新型コロナ対策遠隔授業における著作権法上の課題について
COVID-19対策として、ネットを使った遠隔授業が行なわれるケースが今後も増えてくると思います。そこで、ちょっと気になるのが、著作権法35条の規定です。著作権35条は、教育機関における著作物の利用が自由にできる(著作権者の許諾がいらない)場合の規定です。
35条1項において、学校の授業で複製を自由にできる場合が定められています。この規定がないとたとえば社会科の授業で新聞記事をコピーして配る、先生が黒板に教科書の一節を抜き書きするといったケースでも複製権の許諾が必要になってしまうので、当然の規定と言えます。
この場合でも、たとえば市販の問題集を丸ごと人数分コピーして配るといった複製は「著作権者の利益を不当に害する」として認められません。どういう場合に認められて、どういう場合に認められないかは、(法的拘束力があるわけではないですが)複数の権利者団体によるガイドラインが出ています。
35条2項では、その複製した著作物を公衆送信する場合が定められています。ただし、条文をよく読むとわかりますが、「当該授業を直接受ける者に対して..著作物を..提供する場合.. 当該授業が行われる場所以外の場所において当該授業を同時に受ける者に対して..」という書き方から、対面授業があってそれと同時にネット配信を行なうことが前提となっていることがわかります。流行病対策として遠隔授業を行なう場合には、対面授業なしに全部ネット配信になると思われますので、文言通りの解釈をすると35条2項の対象外になってしまいます。上記ガイドラインでも「教師が授業を行う場所に学生がいない場合」は35条の対象外であることが明記されています。
なお、これは複製権だけではなく演奏権についても同様です。学校の授業における演奏は非営利・無料・無報酬の演奏として38条1項の規定により自由に行なえます(著作権法上の規定なのでJASRACは口を出せません)が、やはり、対面授業と同時でなければ遠隔授業で教師の演奏や音楽鑑賞のCD再生を流すことは、35条2項の対象外になってしまいます。
なお、著作権35条は改正(未施行)が行なわれています。この改正が施行されると、補償金を権利者団体側に予め支払っておくことにより、同時配信だけではなくアーカイブ配信向けでも複製が可能になる等、利用の自由度が増します。しかし、特に補償金の事前支払いがなくても、対面授業でできていた複製・演奏を(対面の生徒がいない)遠隔授業でもそのままできるようにしたいという要望とはちょっと異なります(法改正時には流行病対策のための遠隔授業は想定されていなかったので当然ですが)。
もちろん、著作権は著作者が使ってよいと言えば侵害にならない権利です。そして、対面授業なしの遠隔授業で複製や演奏を行なったので著作権侵害であると主張するような権利者は現実的にはいないでしょう。文化庁は、権利者団体の「ご配慮」を求める事務連絡を公表しており、JASRAC、NexTone、日本ビジュアル著作権協会などが対応を表明しています。しかし、法文が現実に合致していないのは確かなので、今後の改正の検討対象にすべきなのではと思います。