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友近に聞く、新体制エージェントとコロナ禍で変化した仕事観。

佐藤裕はたらクリエイティブディレクター
憑依(ひょうい)芸を武器に新たな挑戦を続ける芸人友近(画像提供|ご本人)

新型コロナウイルスの影響が2年以上続く中、人々のあらゆることに対しての価値観が変わった。オンライン化が進み、人とのコミュニケーションが希薄になることで家族、友人・恋人関係が変化し、外出や旅行の自粛、巣ごもり時間が多くなることで人生観が変わる人も少なくない。当然、仕事や働くということに対しての価値観の変容も著しく、働く場所やステータスに対しての考え方は特に変化したように感じる。

コロナ禍で働く人の中で特に多いのは、組織において自分の役割や仕事のやりがいについて改めて考え直すきっかけになったという意見で、日本には未だに根深く残る年功序列の考え方やひとつの仕事に縛られ「働くことを楽しめていない=人生を前向きに捉えきれていない人が多い」現実の中、いよいよ日本も新時代を機に雇用形態を含めて進化しなければならない。

海外では「専属エージェント契約」は一般的

雇用形態の進化と言えば、日本の芸能界では女優やタレント・芸人が所属事務所から離れ個人事務所を立ち上げるなど独自で活動する人が多くなった。最近では吉本興業からなかやまきんに君が退所することで話題となったり、少し前には吉本興業に「エージェント契約」が導入され、言葉そのものについても浸透し始めている。

実は海外ではハリウッドやプロスポーツ界が分かりやすい例になるが「専属エージェント契約」が一般的だ。日本で話題になった吉本興業のエージェント契約は従来のマネジャー制ではなく自分で雇用をしたマネジャーが仕事を獲得、管理するという新しいカタチを導入したことになる。そこで、今回はコロナ禍で雇用形態を「エージェント契約」に切り替え、新たな挑戦を続ける芸人友近さんに話を伺った。

現在の仕事のやり方について

――コロナ禍で友近さんの活動は如何でしたか。

「ありがたいことにテレビの仕事はそこまで影響はなかったんですが、舞台やコンサートは影響ありましたね。テレビはトーク番組のひな壇のように密になりがちな番組構成から、感染対策ができるネタ番組が数多くコロナ禍では生まれたことが大きいと思います。千鳥のクセがスゴいネタGPがその代表で、新しいネタを披露できる場でもありますしそれを見てくださった方がお声がけしてくださるというサイクルが出来たように思います。

他にはエージェント契約になったことで、今まではスケジュールの都合などでどうしてもお受け出来なかった地元のお仕事や地方ロケも積極的にお受けすることができるようになりました。そして講演や水谷千重子西尾一男などのライブ・イベントなど自分が先方さんと直接やりとりする分お仕事の幅は広がりました。InstagramYouTubeの挑戦も広がりのひとつと言えます。

取材でもオフの時も常に笑わせてくれる友近さん(撮影|中山友莉菜さん)※撮影時のみマスクを外しています。
取材でもオフの時も常に笑わせてくれる友近さん(撮影|中山友莉菜さん)※撮影時のみマスクを外しています。

コロナ禍でYouTubeのリモートユニットコントが実現できました。テレビにこだわらず「ネタを追求」している方々のお仕事は今でも刺激になり、新しい価値を創りだすきっかけになっています。バッファロー吾郎Aさん、ロバートの秋山さんには特にライブなどでもお手伝い頂いていますし、ふざけたことを大真面目にできる楽しいし仲間であり戦友で刺激をもらえて、いつも感謝しています」

吉本からの仕事と自分で獲得する仕事のバランス

――実際のところ、エージェント契約は如何でしょうか。

「正直なところ、はじめは仕事が増えるのか、減るのかも分からずとにかく求められるお仕事と向き合っていましたが、徐々にこれまで同様に吉本興業さんからパス頂けるお仕事と自分達で獲得するお仕事、新たに創り出すお仕事とのバランスが取れるようになって来ました。

