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藤井聡太竜王、防衛2連覇か? 広瀬章人八段、下馬評くつがえし復位か? 10月7日、竜王戦七番勝負開幕

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 10月7日・8日。東京都渋谷区・セルリアンタワー能楽堂において第35期竜王戦七番勝負第1局、藤井聡太竜王(20歳)-広瀬章人八段(35歳)戦がおこなわれます。棋譜は公式ページをご覧ください。

勝ち続ける若き王者・藤井竜王

 昨年の七番勝負は豊島将之竜王に藤井聡太三冠が挑戦。藤井挑戦者が4連勝ストレートで竜王位を獲得しました。

 将棋界の序列1位に君臨する藤井竜王。今期はディフェンディングチャンピオンとして挑戦者を迎え撃つ立場にあります。

 藤井竜王は今年度ここまで叡王、棋聖、王位の三冠を防衛。現在は五冠を保持し、年度内には六冠に達する可能性もあります。

 藤井竜王の今年度成績は16勝4敗(勝率0.800)です。

 対戦する相手がほとんどトップクラスなのに、勝率8割は驚異的です。このまま6年連続で8割以上の可能性も十分に考えられそうです。

竜王復位を目指す広瀬八段

 広瀬八段は今期ランキング戦で2組優勝を果たしました。

 決勝トーナメントでは丸山忠久九段(1組3位)、佐藤天彦九段(1組2位)、山崎隆之八段(1組4位)を連破して挑戦権を獲得しました。

 広瀬八段は2018年、タイトル通算100期を目指す羽生善治竜王に挑戦。4勝3敗でシリーズを制し、竜王位に就いています。

 本シリーズは現竜王と元竜王の対戦となります。

「二竜、相まみえる」が今期七番勝負のキャッチコピーだそうです。

 古い言い方をすれば

「二龍争珠」(にりゅうそうじゅ、にりゅうたまをあらそう)

「双龍争玉」(そうりゅうそうぎょく、そうりゅうたまをあらそう)

 というところでしょう。

 これまでの実績から、よく「九段」と間違えられる広瀬八段。これまでのタイトル獲得数は竜王1、王位1で通算2期です。

 広瀬八段は今期竜王位を獲得すると「竜王位2期」「タイトル3期」を達成し、いずれの条件でも九段昇段となります。

 広瀬八段の今年度成績は11勝4敗(勝率0.733)です。

下馬評は藤井ノリだが

 藤井竜王はこれまで10回のタイトル戦に登場し、そのすべてを制するというとんでもない記録を更新中です。中でも2日制タイトル戦(持ち時間8時間)においては20勝2敗という成績が残されています。

 広瀬八段は藤井王位の防衛が決まった王位戦七番勝負第5局で解説を担当。その際、藤井竜王に挑む七番勝負について、苦笑しながら、次のように語っていました。

広瀬「自分より強い人たちがもう、がんばって対策を練って挑んでいるにもかかわらず、全部跳ねのけているわけじゃないですか。なので、どうなりますかね。ははは。戦って強さを再認識する可能性が高いですね」

 すべてが本音というわけではないでしょうが、かなり本音に近い言葉なのかもしれません。

 藤井竜王と広瀬八段は過去に6回対戦し、藤井5勝、広瀬1勝という成績が残されています。

 過去のデータを見れば、藤井有利。また筆者が耳にする限りでの下馬評もまた、藤井竜王ノリの声が圧倒的です。そうした中で、広瀬八段がどう戦うのか。

 広瀬八段は23歳のとき、初タイトルの王位を獲得。その頃は振り飛車穴熊がエース戦法で「振り穴王子」と呼ばれていました。しかし、そのしばらくあとにモデルチェンジ。現在は居飛車党です。

 藤井竜王と広瀬八段のこれまでの対局において、戦型は相掛かり、矢倉、角換わりと、すべて相居飛車。デビュー以来ずっと居飛車の現代の最新形で戦ってきた藤井竜王が、自分から変化する可能性はほぼありません。

「振り穴王子」の頃の印象が鮮烈なため、いまでも広瀬八段の振り飛車穴熊採用を期待する声も聞かれます。しかし広瀬八段はここまで、現在の自分のフォームで並み居る強敵を倒してきたわけです。今期七番勝負で、広瀬八段があえて変化に出る可能性もおそらく、ほとんどないでしょう。

 公式戦ではありませんが、2020年のABEMAトーナメントにおいては、矢倉、角換わりで、広瀬八段が藤井七段(当時)に2連勝で圧倒しています。

 2019年、勝った方が王将挑戦という大一番では広瀬竜王が藤井七段(肩書はいずれも当時)に逆転勝ち。日の出の勢いの藤井七段を止め、史上最年少タイトル挑戦をいったんは阻止しています。

 若き王者・藤井竜王が強さを見せつけるのか。それとも元竜王・広瀬八段が下馬評をくつがえして復位を果たすのか。興味の尽きない七番勝負がいよいよ始まります。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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