ALS嘱託殺人、なぜ懲役18年か?不処罰となる要件とは #専門家のまとめ
難病ALS患者に対する嘱託殺人罪などに問われた医師の男に対し、京都地裁は懲役18年の有罪判決を言い渡しました。「被害者」の女性は自らの死を望んでいたとされており、この量刑を重いと感じる人もいるでしょう。
これは嘱託殺人罪に重点を置いたメディアの報じ方にも原因があります。男は嘱託や承諾が一切なかった精神疾患のある高齢者(共犯とされる元医師の父親)に対する殺人の容疑でも併せて審理され、有罪となっており、特に情状が悪質な殺人事件の方を重くみられ、計画性が高く、医師としての知識がないと思いつかない犯行で汲むべき事情はないとして、懲役18年に処されているからです。
一方、元医師の男は、裁判員裁判の対象である殺人罪とそれに当たらない嘱託殺人罪が分離して審理される形となっており、一審でまず殺人罪につき懲役13年、次に嘱託殺人罪につき懲役2年6ヶ月の有罪判決を受けました。合計で懲役15年6ヶ月であり、医師の男がそれよりも重い懲役18年になっているのは、彼が殺害の実行犯だったということも影響しています。
ただ、この事件が尊厳死の是非に関する議論を呼び起こしたことは確かでしょう。裁判所も有罪判決の中で、嘱託殺人罪が成立しないための最低限の要件を例として挙げています。参考となる記事をまとめました。
裁判所は幸福追求権に関する憲法の規定から「自らの命を絶つために他者の援助を求める権利」まで導き出せるものではないと判断
苦痛除去・緩和のために他の手段がない▽患者に説明を尽くし、意思を確認▽苦痛の少ない医学的方法▽一連の過程を記録――が要件
医師の男は別の殺人容疑について「やっておりません」と否認し、嘱託殺人については認めるも弁護人が憲法違反を理由に無罪主張
共犯とされる元医師の男は一審で父親に対する殺人罪につき懲役13年、嘱託殺人罪につき懲役2年6ヶ月の有罪判決
今回の有罪判決のポイントを挙げると、(1)医師の男は報酬130万円の振込を受けて行動しており、真に被害者のためではなく、利益を求めた犯行だったと認定し、(2)主治医でもALS専門医でもなく、SNSでのやり取りしかなく、経過や症状を把握せず、親族らに確認しないまま、秘密裏に初めて会ったばかりの被害者の意思確認が十分にできるとは思えないと指摘した上で、(3)ALS患者に「望まない生」を強いることは自己決定権を保障した憲法に違反するという弁護側の主張を排斥している点です。特に(1)が重要となります。
裁判所は嘱託殺人罪が成立しないための最低限の要件を挙げた上で、今回のケースはこれらにはあたらないとして有罪判決を言い渡しました。それでも、それらの要件をみたしている尊厳死であれば、違法性が阻却され、嘱託殺人罪の成立が否定されるのか否かについては、別に検討を要する問題といえるでしょう。
共犯とされる元医師の男は、一審判決を不服として控訴したものの、3月6日に父親に対する殺人容疑に関して高裁で控訴棄却の判決が言い渡されました。嘱託殺人については別に控訴していますし、今回の医師の男も控訴する意向とのことですから、控訴審が尊厳死を巡っていかなる判断を示すのか注目されます。(了)