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ゼロカロリー飲料は飲ませてよい?甘い飲み物の適量は?子どもの飲み物にまつわるお話

坂本昌彦佐久医療センター小児科医長 日本小児科学会指導医
(写真:アフロ)

先日、「水が飲めない子どもが増えている」、というニュースが話題となりました。

水が飲めない子どもが増えている衝撃「味がしないから苦手」クラスに2、3人もいる

水だけでなく、味のない飲み物が苦手というニュースは、ちょうど熱中症のリスクが懸念される時期でもあり、大きな話題になりました。

そこで今回は、熱中症の話も踏まえながら、子どもと飲み物をテーマにお話ししたいと思います。

こもった熱を外に逃がすためには水分摂取が重要

最近はとにかく暑い日が続いています。熱中症警戒アラートが連日発令され、外に出ると身の危険を感じるほどです。そのような状況では、体は中にこもった熱を外に逃がすために、毛細血管という細かな血管を広げ、体内の熱を血流に乗せて皮膚の表面に集めて熱を外気に逃がそうとします。つまり体内の熱を外に移動させるためには血液の流れが重要です。血液の流れをスムーズにするためには十分な水分摂取が必要です。これが熱中症予防に水分摂取が必要な理由です。

熱中症予防は経口補水液でなくても大丈夫?

よく保護者の皆さんから聞かれる質問に、「熱中症予防ではORSが必要なのか?」というものがあります。

熱中症の治療では、水分が摂れる場合、電解質を含む経口補水液(ORS)や薄めたリンゴジュースなどが推奨されます(1)。

ただ、熱中症の予防としては、基本的には普通の水やお茶で十分です。10代の子どもの場合、暑い環境で通常15-30分毎に240ml程度の水を補充するのが望ましいとされています。

これは量としては結構多く感じられるかもしれません。それだけに、この暑い時期、保護者としてはしっかり水分を摂ってくれないと心配ですよね。

飲み物に味がついていると、子どもが飲んでくれる水分量が増えます。暑い環境下で子どもたちの飲水行動が飲み物の種類によってどのように変わるのかを調べた研究があります(2)。この研究では通常の無味無臭の水を与えられた場合よりも、フレーバーを加えた水を与えられると、子どもが摂る水分量は増え、特にグレープフルーツ味がもっとも効果が高く、味のない水と比べて飲む量が44%増えました。さらに、甘いスポーツ飲料を与えられた場合、飲む量は通常の水と比べて91%増えていました。子どもたちは普通の水よりも、飲み物にフレーバーが添加されていたり、甘い味がついている飲み物の方が好きなのです。子どもたち自らが進んで水分を摂ってくれると保護者も安心ですので、ついつい甘い飲み物を与えてしまうのは理由のないことではありません。

専門家は子どもにジュースの摂取を勧めません・・その理由とは?

 ただ、フルーツ飲料や甘いお茶、糖分を含むソーダは肥満発症に大きく寄与していることも分かっています(3)。また、これらの飲み物を摂取することで牛乳などの摂取量が減り、主要栄養素(カルシウムなど)の摂取量が下がることも指摘されています。特に暑い時期には必要となる水分量が多いので、甘い飲み物で水分を補おうとすると、過剰な糖分を摂取することになります。そこで欧州小児消化器学会は声明を出し、乳児や小児、青少年はソフトドリンクやそのほかの甘味飲料の摂取を控えるべきとしています(3)。アメリカ小児科学会もスポーツドリンクとエナジードリンクは糖分を多く含むため、日常的に摂取しないようにと注意喚起しています(4)。

 それでは、子どもの甘い飲み物の適量とは具体的にどれくらいなのでしょうか。いくつかの文献を元に子どもの飲み物の推奨とその量について表にまとめました。

表:子どもの飲み物の推奨と適量について(文献5,6,7を参考に筆者作成)

カフェインは含有量(mg)で記載
カフェインは含有量(mg)で記載

このように、5歳以下のお子さんには基本的に糖分を含む飲み物は推奨されていません。飲ませるなら100%果汁飲料ですが、それも量に留意する必要があります。カフェインについては、缶コーヒー1本(190ml)が約100-150mg、ペットボトルの緑茶(500ml)1本が50mg、エナジードリンク(250ml)1本が約100mgですので、こちらも小学生以上は注意が必要です。

