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レーガン大統領元側近が見た東アジア情勢 北朝鮮への先制攻撃を望んでいるのは安倍首相?

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
新型のICBM「火星15」の発射実験に成功したと発表する金正恩氏。(写真:ロイター/アフロ)

 北朝鮮が、2ヶ月半ぶりに、弾道ミサイルを発射するという挑発行為に出た。“北朝鮮危機”が高まる中、「私が日本人なら、アメリカが北朝鮮をノックアウトすることを望むだろう」と言う知日派の識者がいる。レーガン政権時代に商務省審議官を務めた、米国経済戦略研究所所長のクライド・プレストウィッツ氏だ。プレストウィッツ氏は、日米貿易摩擦時代、アメリカの対日貿易赤字を解消するため、アメリカの自動車メーカーを日本市場に参入させようと尽力したことで知られる。日米関係に関する著書も多く、昨年『2050 近未来シミュレーション日本復活』(東洋経済新報社刊)を上梓した。プレストウィッツ氏は、現在の東アジア情勢をどう見ているのか見解を伺った。

中国は日本と同じ道を辿る

ーー先般のトランプ氏のアジア歴訪を全体的にどうご覧になられましたか?

トランプ氏は北朝鮮の非核化に対処する点で、安倍首相や文大統領と合意し、相互理解を得ることができたと思います。特に、安倍首相の支援はトランプ氏にとっては大きな助けになりました。APECの会議では、トランプ氏は大きな結果は得られなかったものの、各国のリーダーたちと良い関係を築くことができたと思います。全体的に、トランプ氏のアジア歴訪は上手く行ったと言えるのではないでしょうか。

ーー中国では28兆円を超える商談が成立しました。

中国は、過去に、日本が何度も行ったことを、これから行おうとしているのです。日米貿易摩擦時代、日本はアメリカに、ボーイングの航空機などを購入するための使節団を何度も送っていました。当時、日本の首相は、訪米する度に、貿易摩擦を解消するための小切手を書いていたのです。これからは、習氏が同じことをすることになるでしょう。しかし、購入するからといって、問題の解決には繋がらないと思います。

ーーそれだけ対中貿易赤字が莫大だからでしょうか?

トランプ氏は訪中の間は、非常にもの静かで、あまり多くを語らず、中国の貿易政策にも声高には反対しませんでした。しかし、ワシントンに戻ったら、トランプ氏のテンションは上がり、対中貿易赤字問題を訴え、米中間のコンフリクトはこれからも続くと思うのです。

日本の自動車ディーラーシステムのオープン化が貿易課題に

ーー日本については、トランプ氏は日本の自動車メーカーがアメリカでもっと自動車を製造することを望んでいるようです。

それは、アメリカの方が製造コストがかからないからかもしれません。アメリカでは、エネルギーコストや輸送コストが日本よりずっと安価です。コスト面を考えると、日本の自動車メーカーはアメリカで自動車を製造する方が理にかなっているのです。

むしろ、トランプ大統領や高官たちは、日本の自動車ディーラーシステムをオープンさせる方法について議論を持とうとするかもしれません。日本の自動車市場は、特定メーカーの特定ブランドしか扱わない販売店が多く、自動車メーカーが販売店をコントロールするシステムになっています。そんな日本の自動車ディーラーシステムが日本市場を独占しており、日本に車を輸出する海外企業は不利な状況に置かれています。そのため、日本の自動車ディーラーシステムのオープン化は正当な貿易課題になるでしょう。

また、首脳レベルでは、円が過小評価され、ドルが過大評価されているという為替交換率の問題も議論する必要があると思います。

中国に北朝鮮問題の解決は期待できない

ーー北朝鮮の非核化に関しては、良い方向に向かうと思いますか?

北朝鮮問題については、 “もうすぐ戦争になるかもしれない”と警告していた人もいたし、“トランプ氏の暴言が戦争を引き起こすかもしれない”と危惧する声もありました。しかし、今回の歴訪で、トランプ氏は習氏や安倍氏、文氏とより良いコミュニケーションができたので、人々は抱いていたリスクや危惧感を軽減させて、幾分、平静を取り戻すことができたのではないでしょうか。

ーーしかし、中国は今後、本腰を入れて、北朝鮮の非核化を支援するでしょうか?

中国は北朝鮮の非核化を支援してはいますが、ドラマティックなことはしないと思います。北朝鮮と対立することになるような大きなステップは踏まないでしょう。しかし、トランプ氏と習氏は、より良いコミュニケーションはできたと思うので、その意味では、今後、協力体制で北朝鮮に対処することができるようになるかもしれません。

ーー中国が大きなステップを踏めないのはなぜでしょうか?

