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レノファ山口:リーグ戦今季初の連敗。ダブルボランチ採用に効果とリスク

上田真之介ライター/エディター
試合後に話し合う監督、選手たち=9日、山口市(筆者撮影。この記事の他の写真も)

 J2レノファ山口FCは9月9日、維新みらいふスタジアム(山口市)でモンテディオ山形と対戦し、0-1で敗れた。リーグ戦では今季初の連敗。ダブルボランチを採用して守備は安定したが、攻撃は無得点に終わった。

明治安田生命J2リーグ第32節◇山口0-1山形【得点者】山形=小林成豪(前半43分)【入場者数】4146人【会場】維新みらいふスタジアム

三幸と池上など中軸不在。練習は原点回帰

 レノファは今節、キャプテンの三幸秀稔が累積警告のため出場停止。今夏から背番号10を背負っている池上丈二も試合2日前の7日、右距骨骨軟骨損傷による加療のため離脱することが発表された。厳しい状況にはあるが、「耐えなければならないが、つらい時期を乗り越える。これが本当に成長するチャンスだと思う。1年間やり続けたことで足跡が見えてくる。失点には手を付けないというわけにはいかないが、変えないものは変えない。代わりに出た選手もプレーモデルを理解してくれている」(霜田正浩監督)として試合に出られるメンバーでの総力戦を誓い、ミーティングやトレーニングを通して戦い方の方向性そのものには手を加えないことを再確認した。

 方向性というのは、前線からプレッシャーを掛け、全体を押し上げていく攻撃的なスタイルだ。レノファはこのスタイルで序盤戦から勝ち点を積み上げてきたが、夏場以降は疲れが見えていたのも厳然たる事実で、前節は0-4の惨敗に終わっていた。2日間のオフを挟んだ5日、レノファは走り込みから1週間の練習をスタートさせ、ボールを使ったメニューでは選手同士が思わず言い合うほど激しい球際の奪い合いを見せた。「三幸は出られないが、今はほかの選手たちが奮起する番。全員で作り上げてきたものはある」(鳥養祐矢)。夏場に落ち込んだ本来の体力を呼び覚まし、戦う姿勢を思い出すトレーニングを構成した。

前節からスタメンは大きく変更。三幸に代わり、キャプテンマークは渡辺広大(後列左から3人目)が巻いた
前節からスタメンは大きく変更。三幸に代わり、キャプテンマークは渡辺広大(後列左から3人目)が巻いた

 スタメンは必然的に変容。三幸のポジションに佐藤健太郎を7試合ぶりに起用し、さらに「ロングボールをうちが跳ね返したときの、こぼれ球の拾い合いになるという予測があった。中盤で守備ができる、あるいは運動量の多い選手を」という狙いで前貴之もボランチに置いて佐藤と並べた。ディフェンスラインでは渡辺広大、瀬川和樹などを先発に戻し、攻撃面ではジュリーニョをトップ下に配置した。

セットプレーで失点。攻撃は単調に

 練習の成果に加え、ボランチの枚数を増やしたことで、明確にディフェンスが安定。レノファは立ち上がりの数分こそ落ち着かなかったが、すぐに最終ライン4枚と、ボランチ2枚、両サイド2枚の計8枚の網を機能させる。見立て通りの中盤での奪い合いになり、枚数の多さを生かしてマイボールにする場面も目立ったほか、自分たちのボールにできなかったとしても相手をサイドへと押し込み、ペナルティーエリア内への侵入を許さなかった。

ジュリーニョはボールを持てば力を発揮するが、前半はもらいに行く動きのほうが目立った
ジュリーニョはボールを持てば力を発揮するが、前半はもらいに行く動きのほうが目立った

 ただ、攻撃においては三幸を欠いたことと、前を一列上げたことで、サイドチェンジや斜めのパスが減少。受け手のジュリーニョはなんとかボールを引き出そうと右に左にと動き回ったが、代償として中盤が詰まり気味になってショートパスも入らなくなってしまう。これらの要因が重なって、レノファもボールをうまくペナルティーエリア内に送ることができなかった。

 「後ろのビルドアップが遅く、ジュリ(ジュリーニョ)も下がらざるを得ない状況になった。ボランチ、センターバック、サイドバックを含めて、そこでビルドアップしていかないと、相手をはがせない」(前)。中盤からボールを出す選択肢がなく、レノファは前半を瀬川のシュート1本に終わってしまう。

 双方が中盤で手をこまねくような展開の中、前半の少ないチャンスを生かしたのは山形だった。前半43分、レノファ陣内からのFKを起点に栗山直樹がヘディングシュート。左隅を狙ったシュートは3試合ぶりに出場のGK吉満大介が抑えるが、こぼれたところを小林成豪が押し込み、山形が1点をリードする。

 レノファにとって不運といえるのが、この一連のプレーの中で吉満の頭部に相手選手の脚が入ってしまったことだ。小林にシュートを打たれたとき吉満にとっては為す術はなかった。

