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「受諾します 安心できない その言葉」人事担当者川柳から読み取る売り手市場で奮闘する人事担当者の本音

佐藤裕はたらクリエイティブディレクター
人事担当者川柳|出展:株式会社ディスコ キャリタスリサーチ

株式会社ディスコのキャリタスリサーチが発表した2024年卒・新卒採用に関する企業調査-中間調査人事担当者川柳が紹介され、日々の新卒採用業務を振り返り、最前線の目線で感じていることが川柳で詠まれている。

コロナ禍が変化をして、大混乱した新卒採用市場からコロナ禍前の売り手市場に戻りつつある中で、就活生の心を掴もうと日々、奮闘する採用担当者の心境が表現された句や、内定承諾に苦慮する句、採用担当者の本音がうかがい知れる句が目立っている。

内定辞退者は前年比較で増えた

内定辞退者数は前年比較で増加傾向|出展:株式会社ディスコ キャリタスリサーチ「2024 年卒・新卒採用に関する企業調査-中間調査」より
内定辞退者数は前年比較で増加傾向|出展:株式会社ディスコ キャリタスリサーチ「2024 年卒・新卒採用に関する企業調査-中間調査」より

キャリタスリサーチによれば、内定辞退者については、前年比較で増えた企業が31.2%で、思うように内定承諾を得られない企業が少なくないことがわかる。中でも従業員1000人以上の企業においては増加企業が約4割と高いが39.5%、大手企業は面接開始や内定出しが早かったことで辞退増に繋がったと考えられる。内定出しの時期が遅い中小企業ではこれから辞退者が増える可能性もある。

人事担当者川柳|出展:株式会社ディスコ キャリタスリサーチ「2024 年卒・新卒採用に関する企業調査-中間調査」より
人事担当者川柳|出展:株式会社ディスコ キャリタスリサーチ「2024 年卒・新卒採用に関する企業調査-中間調査」より

素直すぎる学生の本音はどこに?

採用担当者の本音として、御社が第一志望です御社に決めていますという言葉は一見、安心感があり嬉しい側面があるものの、後から魅力的な企業に出会って志望度が落ちたり、辞退に繋がるかもしれないと想像させる言葉でもある。句にある素直すぎというのがリアルな本音で、ここ数年の傾向でもあるが学生が企業に迎合することなく、はっきりと意見や心境、状況を選考中に発言するケースが増えており、採用担当者が戸惑っていることもある。

人事担当者川柳|出展:株式会社ディスコ キャリタスリサーチ「2024 年卒・新卒採用に関する企業調査-中間調査」より
人事担当者川柳|出展:株式会社ディスコ キャリタスリサーチ「2024 年卒・新卒採用に関する企業調査-中間調査」より

複数の企業に内定承諾をする

10年以上前の就職活動は就活生が内定承諾書にサインをして企業に提出することで就職活動が完結するという暗黙があった。ところが、近年、コロナ禍で複数の企業に内定承諾書を提出することは珍しくない。オンライン就活で企業の本質が理解できず、社員とのコミュニケーションもオンラインばかりで、入社後のイメージがつかないので、内定式をはしごして、どの企業に入社をするかを決める。つまり、複数社の内定を辞退するということになる。

そんな就活生の価値観の変化や行動を理解している採用担当者は就活生が内定承諾をしてくれても、数カ月後に辞退されるリスクを常に抱えているので安心ができないというリアルがこの句からはうかがい知れる。

人事担当者川柳|出展:株式会社ディスコ キャリタスリサーチ「2024 年卒・新卒採用に関する企業調査-中間調査」より
人事担当者川柳|出展:株式会社ディスコ キャリタスリサーチ「2024 年卒・新卒採用に関する企業調査-中間調査」より

企業説明会や入社式に親の姿

コロナ禍以前から就職活動は家族のライフイベントのひとつとして認知されています。大学の入学式や卒業式に親が参加するケースも増え、就職活動における企業説明会、入社式に親が参加するという、ひと昔前にはなかった景色がある。

この現象や近年における親子関係、就職活動に親がどこまで干渉するかという点までも採用担当者は理解しているので、急に就活生から辞退連絡が来れば、親の影がちらつくのも無理はない。

ここ最近では子供が志望する業界が分かれば、親がネットで業界研究をして子供に共有したり、選考中の企業を調べ上げ、他社の受験を勧めるような行動をするケースもあるという。

人事担当者川柳|出展:株式会社ディスコ キャリタスリサーチ「2024 年卒・新卒採用に関する企業調査-中間調査」より
人事担当者川柳|出展:株式会社ディスコ キャリタスリサーチ「2024 年卒・新卒採用に関する企業調査-中間調査」より

採用担当者が怖がる月曜日

就活生から内定辞退の連絡が来るタイミングを採用担当者は感覚で理解しています。曜日で言えば、月曜日や祝日明けです。時期で言えば、5月のGW明け、夏休み明け、年始めになります。就活生が実家に帰省するタイミングで家族に就職活動の状況を共有した際に何らかのネガティブ意見で打ち返されて、辞退になるタイミングがそこに集中するからです。ここでも家族や親からの影響で就職活動の方向性を変えてしまうという近年のリアルが垣間見える。

人事担当者川柳|出展:株式会社ディスコ キャリタスリサーチ「2024 年卒・新卒採用に関する企業調査-中間調査」より
人事担当者川柳|出展:株式会社ディスコ キャリタスリサーチ「2024 年卒・新卒採用に関する企業調査-中間調査」より

リアルプレゼンテーションの機会が急激に増えた

コロナ禍までは採用担当者はインターンシップや会社説明会など、日々自社のPRをするためにただ、大きな声ではなく熱量高く、心のこもったプレゼンテーションを繰り返し、徐々に喉が鍛えられて、強くなるという経験をしたプレゼンターは多いのではないでしょうか。採用担当者だけでなく学校の先生や講演者は同じ経験をしているはずです。

