テンピン麻雀で「起訴相当」の黒川元検事長、今後の捜査や刑事処分はどうなる?
検察審査会は、賭け麻雀の容疑で不起訴処分を受けた元東京高検検事長の黒川弘務氏について「起訴相当」、記者ら3人について「不起訴不当」の議決を下した。今後の捜査や刑事処分の見込みは――。
検察審査会の判断は当然
検察審査会は、黒川氏について、検察官として賭博罪を含む刑罰法規の存在や内容を十分に承知していたばかりか、高検検事長という重責にあったという点を重視している。
記者らと賭け麻雀をしないようにすることが最も容易な立場だったのにそれをせず、漫然と賭け麻雀に及んでおり、社会の信頼を裏切り、社会に大きな影響を与えたというわけだ。
また、検察審査会は、記者らが取材活動などで繁忙な中、いかなる動機や事情から黒川氏との長時間にわたる賭け麻雀を定期的に行ってきたのか判然とせず、更なる捜査を要すると述べている。
確かに、この件で問われるべきは検察幹部とマスコミの「ズブズブ」の関係であり、取材のあり方や捜査当局によるリーク、メディアコントロールにも捜査のメスを入れるべきだった。
しかし、市民団体による刑事告発を受けた検察は、賭博罪などの容疑について早々と不起訴とし、早期の幕引きを図ろうとした。検察審査会がそうした検察の対応に異を唱えたのも当然だった。
今後の捜査は?
今後、検察は、前回とは別の検察官が担当者となり、黒川氏や記者らに対する再捜査を行うことになる。具体的には、改めて彼らの取調べを行うといったことが中心となるだろう。
特に重要なのは、検察審査会が指摘しているとおり、記者らが黒川氏と賭け麻雀に興じていた動機や背景事情の解明だ。
黒川氏と関係を深める中で彼の知る捜査情報を得たいと考えていたのではないかとか、現にそうしたやり取りがあったのではないかといった疑いがある。
検察は、こうした点に対する再捜査を遂げ、改めて彼らの刑事処分を決める必要がある。ここで不起訴にした場合、次のとおり黒川氏と記者らとで運命が分かれる。
黒川氏:検察審査会が再審査し、再び「起訴相当」の議決が下されたら、裁判所が指定する弁護士が検察官の職務を務め、起訴の手続がとられる(強制起訴)。
記者ら:検察の不起訴処分が確定する。
単純賭博罪がポイント
では、検察は再捜査後、黒川氏らを起訴するだろうか。
ここでポイントとなるのは、検察審査会が「常習性」、すなわち「反復して賭博行為を行う習癖」までは認められないとして、常習賭博罪の成立を否定している点だ。
そのうえで、黒川氏については単純賭博罪で起訴すべきだとし、記者らについても不起訴は不当だから更に捜査すべきだとしている。
この両罪は、刑罰の重さが大きく異なる。常習賭博罪は3年以下の懲役であり、罰金刑がない。逆に単純賭博罪は最高でも罰金50万円であり、懲役刑がない。後者であれば、罰金の支払いで刑事手続を終わらせることが可能だ。
しかも、検察が黒川氏らを不起訴にしたのは、容疑を認めるに足る十分な証拠が得られなかった「嫌疑不十分」によるものではない。黒川氏らの供述などから単純賭博罪の成立は明らかだが、社会的制裁を受けているといった事情を考慮し、「起訴猶予」にするというものだった。
検察すらも、当初から黒川氏らの賭け麻雀が単純賭博罪に当たるということを認めていたわけだ。現金を賭けていれば賭博罪が成立するというのが判例の立場であり、黒川氏らが採用していた「テンピン」(1000点100円)もアウトだからだ。
略式起訴で罰金か
もし検察が黒川氏を再び不起訴にすると、検察審査会による再審査で「起訴相当」の議決が下り、強制起訴に至る可能性が高い。
検察の手を離れ、検察官役である指定弁護士の主導によるものとなるから、裁判でどのような主張をし、いかなる証拠を提出するかといったイニシアチブを握れなくなってしまう。
それこそ、社会の注目を集めている事件だということで、指定弁護士が公開の法廷における正式な手続によって裁判を進めるべきだと考え、黒川氏を正式起訴することだろう。
そうであれば、むしろ検察が主導権を握れるうちに黒川氏や記者らを略式起訴し、書面による審理だけで簡易裁判所の裁判官に罰金10万円程度の略式命令を出させ、黒川氏らに納付させて手続を終わらせたほうがマシという判断に傾くのではないか。
法務省が黒川氏に懲戒処分を下さず、「訓告」という内部的な軽い処分で済ませ、退職金6000万円を支給したことに対しては、「身内に甘い」といった厳しい批判の声が上がった。
再びそうした批判にさらされないためにも、検察は厳正に対処し、自らの判断に基づいて黒川氏らを起訴する必要がある。(了)