 見方によればファールとも言えるシーン。ただ、ここを好セーブで難を逃れたとしても、栗山と小林に先にボールに触らせたのは間違いなく、失点で問題を浮き彫りにできたとも言えるだろう。吉満は「自分の判断としては間違っていないとは思うが、マークに付かせる選択はもう少し改善がいる。相手に付けていなかった。いつもよりも檄を飛ばして(守備陣を)締められたが、守備の意識はまだまだ」と受け止めた。

 全体的な守備は前節の大量失点を覆す安定感があったものの、セットプレーまでは修正が及ばず、レノファは0-1で前半を折り返した。

明暗ともに見えたダブルボランチの採用

 前半のゲーム内容から修正し、後半はジュリーニョへの供給が増加。後半のファーストシュートは同2分に放ったジュリーニョのミドルシュートで、これを足掛かりにジュリーニョは受けたボールを積極的にシュートにつなげていく。また、左サイドでは瀬川が岸田和人との連係から高い位置でボールを受け、何度かクロスボールを入れる。同23分には精度の高いクロスにオナイウ阿道が反応、惜しくもシュートは左に逸れるが、前半にはなかった決定機を作り出した。

 攻撃的なカードを切り、高井和馬、高木大輔、山下敬大を次々と投入。終盤は相手陣でボールを保持し続け、ジュリーニョは後半だけで6本のシュートを集中する。途中から入った選手も思い切りの良さを見せ、チーム全体でも11本のシュートを放った。しかし、FKに合わせて枠へと飛ばしたオナイウのシュートがGK児玉剛にセーブされるなど、レノファがゴールネットを揺らすことはなかった。

 0-1で敗れ、レノファは今シーズンのリーグ戦では初めての連敗。ただ11試合にわたって続いていた複数失点が止まり、守備の改善は見られた。

ボランチに入った佐藤健太郎(手前)と前貴之(奥)
ボランチに入った佐藤健太郎(手前)と前貴之(奥)

 失点を減らせた原因もきちんとした検証が必要となるが、ボランチを1枚増やした効果は決して無視できない。他方でボランチやサイドバックからのパスは弱めで、サイドチェンジで逆サイドに送ったり、縦のくさびで展開を一息に広げたりするレノファの強みが萎縮。FWに放り込むフィフティー・フィフティーのボールも目立った。

 システムがサッカーの全てではないものの、今節のダブルボランチはレノファがこれまで採用してきた「4-3-3」とは異なる。

 「4-3-3」の場合、最終ライン、アンカー、インサイドハーフ、ウイング、センターFWと重層的に折り重なり、ピッチ上に三角形やダイヤモンドを作りやすい。パスの選択肢が多く、斜めに効果的なパスを送り出しやすい形だ。ノートにポジションを書き込み、近いポジション同士を線で結ぶと分かりやすいが、大半の線が斜線になることからも、「4-3-3」の特徴が見えてくる。ショートパスと斜めに横断するパスを使うレノファにとっては、使い勝手のいいシステムと言えるだろう。

 その一方で、4バックでダブルボランチの場合、意図するしないに関わらず縦線と横線の多い「4-4-2」や「4-4-1-1」になりやすい。このシチュエーションでは、相手を挟み込んでボールを絡め取りやすくなる反面、守備から攻撃に切り替わった時に能動的に動かなければボールは斜めには動かせない。カウンター狙いのチームであれば8枚で守って2枚で勝負させることもできるが、レノファのサッカーで機能させるにはクレバーで鋭敏な動きが全員に求められる。今節は落とし込みが不十分だったと言えそうだ。

 「ジュリーニョの足元にもっとたくさん入れてほしかったが、作りの部分で縦パスが入ることがなかった。ダブルボランチにしたことで、メリットもあったが、デメリットも出てきた」(霜田監督)。攻撃の単調さは主力選手の不在によるところが大きいとは考えられるが、ダブルボランチを採用したことの光も影も見えた試合だった。

サポーターに頭を下げる試合が続くが、トンネルから抜け出す策が見えないわけではない
サポーターに頭を下げる試合が続くが、トンネルから抜け出す策が見えないわけではない

 試合後、霜田監督や選手たちは輪を作って「足を止めるわけにはいかないし、諦めるわけにはいかない。また次勝とう。勝てるまでやろう」(霜田監督)と誓い合った(=カバー写真参照)。

 レノファは次戦はアウェー戦となり、9月15日午後1時から松本平広域公園総合球技場(アルウィン)で松本山雅FCと対戦する。

 今節の試合が気持ちの見えたゲームだったのは言うまでもないが、結果を持ち込むためには、まだいくつもの修正や積み上げが必要。霜田監督がどのようなフォーメーションを採用し、ピッチに戻ってくる三幸がいかにゲームを作り上げるのか。アウェー戦とはいえ、次戦も采配やゲーム内容が楽しみな試合になる。

ライター/エディター

世界最小級ペンギン系記者・編集者。Jリーグ公認ファンサイト「J's GOAL」レノファ山口FC・ギラヴァンツ北九州担当(でした)。

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