ところが、コロナ禍で急にあらゆるプレゼンテーションの場はオンライン化され大きな声を張り上げる必要がなくなっていたところ、直近でリアルな場でのプレゼンテーションの機会が増えている。特に2024年卒向けの新卒採用はリアルの場が急激に増えているので、久しぶり過ぎて声が枯れるという表現をしたのでしょう。

人事担当者川柳|出展:株式会社ディスコ キャリタスリサーチ「2024 年卒・新卒採用に関する企業調査-中間調査」より
人事担当者川柳|出展:株式会社ディスコ キャリタスリサーチ「2024 年卒・新卒採用に関する企業調査-中間調査」より

採用担当者の心の叫び

近年の採用活動は様々なシステムやツールがあり業務効率化が進んでいる。中でも就活生のエントリー管理やイベント・説明会・面接参加など就活生の集客に関することもデジタル化されている。

一方で、就活生から見える景色で言えば、これまでは移動という物理的な理由で就職活動は時間に限りがあるという通説が、コロナ禍でオンライン就活が急増すると、とりあえずエントリーも可能になり、当日のイベントや説明会、面接をキャンセルして、そのまま選考辞退をすることもある意味で簡単になっている。

ここで詠まれた句は、そんな就活生たちがとりあえずエントリーで予約だけしていた会社説明会を当日になって他の面接や講義の都合でキャンセルをする際に、キャンセルボタンひとつで企業には連絡が届くものの、それすらしない就活生たちへの採用担当者の心の声で、日々、説明会にどれくらいの就活生を集客するかを一生懸命頑張っている採用担当者には共感性が高いはずです。

人事担当者川柳|出展:株式会社ディスコ キャリタスリサーチ「2024 年卒・新卒採用に関する企業調査-中間調査」より
人事担当者川柳|出展:株式会社ディスコ キャリタスリサーチ「2024 年卒・新卒採用に関する企業調査-中間調査」より

やりたいことよりも福利厚生

コロナ禍で就活生たちの働くことへの価値観やキャリアに対しての考え方が大きく変わった。コロナ禍前のように、就職活動が始まると、まずは先輩から古い就職活動のフォーマットをインプットされて、自己分析をして自分の視野の中にある興味で志望業界を決めていた。ところが、コロナ禍では先輩からのインプットどころか同級生の中での情報交換も少なくなった。となれば、ネットや家族からの情報で就職活動を進めるので、様々な変化が起きている。

コロナ禍前はやりたいことや夢、誰と働くのか、社会貢献性があるのかなどを志望動機の軸として考えるケースが多かったが、コロナ禍では企業や働く環境に安定性を求める文化ができ始めていることもあり、福利厚生、特に休暇数を企業選定の判断ポイントに考える就活生が増加しているため、川柳でもシンプルに詠まれている。

人事担当者川柳|出展:株式会社ディスコ キャリタスリサーチ「2024 年卒・新卒採用に関する企業調査-中間調査」より
人事担当者川柳|出展:株式会社ディスコ キャリタスリサーチ「2024 年卒・新卒採用に関する企業調査-中間調査」より

就職活動にもチャットGPT

今年になってチャットGPTの話題が日本でも多くなった。株式会社ベネッセi-キャリアの調査によると、学生らの就職活動でチャットGPTを活用する動きが広がっている。企業に提出するエントリーシートの作成や面接対策などに使用しているケースが多くなり、調査では大学生の4人に1人が就職活動に生成AIを活用した経験があると回答している。採用する側の企業はこれまで以上に、採用すべき学生の見極めに苦慮しているのが現実のようです。そんなトレンドと内定辞退者が増加する悩みを上手く句にして本音を可視化している。

新しい時代には『新しい就活』を

コロナ禍で人々の生活やキャリア、働くことへの価値観は大きく変わりました。その中でも大きな影響を受けた学生たちにとっては、古い就活から新しい就活に移行する大きなチャンスでもある。

まずは自己分析をして視野の狭い中で強引に夢を定め、業界研究をしてES添削を繰り返し、面接対策をして自分らしくない自分を作り上げるような古い就活はコロナ禍でアップデートした企業の採用担当者には通用しないでしょうし、企業(社会)が新時代だからこそ学生に期待することを考えれば、就職活動もアップデートする必要がある。

今、企業(社会)が本当に求めていることを理解して、他人と比較することでも、目先のやりたいことでもなく、変化し続ける新時代で如何に自分が自分らしくあるべき姿で活動していけるのか?働くを楽しめるのか?をじっくり考える必要がある。となれば、就活生一人ひとりの準備も変わるはず。

企業の採用担当者は、これまでのような就活ルールの枠で考えるのではなく、学生の視点になって、正しい評価をしてお互いがHappyになる採用にすべく新しい就活を科学して頂きたい。

はたらくを楽しもう。

はたらクリエイティブディレクター

はたらクリエイティブディレクター パーソルホールディングス|グループ新卒採用統括責任者、キャリア教育支援プロジェクトCAMP|キャプテン、ベネッセi-キャリア|特任研究員、パーソル総合研究所|客員研究員、関西学院大学|フェロー、名城大学|「Bridge」スーパーバイザー、SVOLTA|代表取締役社長、国際教育プログラムCAMPUS Asia Program|外部評価委員などを歴任。現在は成城大学|外部評価委員、iU情報経営イノベーション専門職大学|客員教授、デジタルハリウッド大学|客員教員などを務める。 ※2019年にはハーバード大学にて特別講義を実施。新刊「新しい就活」(河出書房新社)

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