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「日本のPCR検査数が少ないのは感染者数が少ないから」田村厚労相のごまかし

高橋浩祐米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員
成田空港のPCRセンター(写真:ロイター/アフロ)

田村厚生労働相は2月17日の衆院予算委員会で、日本の新型コロナウイルスのPCR検査数が人口比で世界138位にとどまっていることを立憲民主党の阿久津幸彦議員に問われ、「PCR検査数が少ないのは感染者数が少ないから。感染者数で比べれば、欧米と日本では同じ(検査の)比率になっている。それが1つの大きな答えとなる」と述べた。

これは本当だろうか。

●疑問①

「PCR検査数が少ないのは感染者数が少ないから」ではなく、「PCR検査数が少ないから感染者数が少ない」との一面もあるではないか。これは「鶏が先か、卵が先か」の水掛け論になるかもしれない。しかし、日本は昨年の春先から検査不足で感染者数を十分に把握できていないと内外から指摘されてきた。日本は検査を幅広く実施し、市中感染者を発見できているのか。検査数が徐々に増えるにつれて、感染者数が現に増えてきた面があるのではないか。

(関連記事:在日アメリカ大使館、日本の新型コロナ検査不足を指摘「有病率を正確に把握するのは困難」

なお、新型コロナウイルスに関する政府の専門家会議は2020年5月4日、日本のPCR検査数が国際的に少なく、新しい感染症の流行に対応する検査体制が整わなかったとする分析結果を公表。専門家会議の副座長を務めていた尾身茂氏も「日本はPCRの件数を上げる取り組みが遅れた」と指摘していた。

●疑問②

田村厚労相は「日本のPCR検査数が少ないのは感染者数が少ないから」と述べた。では、感染者数が少なくても、日本よりも検査をしっかりと実施している国は世界でどれほどあるのか。国際統計サイト「Worldometer」の2021年2月17日時点のデータによれば、新型コロナウイルスの感染者1人当たりの検査数で比較すると、日本は世界77位になっている。日本より上位の国の中には、ニュージーランドや香港、台湾、シンガポール、韓国といった国々が含まれ、日本よりも感染者1人当たりで多くの検査を実施している。日本は決してほめられたものではない。

なお、新型コロナウイルス感染死者1人当たりの検査数で比較しても、日本は世界80位にとどまっている。日本の検査数は決して多くない。

一方、ソウルにあるミズメディ・ウィメンズ病院の内科医を務め、韓国の新型コロナウイルス専門家として知られるタン・ヒョンギョン氏は筆者の取材に対し、検査の陽性率をみれば、コロナ感染の広がり程度や検査数の過不足がわかると指摘する。

タン氏は「検査の陽性率が5%を超えれば感染が広がっており、検査数も足りていない。5%未満であれば感染は適度にコントロールされ、検査も適度に足りていると言える。2%未満なら非常に良い」と述べた。

その気になる検査の陽性率は、東京都では2月16日までの7日平均で4.2%となっている。タン氏は「素晴らしいとまでは言えないまでも、まあまあコントロールができている」と述べた。

オレンジ色の線が東京都で検査を受けた人数に占める陽性者の割合(陽性率)を示している。2月16日までの7日平均で4.2%となっている。(東京都の新型コロナウイルス感染症対策サイトから筆者がキャプチャー)
オレンジ色の線が東京都で検査を受けた人数に占める陽性者の割合(陽性率)を示している。2月16日までの7日平均で4.2%となっている。(東京都の新型コロナウイルス感染症対策サイトから筆者がキャプチャー)

●疑問③

田村厚労相は「感染者数比では検査数は欧米と日本では同じ比率になっている」と述べた。確かに、主要7カ国(G7)をみると、感染者1人当たりの検査数が日本より多いのはカナダとイギリス。逆に日本より検査数が少ないのはドイツ、フランス、イタリア、アメリカと、まちまちになっている。

しかし、阿久津議員がそもそも「日本の検査数が人口比で世界138位になっている」と指摘し、世界の中での日本の検査不足をただしたのに対し、田村厚労相の答弁が欧米のみとの比較の範囲で答えるのはおかしくないか。日本より感染者数が少なくても検査をしっかり実施している感染対策優等生の国々をあえて除外し、田村厚労相は答弁した格好だ。

●厚生労働省の一貫性の無さ

コロナ対策で政府関係者への聞き取りをしたシンクタンク「アジア・パシフィック・イニシアティブ」(船橋洋一理事長)が2020年10月8日に公表した報告書によると、新型コロナウイルスの感染が拡大し、安倍政権が「件数を増やす」としきりに強調していた昨年5月、当の厚労省は「PCR検査は誤判定がある。検査しすぎれば陰性なのに入院する人が増え、医療崩壊の危険がある」と検査抑制に奔走していたことが分かっている。厚労省はPCR検査拡大に否定的な内部資料を作成し、政府中枢に説明していたのだ。

しかし、阿久津議員に対する田村厚労相の答弁はそれとは打って変わり、「感染者数で比べれば、欧米と日本では同じ比率になっている」と述べ、日本の検査不足を否定した。厚労省はいったいPCR検査に肯定的なのか、否定的なのか、どちらなのか。PCR検査をめぐる厚労省のその時々の釈明じみた一貫性の無さが見受けられる。

なお、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は今月4日の衆院予算委員会で、PCR検査の拡充について「隠れた感染源を早く予兆すると同時に、感染の経緯を把握できる」と述べた。そして、緊急事態宣言を解除した場合、感染再拡大を防ぐため、症状がない感染者へのPCR検査が焦点になるとの認識を示した。

また、自民党は1月末、党本部で働く全職員を対象にPCR検査を実施する方針を決めた。

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米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

英軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」前東京特派員。コリアタウンがある川崎市川崎区桜本の出身。令和元年度内閣府主催「世界青年の船」日本ナショナルリーダー。米ボルチモア市民栄誉賞受賞。ハフポスト日本版元編集長。元日経CNBCコメンテーター。1993年慶応大学経済学部卒、2004年米コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクールとSIPA(国際公共政策大学院)を修了。朝日新聞やアジアタイムズ、ブルームバーグで記者を務める。NK NewsやNikkei Asia、Naval News、東洋経済、週刊文春、論座、英紙ガーディアン、シンガポール紙ストレーツ・タイムズ等に記事掲載。

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