中国は、自国の利益を考えると、朝鮮が分割された状態でいることを望んでいるからです。北朝鮮が独立していた方が、中国には助かるのです。また、中国と北朝鮮は長い間同盟国だったという歴史があります。朝鮮戦争の後も、中国は北朝鮮を支援しました。北朝鮮から得られる中国の利益は、アメリカや日本が得られる利益とは全然異なるものなのです。日米は非核化に向けて中国の協力を仰ぐことはできるでしょうが、中国にこの問題の解決を期待することはできないと思います。

ーー中国は石油の供給を完全に取りやめるでしょうか?

石油については、中国は北朝鮮への供給量を減らしはしましたが、完全に供給をストップすることはないでしょう。また、完全にストップしたとしても、ロシアが中国の代わりに、北朝鮮に供給するようになるかもしれません。そうなったら、同盟国側は結局目的を何も達成できなかったことになります。その意味では、トランプ氏はロシアを説得しなければなりませんが、それはとても難しいと思います。

先制攻撃したいのは安倍首相の方?

ーーやはり、対北では、日米韓の同盟が重要になってくるということですね?

問題は、対北朝鮮では、日米間では強い合意ができていますが、米韓間ではまだそれができていないということです。文大統領は左翼だし、北朝鮮問題についてはソフトな姿勢を取っています。韓国にとって、中国は最大の貿易相手国で、中国に大規模投資をしているからです。経済的に中国と強く結びついている韓国は、北朝鮮に対して厳しい政策をとって中国を怒らせたくないのです。

ーーアメリカによる先制攻撃を危惧する声も上がっていますが、どう思われますか?

トランプ氏は、日本の同意や支援なしには、北朝鮮への先制攻撃はしないと思います。だからまず、安倍首相に、アメリカの先制攻撃を支援する意思があるのかどうか聞いて下さい。トランプ氏自身は先制攻撃はしたくないと考えていると思います。むしろ安倍首相の方が、トランプ氏より先制攻撃を望んでいるのではないでしょうか? 

ーーそれはまた、どうしてでしょうか?

日本の位置を考えると、“北朝鮮危機”がなくなれば、日本の人々にとっては安心だし、ハッピーだからです。だからといって、日本は、自国だけで攻撃しようなどとは考えていません。しかし、アメリカが攻撃に成功したら、日本は大きな利益を得られることになります。その意味では、日本の人々の中には、トランプ氏が先制攻撃をしてくれたらと願っている人もいるのではないでしょうか? 極右の人に限らず、そう願っている人は多いと思います。

短期的損失か長期的損失か

ーーしかし、先制攻撃をして北朝鮮から反撃を受けたら、多数の死傷者が出るのは必至です。

アメリカが北朝鮮の核施設を全滅させることができたら、北朝鮮は国境付近にある軍事施設から韓国に対しては反撃するかもしれません。しかし、日本は被害を受けないと思います。そして、私が日本人だったら、アメリカが北朝鮮をノックアウトすることを望むと思います。

また、今の時点では、北朝鮮が核兵器を完成させたと言えるかは疑問です。核装置を爆破させる実験は繰り返していますが、それは、核装置をミサイルに搭載してターゲットに撃ち込むこととは違います。彼らが、核兵器を正確に撃ち込こむことができるかどうかは、まだ立証されていないのです。その意味で、現時点では、北朝鮮には“核戦力”はあるとは言えません。そのため、現時点で先制攻撃をしたら、韓国はダメージを受けるかもしれませんが、日本は安全だと思います。しかし、北朝鮮が“核戦力”を得るのは時間の問題。数年後には、日本も安全ではなくなるでしょう。私が日本人だとしたら、今は先制攻撃してもらう良いタイミングだと考えると思います。

問題は、我々が北朝鮮に、短期的視点で対処するか長期的視点で対処するかです。確かに、今、戦争が起きたら、多くの韓国の人々が被害を受けることになるでしょう。そのため、韓国は、先制攻撃によりすぐに生じる“短期的損失”を懸念しています。一方、日米は、北朝鮮に核兵器開発を続けさせることにより生じる“長期的損失”を懸念していると言えます。

ーー外交での解決はやはり難しいのでしょうか?

外交での解決は不可能ではないかもしれません。しかし、今の状況を見ると、とても難しいと思います。外交には対話が必要ですが、北朝鮮の方が対話をしようとしないからです。

 “対話は難しく、自分が日本人だとしたら今は先制攻撃してもらう良いタイミングだと思うだろう”というプレストウィッツ氏。しかし、いったん先制攻撃をしたら、大多数の死傷者や莫大な被害が出ることは必至だ。対話の重要性については、以下の拙記事でも紹介した。対話の回数と挑発の回数は逆相関関係があるという研究結果である。

“武士頼み”するトランプ大統領、足りないのは対話です!

 ティラーソン国務長官は「平和的に解決するための外交努力をあきらめていない」と話している。わずかでも“外交による解決”という可能性が残されているのなら、日米は何とか“対話の道”を切り開いてほしいところである。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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