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日本人の「仕事への熱意」145ヵ国最下位の5%をこれから社会人を目指す学生はどう見ているのか。

佐藤裕はたらクリエイティブディレクター
(写真:アフロ)

4月に社会人デビューした新卒社員が数日で退社するスピード離職の話題は配属ガチャから退職代行サービスまで議論が拡大している。そんな中、これから社会に飛び込もうとしている就活生や大学低学年生は、日本の働く環境をどのように見ているのだろうか。

「熱意ある社員」5%

昨年、米ギャラップ社がまとめたグローバル職場環境調査によると、仕事に対して熱意や職場への愛着を示す社員の割合が2022年は5%と日本は4年連続で横ばい、7年前の調査からは2ポイントも落としている。調査した145か国(データサンプル数が少ない国を除く)の中でイタリアと並び、日本は最下位だった。つまり世界最低水準がいまだに続いているということだ。ちなみに、世界最高は30%を超えるアメリカで、世界平均は23%と日本がどれだけ世界から働く熱意が離されているかがわかる。

日本人の「仕事への熱意」は145ヵ国で最下位の5%|出典=米ギャラップ社
日本人の「仕事への熱意」は145ヵ国で最下位の5%|出典=米ギャラップ社

グローバルでは右肩上がりのエンゲージメント

ビジネス社会においてはエンゲージメント率の低い職場では、生産性は低くなり離職率も高まり悪循環を起こすことになる。グローバルでは年々エンゲージメント率が上がっている一方で日本は10年近く大きな変化はない。

要因として考えられるのは、日本人の働くに対しての思考の変化だ。メンバーシップ型雇用(新卒社員を総合職として一括採用し、勤務地や業務内容を限定せずに雇用契約をする)による、終身雇用・年功序列などの仕組みの中で、同じ環境で長期就業するのではなく、近年メディアでよく見かけるジョブ型雇用(職務内容と求めるスキルを限定して採用、雇用契約する)によって、キャリア、ライフデザインを自ら選択する。つまり転職や副業、独立など様々な可能性を視野に入れながら働くという考え方にシフトしている。

エンゲージしている社員の世界平均から日本は大きく離されている|出典=米ギャラップ
エンゲージしている社員の世界平均から日本は大きく離されている|出典=米ギャラップ

就社から就職へ変わる就活意識

佳境を迎えている25卒就職市場で既に内定を複数獲得している都内の大学4年生は

内定承諾をした会社は3年から5年の勤務で考えていて、次のステップに早く進みたい。自分にビジネス社会で本格的に戦えるスキルが身に付けば、そのタイミングで選択できる道の中で判断したい』と話す。また、スタートしたばかりの26卒向け就職市場で複数企業のインターンシップにエントリーしている関西の大学3年生は『会社の規模やブランドではなく、自分自身を評価してもらえる環境を探したい。年功序列ではなく、市場価値が得られるようなスキルや経験が得られれば就職した環境で長く勤めたい。でも、他の企業からオファーされるような社会人にはなりたい』と話す。

コロナ禍以降の就職活動は、大学生活の変化から先輩から教えてもらう就活よりも親やネット、就職支援ビジネスから就活を学ぶ学生が増えている影響もあって古い就活の価値観を持っている学生は少しずつ減少している印象だ。終身雇用がほぼなくなる社会では個の力が求めらる。そして、それが本当の自分自身の安定に繋がるということの理解が進んでいるように感じる。

今のビジネス社会はどう見える?

都内、関西の大学低学年生に米ギャラップ社のデータやスピード離職、配属ガチャ、古い就活と新しい就活を解説してディスカッションをしてみると意外と冷静に現実を捉える傾向があった。

家族やバイトの先輩から仕事が楽しいという話は聞かないので、正直「そんなもん」として割り切るようにしている。だからこそ、自分が楽しめる、嫌な環境でも何か身に付くことを期待したい

若い世代がもう少しで社会の中心になるので、価値観が若返って、古い文化が変わると思っている。その時は、個の力を評価されるような環境になっていると考えている。だから、新卒で働く環境は意図して能力開発に繋がることを条件にしたい

彼らは特別、ビジネスや現代社会の課題などを理解し、意識高く情報収集しているという背景はあるが、まさに海外のエンゲージメント率が高い要因そのものを捉えている。成果主義のビジネス環境においては、自分自身の能力が高まり、組織からも評価される。それが市場価値となりいつでも次のチャンスに一歩踏み出せる。そんな環境に出会えればエンゲージメント率は高まる。企業としても離職率が下がる、さらには組織力が高まり事業成長に繋がる。まさにWin-Winの対等な関係だ。

あなたのスペシャリティはどこに?

働く意欲、組織エンゲージメントの課題が渦巻く日本の働く環境において今、現役社会人、そしてこれから社会人となる学生たちは何か考えれば良いのか?複雑な課題ではあるが、若者が考える未来の働く環境、そこに対しての期待に加えて現状の企業組織のリアルから、ひとつシンプルな答えが見えてくる。

それはやはり、個の力であり自立したキャリア観が重要ということ。組織依存するのではなく、個人のスキルや経験に依存してキャリア形成をして自分の未来を創造していくということ。その為に、まず今の環境において自分自身のスペシャリティはどこにあるのか?それは今後のビジネス社会においてどんな価値になるのか?さらには、この先にどんなスペシャリティが求められる社会になるのか?を考え抜いて、今、なにをすべきかを見つけることが必要だ。

就活生は自己分析から紐解く過去の自分ではなく、未来志向からやるべきを探す思考に切り替えることで、今どんな行動が必要なのかが見えてくるはず。コロナ禍以降、新しい就活が始まっている。正しい情報収集をして社会のリアルを手にして、自分のために就職活動に向き合って欲しい。

はたらくを楽しもう。

はたらクリエイティブディレクター

はたらクリエイティブディレクター パーソルホールディングス|グループ新卒採用統括責任者、キャリア教育支援プロジェクトCAMP|キャプテン、ベネッセi-キャリア|特任研究員、パーソル総合研究所|客員研究員、関西学院大学|フェロー、名城大学|「Bridge」スーパーバイザー、SVOLTA|代表取締役社長、国際教育プログラムCAMPUS Asia Program|外部評価委員などを歴任。現在は成城大学|外部評価委員、iU情報経営イノベーション専門職大学|客員教授、デジタルハリウッド大学|客員教員などを務める。 ※2019年にはハーバード大学にて特別講義を実施。新刊「新しい就活」(河出書房新社)

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