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入院・手術停止の病院も 報道されない第8波の医療逼迫 複数県で感染者が過去最多

倉原優呼吸器内科医
(提供:イメージマート)

12月13日、岩手県、福島県、群馬県では1日あたりの感染者数が過去最多を記録しました。現場ではじわじわと医療逼迫が迫っており、特に東日本ではかなり厳しい状況になりつつあります。入院や手術が停止した機能不全に近い総合病院・大学病院もあります。第8波の現状を報告します。

報告されているより感染者数は多い

現在1日あたりの感染者数は、第6波の水準を大きく超えてきました。(図1)。ゆるやかな流行曲線を描いていますが、現場は真綿で首を絞められるかのように医療逼迫がすすんでいます。

図1. 全国の新型コロナ新規陽性者数(筆者作成)
図1. 全国の新型コロナ新規陽性者数(筆者作成)

現在、医療機関で陽性と判明した新型コロナの感染者数はカウントしていますが、自己登録についてはあくまで任意となっています。

検査陽性率も高止まりしており、水面下にいる未診断の新型コロナはかなり多いと考えられます。

「医療非常事態宣言」の発出対象地域も

東日本を中心に病床使用率が50%を超えており図2)、現在多くの都道府県が「レベル3(医療負荷増大期)」に該当しています。

図2. 12月13日時点の病床使用率(筆者作成)
図2. 12月13日時点の病床使用率(筆者作成)

逼迫がこれ以上になると想定される場合、自治体は「医療非常事態宣言」を発出することが可能となります(図3)。長野県はすでにこれを発出しています。

図3. 国の新レベル分類(筆者作成)
図3. 国の新レベル分類(筆者作成)

救急医療だけでなく通常医療にも影響

東京都では、東京ルール(救急隊による5つの医療機関への受入要請または選定開始から20分以上経過しても搬送先が決定しない事案)の適用件数はこの数日で急増し(図4)、現在、救急要請しても119番につながらない事態が観測されています。総務省消防庁は12月13日に、1週間の搬送困難事案が第6波・7波と同じ水準の5,470件あったと報告しました(1)。

また医療逼迫か」と思われるかもしれませんが、それは医療現場も同じ意見です。

図4. 12月13日時点の東京ルール(参考資料2をもとに筆者作成)
図4. 12月13日時点の東京ルール(参考資料2をもとに筆者作成)

過去最多の感染者数を記録した岩手県では、12月13日に4病院が会見を開いています。がん診療などの通常医療の停止だけでなく、岩手医科大学病院では開学以来初めて、すべての入院と通常手術をストップしているとのことです。

その他の地域でも、高齢者施設クラスターや院内クラスターの発生により、手術や入院を停止している総合病院が散見されます。

「新型コロナはもはや軽症」と言われつつも、多くの患者さんが外来にやって来る日本の医療は、パンデミック初期から変わっていないように感じます。このあたりは政府のリスクコミュニケーションが重要と感じています。

死亡者数の増加と向き合う

日本は、死亡者数を最少化するために、さまざまな策を講じてきました。諸外国と比べると素晴らしい成果です。しかしこの副作用として社会活動は制限され、これ以上このような生活は続けられないという意見は至極理解できるものです。

医療逼迫について報道されると、「早く5類に」という意見が必ず出ますが、医療機関内で新型コロナを広めるわけにはいきません。そのため、どこでも診られる・どこでも入院できるという解釈は、楽観的すぎるかもしれません。

検査や手術を止めるわけにはいかないため、医療機関内はゼロコロナを維持する必要があります。新型コロナを院内に入れないように、多くの医療機関が入院前に新型コロナのスクリーニング検査を患者さん全員に実施しています。

「5類感染症」になった場合、自院の患者さんを守らなければいけませんので、「新型コロナ疑いの新患の対応は難しい」という理由をつけて、受け入れを渋る医療機関がむしろ増える可能性もあります。

アメリカの新型コロナ死亡者数は約111万人です。人口あたりで比較すると、日本よりも約8倍の死亡が発生していることになります。私たちが新型コロナを「身近な日常」として受け入れるのであれば、死亡者数の増加を目の当たりにする可能性があり、日本はこれと向き合う覚悟が必要です。

医療現場より遅い報道

過去の新型コロナの波のすべてにおいてですが、医療逼迫が始まって1~2週間以上経たないと、どのメディアもなかなか報道しません。そういうジレンマもあり、私はできるだけ現場目線の記事をお届けするようにしています。

「医療逼迫が起こらないたった1つの方法」のような神がかり的な結論が導ければよいのですが、現場の報告的な内容に終始してしまう点はどうかご容赦ください。

まとめ

東日本を中心に第8波の医療逼迫の波が押し寄せています。地域によってはこれから「医療非常事態宣言」が発出されるかもしれません。

「重症化リスクも低いし、感染者も増えているので、ワクチンにはもう効果がない」という意見を耳にすることも増えました。私は、季節性インフルエンザ水準へ重症化リスクが低くなったのはワクチンの恩恵の1つと考えています。

「医療逼迫が起こらないたった1つの方法」とまでは言えませんが、現時点でワクチンは国・地域レベルで最も強力な武器の1つなので、接種を検討ください。

(参考)

(1) 各消防本部からの救急搬送困難事案に係る状況調査(抽出)の結果(URL:https://www.fdma.go.jp/disaster/coronavirus/items/coronavirus_kekka.pdf

(2) 救急医療の東京ルールの適用件数(URL:https://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp/cards/number-of-tokyo-rules-applied/

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医・代議員、日本感染症学会感染症専門医・指導医・評議員、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医・代議員、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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