この表をご覧になった方の中には結構厳しいのでは、という意見もありそうですが、ご家族で話し合う際の一つの参考になればと思います。

ゼロカロリー飲料で虫歯リスクは下がるが肥満や糖尿病リスクは下がらない

 さて、上の表ではゼロカロリー飲料について触れています。ゼロカロリー飲料というのは、砂糖の代わりにサッカリンやアステルパームといった人工甘味料が加えられている飲み物で、最近ダイエット志向もあり人気も高まっています。どう考えればよいのでしょうか。砂糖が入っていないなら問題なく子どもにもおススメできそうに思われるかもしれません。

この分野は現在様々な研究がなされており、これまでに分かってきたことを簡単に説明します。まず、これらの飲み物の利点として、口腔内の微生物によって酸に代謝されないため、砂糖の入った飲み物と比べると虫歯リスクが下がることが指摘されています(8)。一方で、これらの飲み物は潜在的に甘いものを好む嗜好ができやすいことも指摘されています。成人の研究では、人工甘味料を摂取した人は、摂取後に塩辛いスナックよりも甘いスナックを好む傾向が高まることが報告されています(9)。他にも満腹感が得られることで他の栄養素の摂取が不十分になるリスクなども指摘されています。成人では結局肥満のリスクや2型糖尿病、冠動脈疾患などの慢性疾患リスクの軽減にはつながらないとして、世界保健機関のガイドラインでもこれらの人口甘味料の利用は推奨されていません(10)。したがって、ゼロカロリー飲料なら問題ない、という結論にはならなさそうです。

無味無臭の水よりも味のついている飲み物の方が好まれるのはこれまでの研究からも明らかですが、熱中症予防に限らず、代謝が盛んな子どもは多くの水分補給が必要です。味のない水や麦茶などをちゃんと飲める習慣を作ることは、その子の将来の健康を守ることに繋がっていくと考えています。

参考文献

1.米国小児科学会ウェブサイト. Heat Exposure and Reactions

2.Bar-Or O, Wilk B. Water and electrolyte replenishment in the exercising child. Int J Sport Nutr. 1996;6(2):93-9.

3.Fidler Mis N, Braegger C, et al. Sugar in Infants, Children and Adolescents: A Position Paper of the European Society for Paediatric Gastroenterology, Hepatology and Nutrition Committee on Nutrition. J Pediatr Gastroenterol Nutr. 2017;65(6):681-96.

4.Committee on Nutrition and the Council on Sports Medicine and Fitness. Sports drinks and energy drinks for children and adolescents: are they appropriate? Pediatrics. 2011;127(6):1182-9.

5.Moore LL, Bradlee ML, et al. Effects of average childhood dairy intake on adolescent bone health. J Pediatr. 2008;153(5):667-73.

6.Lott M, Callahan E, et al. Healthy beverage consumption in early childhood: Recommendations from key national health and nutrition organizations. Healthy Eating Research. 2019.

7.カナダ政府ウェブサイト. Health Canada is advising Canadians about safe levels of caffeine consumption. 2017.

8.Gupta P, Gupta N, et al. Role of sugar and sugar substitutes in dental caries: a review. ISRN Dent. 2013:519421.

9.Casperson SL, Johnson L, et al. The relative reinforcing value of sweet versus savory snack foods after consumption of sugar- or non-nutritive sweetened beverages. Appetite. 2017;112:143-9.

10.Suran M. Sugar Substitutes Don't Help Weight Control and May Increase Risk of Heart Disease and Diabetes, WHO Warns. Jama. 2023;330(1):9-10.

佐久医療センター小児科医長 日本小児科学会指導医

小児科専門医。2004年名古屋大学医学部卒業。現在佐久医療センター小児科医長。専門は小児救急と渡航医学。日本小児科学会広報委員、日本小児救急医学会代議員および広報委員。日本国際保健医療学会理事。現在日常診療の傍ら保護者の啓発と救急外来負担軽減を目的とした「教えて!ドクター」プロジェクト責任者を務める。同プロジェクトの無料アプリは約40万件ダウンロードされ、18年度キッズデザイン賞、グッドデザイン賞、21年「上手な医療のかかり方」大賞受賞。Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2022大賞受賞。

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