気付いたことは、今までのように吉本さんのマネジャーがいるわけではない為、自分で自分をマネージメントする必要があります。それだけでは限界があるのでプラス専属マネジャーも自分で雇って仕事を手伝って頂いてます。高いプロデュース力が必要とされるので私自身、この2年でセルフブランディングへの意識が高まりました。

とは言え、比較的自分のペースで働けて、仕事の選択も可能になるので私みたいにクリエイティブな活動が好きで新しい価値を創り出していきたいというタイプには向いていると思います。すべての芸人さんにお勧めとはまだ言えないですね」

友近が必要とされる場所で、純粋に楽しんでもらいたい

――この2年間で変化したことはありますか。

「やっぱり「スピードと幅」ですね。環境の変化もあってお仕事を直接お受けすることになるのでこれまでとスピード感は全く変わりましたし、吉本さんが営業してくださり「友近式コミュニケーション術」のような働く方々に向けた講演の依頼を頂いたり今までとはまた違ったお仕事もさせて頂いてます。

そして、より「友近が必要とされる場所に行きたい」という想いをカタチにでき始めていること。水谷千重子西尾一男の憑依(ひょうい)芸というんでしょうか?キャラを理解して観てくれている方はもはや「水谷千重子は水谷千重子、西尾一男は西尾一男」と思ってくださっているファンの方がいらっしゃるのでその方々を裏切りたくないという想いは強いので、ひとつのライブやイベントではその憑依芸をやり抜くようにしています」

徳男と徳子 オレだよ、アタシだよ2022

――まだまだ憑依芸は続けていきますか。

「はい!やりたいですね、好きなんで(笑)。私の場合、キャラクターを開発していくよりも、感覚で自然と真似したりそれこそ憑依してみて、それを周囲の方々がキャラとして確立してくれているので、この先も面白いキャラは誕生させたいと思っています。ちょうど、私とハリセンボンの春菜で生み出した男女キャラクター徳川徳男・徳子が初の全国ツアーを開催することになっています。全国の皆さんの「オレだよ、アタシだよ」ごっこの動画を募集はライブ会場のネタ集めでありながらも、全国のご家族・友達・カップル・お一人様を元気にするような企画になればという想いもあって挑戦しています」

初の全国ツアー開催が決まった友近さんとハリセンボン春菜さんが生み出した男女キャラクター「徳川徳男・徳子」(本人提供)
初の全国ツアー開催が決まった友近さんとハリセンボン春菜さんが生み出した男女キャラクター「徳川徳男・徳子」(本人提供)

『あさが来た』以来のNHK女優に意欲?

――コロナ禍はまだ続きますが、この先のキャリアイメージは。

「とにかく芸人として、必要とされ求められる環境でお仕事がしたい。そこで、純粋に笑って楽しんでもらうことが私の価値だと思うので、やっぱり芸人にこだわっていきたいです。その結果、新しいお仕事に巡りあうことを自分でも期待しているところがあって、水谷千重子をただのイロモノキャラ扱ではなく、純粋に水谷千重子という人格、活動に評価をしてくださった方々が明治座・博多座まで連れて行ってくれたようにピュアにお仕事に向き合いたいです!

実は水谷千重子のライブの中にある笑いは海外でも通用すると評価を頂くこともあるので、コロナが落ち着いたら千重子はハワイにいきます(笑)

そして、変わらずお芝居にも興味はありますから女優のお仕事にもどんどん挑戦していきたいです。NHKの連続テレビ小説朝ドラマをまたやらせて頂きたいです(笑)」

NHKの連続テレビ小説朝ドラマで主人公を支える女中・うめを好演していた友近さん(本人提供)
NHKの連続テレビ小説朝ドラマで主人公を支える女中・うめを好演していた友近さん(本人提供)

