲のある人物を発掘しなければならない。
安全志向ばかりが強まっている世の中で、「冒険してみよう」という意欲のある人物を見つけだすのは容易ではない。ましてや、アイデアを持ち合わせている人物となると、さらにむずかしい。意欲があっても誰もがやっていることしかできないのでは、その店が採算とれるようになるのはむずかしいし、商店街の活性化につながっていく可能性にも乏しい。シャッター店になるよりはましでも、できるなら活性化につながる出店が望ましい。
かといって、赤池氏のような人物が皆無とはいえない。公募などの方法で広く呼びかければ、意外に意欲とアイデアのある人物が集まってくる可能性はあるだろう。要は、集め方の工夫しだいというところだろう。
そして、いちばん大事なのが受け入れ側の体制だ。シャッター街になってしまう大きな原因が、自分は店を閉めてしまうが、「安くでは貸したくない」という店主が多いことにある。
新規で店をやろうとすれば改装や仕入れなど、そこそこの資金が必要になってくる。そこに高い家賃となれば、二の足、三の足を踏んでしまう。新陳代謝がすすむわけがない。
ふるさと屋商店の赤池氏にしてもIT会社の経営者とはい、ふんだんに資金があったわけではない。家賃は安ければ安いほどよかったのだ。とはいえ、貸すほうもタダというわけにはいかない。そこで、両社のあいだに立って折り合いをつけたのが商店街である。
商店街は、やろうとおもえば、そういう機能を果たすことができる組織なのだ。同じ商店街のことだから相場もわかるし、自らも商売人の集まりなのだから、同じ商売をやろうとしている側の事情も苦労もわかる。貸す側と借りる側の折り合いをつけさせるには絶好の存在なのだ。そういう機能を商店街が果たしてこそ、商店街の活性化につながる新陳代謝が可能になる。
商店街は、ただ店が集まっているだけの場所ではない。自ら活性化の機能を果たしてこそ商店街として成り立つ。商店街の機能を失えば、シャッター商店街になるしかない。商店街活性化のヒントを、下高井戸商店街とふるさと屋商店との関係にみることができる。