なぜチェルシーは“94億円”でククレジャを獲得したのか?トゥヘルの思惑とバルサのカンテラーノの逆襲。
記録的な移籍金で、オペレーションが成立した。
チェルシーが、マルク・ククレジャの獲得を決めた。移籍金6800万ユーロ(約94億円)のオファーをブライトンに提示して、マンチェスター ・シティとの争奪戦を制した格好だ。
「とても幸せだ。世界最高峰のクラブに加われるというのは、僕にとって大きなチャンス。自分自身が満足できるように、そしてチームを助けられるように、精一杯働きたい」とはククレジャのコメントだ。
他方で、「ククレジャは素晴らしい選手だ。彼の特徴というのは(セサル・)アスピリクエタのそれに似ている」と語るのはトーマス・トゥヘル監督である。
「ククレジャは若い選手で、野心がある。縦に速く、非常にインテリジェントだ。我々のシステムで、複数のポジションでプレーできるだろう」
■高額な移籍金
この夏、マンチェスター・シティがアーリング・ハーランドを、リヴァプールがダルウィン・ヌニェスを高額な移籍金で獲得している。一方、DFの選手というのは高額な移籍金が発生しにくい。
過去の移籍金ランキングを見れば、それは明らかだ。ハリー・マグワイア(マンチェスター・ユナイテッド/2019年夏/移籍金8700万ユーロ)、マタイス・デ・リフト(ユヴェントス/2019年夏/移籍金8550万ユーロ)、フィルヒル・ファン・ダイク(リヴァプール/2018年1月/移籍金8465万ユーロ)、リュカ・エルナンデス(バイエルン・ミュンヘン/2019年夏/契約解除金8000万ユーロ)、そしてククレジャ(移籍金6800万ユーロ)が続く。
ただ、チェルシーは今夏、守備陣の補強を必要としていた。アントニオ・リュディガーがレアル・マドリーに、アンドレアス・クリステンセンがバルセロナに移籍。現在、マルコス・アロンソがバルセロナ移籍に近づいている。
ナポリから移籍金4000万ユーロでカリドゥ・クリバリを獲得したチェルシーだが、トゥヘル監督はさらなる補強を必要としていた。そこで、ククレジャに白羽の矢が立てられた。
■バルセロナのカンテラとエイバル移籍
ククレジャはバルセロナのカンテラ出身選手だ。細かく言えば、彼は元々、エスパニョールのカンテラでプレーしていた。カデテ(ジュニアユース)世代でバルセロナに入団し、以降、トップチームを目指してトレーニングに励んだ。
2017−18シーズンには、エルネスト・バルベルデ当時監督の下、19歳でトップデビューを飾った。だがバルセロナのトップで活躍できるサイドバックとは思われていなかった。
バルセロナは2018年夏にククレジャをエイバルにレンタル放出した。
ホセ・ルイス・メンディリバル当時監督に重宝され、ククレジャはエイバルで躍動した。ダブルサイドバックを好む指揮官のチームで、左サイドバック、左サイドハーフでピッチを走り回った。彼のウィングバックとしての素質はそこで磨き上げられた。
「ククレジャは素晴らしいプレーをした。もちろん、彼だけではないけれどね」
「ククレジャはこれまで1部の試合であまりプレーしていなかった。加えて、サイドハーフというポジションは、彼の本来のポジションではない。彼は非常に足が速い選手ではない。特別にフィジカルが強いというわけでもない。どのような機械でも、彼を正確に測ることはできないだろう。彼は賢くて、常に良い判断をする。つまりは、真のフットボーラーなんだ」
これはメンディリバル監督の言葉だ。
エイバルは移籍金200万ユーロで、ククレジャを完全移籍で獲得した。一旦、バルセロナが買い戻しの権利を行使して400万ユーロで復帰させたが、最終的にはヘタフェが1年レンタルの後に移籍金1000万ユーロでククレジャを買い取った。そして、昨年夏、ブライトンが移籍金1800万ユーロでククレジャを引き入れた。
「僕はバルセロナのカンテラーノだ。バルセロナでは、カンテラ出身の選手にチャンスが与えられていないと思う。それに値する選手がいるにもかかわらず、だ。フットボールの世界では、忍耐より勝利が重要になってしまった」
かつて、ククレジャはそう語っていた。
恨み節を口にした気持ちは、分からないではない。実力を備えてはいたのだ。それを証明して、いま、チェルシーというビッグクラブで、トゥヘルという世界最高峰の監督が、彼を歓迎している。