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新型コロナを「5類」にすると世の中はどう変わるのか? 医療逼迫・公費負担・ワクチン・就業制限は?

倉原優呼吸器内科医
(提供:イメージマート)

政府は先日成立した改正感染症法に関連して、新型コロナの法律上の分類について「新型インフルエンザ等感染症」からの見直しを検討することを表明しています。「5類」論が高まっていますが、「5類」にすることで世の中はどう変わるのでしょうか?

現在は「2類相当」ではない

新型コロナは現在、「新型インフルエンザ等感染症」の枠組みで運用されています。よく「2類相当」という使い方をされていますが、厳密には誤りです。表1の「〇」はあくまで可能な権限を表しており、「現在やっていること」ではありません。

表1. 1~5類感染症と新型インフルエンザ等感染症における対応(筆者作成)
表1. 1~5類感染症と新型インフルエンザ等感染症における対応(筆者作成)

「現在やっていること」は相当骨抜きされました。陽性者のほとんどが軽症であり、入院ではなく自宅療養を可能とし、発生届も一部の重症化リスクが高い陽性者に限定されています。

すでに「2類相当」どころか「5類相当」の扱いに近いという話を以前しました。

■参考30分の1に低下した新型コロナの致死率 「5類」にすべきか?

そもそも、N95マスク1枚で診療できる結核のような2類感染症もありますので、あまり「類」の数字にまどわされてはいけないとも感じています。

季節性インフルエンザとの対比

オミクロン株以降、新型コロナによる致死率は低下しています。個人的にはワクチン接種がすすんだことと、変異ウイルスそのものが弱毒化していることの両方があったから、と思っています。

財務省がまとめた、季節性インフルエンザとの重症化率・致死率の比較がよく参照されています(1)(表2)。確かに、重症化リスクは低くなっています。実際、アルファ株やデルタ株の頃に遭遇していたウイルス性肺炎もかなり減りました。

表2. 新型コロナの重症化率等の推移(参考資料1より)
表2. 新型コロナの重症化率等の推移(参考資料1より)

ただ、高いワクチン接種率が達成された新型コロナと、これまでの季節性インフルエンザを並べて議論するのは適切ではないようにも感じています。背景に影響を及ぼしている変数が多すぎます。

現場では、ワクチン未接種の患者さんの場合、それなりの肺炎を合併していることもまだあります。あと、新型コロナ特有の事情として、後遺症の問題がまだ解決していません。

「5類感染症」で医療逼迫は改善する?

季節性インフルエンザのような「5類感染症」になった場合、医療逼迫は改善するでしょうか?

コロナ禍前でも感染対策を講じていた医療機関もありますが、現在のような厳格な感染対策だと動線分離が難しいクリニックも少なくありません。

「5類感染症」なんだからそこまで対策しなくていい、という意見もあるかもしれません。しかし現状、「入院中に新型コロナをうつされた」が許されるとは思えず、病院内ではゼロコロナを目指すでしょう。

ダウングレードして医療機関への補助も打ち切りになると、コロナ病棟は姿を消します。入院が必要な新型コロナは、インフルエンザと同じく個室隔離となります(感染者が複数いればまとめて大部屋管理が可能)。新型コロナではない患者さんと同じ部屋に新型コロナの患者さんを入院させるわけにはいきません。別の病気で入院している患者さんに感染して、亡くなるという事態だけは避けたいところです。

隔離対策のため病床が逼迫すると、新しい患者さんを入院させられない事態に陥ります。実際、過去のインフルエンザシーズンではそういう事態もありました。

以上のことから、「5類感染症」へのダウングレードが医療現場の起死回生の一手になるとは期待していません。

公費負担とワクチンは?

「5類感染症」にすると自己負担が発生する可能性があります。インフルエンザ治療薬とは異なり、新型コロナ治療薬はかなり高額になるので、可能であれば公費負担は残しておいたほうがよいと考えます。

ワクチン接種については、もともと予防接種法にもとづく臨時接種の公費負担であるため、感染症法上の分類とは実は関係がありません。麻疹などはもともと5類感染症ですが、予防接種法に基づいて定期接種は公費負担となっています。

上記2つは、セットで議論して公費負担を残す方向にしたほうがよいかもしれません。

就業・登校制限は?

軽症の新型コロナの場合、発症日から7日間休むことになります。季節性インフルエンザには法律上の就業制限はありませんが、多くの会社では学校に準ずる形で「発症後5日間が経過し、かつ解熱後2日間」を目安にしているはずです(表3)。

たとえ新型コロナを「5類感染症」にしても、潜伏期間や感染リスクは変わらないので、療養期間もこのままかもしれません。

そのため、現場に判断を委ねられるとしても、「5類感染症」にしたからといって、就業制限がなくなり、軽い風邪ということで就業・登校できるようになるというわけではありません。

表3. インフルエンザと新型コロナの療養期間(筆者作成)(イラストは看護roo!より使用)
表3. インフルエンザと新型コロナの療養期間(筆者作成)(イラストは看護roo!より使用)

症状観察がしっかりできるならば、医療機関以外では「濃厚接触者」については緩和を検討してもよいと思います。

現行の「新型インフルエンザ等感染症」でも間引くことは可能と思われますので、「5類感染症」にしなくても解決できるはずです。

柔軟な運用を

なぜこれまで分類が変更されてこなかったのかというと、現在の「新型インフルエンザ等感染症」のほうが、1類~5類感染症よりも柔軟性があるからです。致死率が高かったパンデミック当初は「2類相当」に近い対応でしたが、上述したように現在はほぼ「5類相当」の運用に骨抜きされています。

それでもなぜか「5類」論が高まっているのは事実です。「5類感染症」にするにしても独自の分類を作るにしても、ラベリングにこだわらない柔軟な運用を願うばかりです。

若い人の人生を制限するようなところは間引いて、高齢者や基礎疾患がある医療弱者をしっかりと守ること。これが可能であれば、現場はどのような分類であっても構いません。多くの医療弱者を死なせてしまう運用だけは避けてほしいと思います。

(参考)

(1) 財政制度分科会(令和4年11月7日開催)資料. (URL:https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia20221107/01.pdf

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医・代議員、日本感染症学会感染症専門医・指導医・評議員、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医・代議員、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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