怒りのエネルギーから生まれた「ヒール講談」

芸人として純粋に面白い、圧倒的な歌唱力、女優としての演技力と友近さんのマルチな活動は芸能界で特別なポジションになっている。そこに、とことん追求するスタンス、常にアンテナを張って新しい情報を受信する習慣、新しい価値を創造することを継続するというビジネスの世界でも活躍する、成長する為に必要な要素を備えている点が、今の友近さんを支えているように感じる。

テレビやSNS市場でも話題になりファンも急増している『ヒール講談』はその芸の斬新さやクオリティの高さに注目が集まりがちだが、あの切り口のネタはどういう思考で生まれるのか?ご本人に聞いていると友近さんならではのきっかけがあった。

「ロバートの秋山さんの楽屋で仕事のことで話を聞いてもらってる時に感情的になって床を強く蹴った時に鳴った音があまりにいい音で(笑)、そこで『このヒールは使える!』と思ってヒール講談まで繋がりました」

このように友近さんは常に「新しい価値になるネタ」を探すという意識をしているからこそ人が気付かないチャンスを手にするのだと思う。

芸の斬新さやクオリティの高さで注目が集まり、若者の中でも人気のネタ「ヒール講談」(本人提供)
芸の斬新さやクオリティの高さで注目が集まり、若者の中でも人気のネタ「ヒール講談」(本人提供)

今だからこそ自分の役割や仕事のやりがいと向き合いたい

働く人々だけでなく、学生達も思考や価値観が変わっている今、我々が考え、世の中の変化に対応していく中で友近さんのように「その環境の中で自分を理解して価値を見出す」スタンスが重要になってくる。

その為に、常に世の中の新しい情報をインプットしながら日本だけでなくグローバル市場がどう動いていて、今後どのように変化していくのかを予測していく力が今、求められているということ。

雇用形態にこだわることなく、自分に適した働き方を選択すること。そして、自分が必要とされる環境で純粋に顧客や自分に期待している人と向き合って、出来る限りの価値を発揮する。その積み重ねが、新しい道を切り開くというシンプルだが新時代に本当に重要な考え方を持つ必要がありそうだ。

コロナ禍でもし組織において自分の役割や仕事のやりがいについて悩んでいる人がいるならば、今回の記事を自分事に落とし込み、改めて考え直すきっかけにして頂ければと思います。

そして、引き続き芸人だけでなく、歌や演技の領域でも新たな挑戦をしていく友近さんに期待をしたい。今年、またNHK女優としての友近さんを観れる日が楽しみだ。

はたらくを楽しもう。

【芸人|友近】

2000年デビュー。

2003年にNHK新人演芸大賞で大賞をはじめ、ABCお笑い新人グランプリで優秀新人賞、NHK上方漫才コンテスト優秀賞を受賞。お笑い芸人として活動する一方、女優としても舞台、ドラマに多数出演。映画「嘘八百」で第28回日本映画評論家大賞助演女優賞受賞。

代表作はNHK朝ドラ「あさが来た」、映画 「全裸監督2」「老後の資金がありません!」など。

演歌歌手「水谷千重子」やプロアルバイター「西尾一男」としても活躍中。

2021年には明治座・博多座で水谷千重子座長公演を開催。

徳川徳男・徳子の全国ツアーが決定!

(全国の皆さんの「オレだよ、アタシだよ」ごっこの動画を募集

YouTube「友近/演楽チャンネル」

水谷千重子名義Instagram

はたらクリエイティブディレクター

はたらクリエイティブディレクター パーソルホールディングス|グループ新卒採用統括責任者、キャリア教育支援プロジェクトCAMP|キャプテン、ベネッセi-キャリア|特任研究員、パーソル総合研究所|客員研究員、関西学院大学|フェロー、名城大学|「Bridge」スーパーバイザー、SVOLTA|代表取締役社長、国際教育プログラムCAMPUS Asia Program|外部評価委員などを歴任。現在は成城大学|外部評価委員、iU情報経営イノベーション専門職大学|客員教授、デジタルハリウッド大学|客員教員などを務める。 ※2019年にはハーバード大学にて特別講義を実施。新刊「新しい就活」(河出書房新社)

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