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「責任ある仕事はしたくない」~中小企業経営者を悩ます人手不足

中村智彦神戸国際大学経済学部教授
急激な人口減少は、企業経営にも大きな影響になりつつる。(写真:イメージマート)

・深刻度が増す人手不足

 中小企業経営者のみなさんと接する機会が多い。コロナ禍以降、急速に深刻度合が増しているのが、人手不足の問題である。

 株式会社帝国データバンクが2024年12月9日に発表した「全国企業倒産集計2024年11月報」によれば、2024年11月の「人手不足倒産」は、24件となり、2023年3月以降、20件を上回る水準で推移していることが判った。

 従業員や経営幹部などの退職・離職が直接・間接的に起因した「従業員退職型」の倒産は2024年1-11月累計は311件と、2013年1月の集計開始後初めて300件を超えている。

 中小企業経営者と話をしても、必要な人材を確保することが困難になり、事業の継続に支障が出始めているということを耳にすることが非常に多い。

 求人を行っても応募がないという問題も大きいが、若い世代の働き方への考えの変化にも、中小企業経営者の頭を痛めている。実際に経営者から聞いた話を基に考えてみたい。

人手不足による企業倒産は、増加している。
人手不足による企業倒産は、増加している。

・「なにか私は間違ったことをしたんですかねえ」

 「なにか私は間違ったことをしたんですかねえ」そう苦笑するのは、ある中小製造業の経営者Aさんだ。Aさんは、この企業の二代目として、社長である父の後継候補として、経営の一部を任されている。

 30歳代半ばの男性をアルバイトで採用したのは、3か月前のことだった。知人からの紹介で、とりあえずアルバイトとして採用をした。このBさんは、製造業の経験もあり、おとなしい真面目な働きぶりにAさんは、良い人材を得ることができたと思っていた。

 「自分が社長になった時のために、若手従業員を確保しておきたかったし、奥さんと小学生と幼稚園のお子さんが二人と、私と同じだったので、正社員として採用しようと考えたのです。」

 Aさんは、社長である父に相談すると、「これからはお前の時代になるから、お前の判断で決めれば良い」と言われたと言う。一方、古参の工場長は「少し早いのではないかと思いますよ」と言った。

・そして、翌日から来なくなった

 Aさんは、Bさんを呼び出し、本来の試用期間よりも早いが、働きぶりを評価して、来月から正社員として採用したいと伝えた。

 「高いとは言えませんが、給与もアルバイトよりは良くなりますし、奥さんや子供たちを抱えて、福利厚生だって大切だろうと。明るい気持ちで伝えたのですが。」

 その翌日、驚くことが起きた。Bさんが無断欠勤したのだ。

 「心配して、電話をしたら、もう辞めさせて欲しいと。正社員になって、責任を負うのが嫌だと言うのです。それで、もう来なくなりました。」

 社長や工場長などは、Aさんを責めることはしなかったが、逆に情けない気持ちになったと言います。

 「辛いですよねえ。責任を持つ仕事が嫌だと言われてしまうと、どうしてよいのやら。父からは、まだまだという目で見られるし、社員からは甘いなあという感じで。」

・2人に1人は、管理職になることに興味がない

 エン・ジャパン株式会社が、2024年6月12日に発表した『ビジネスパーソン4700人に聞いた「管理職への意向」調査』によれば、現在管理職ではない人に「管理職になることに興味がある」と回答したのは41%であり、「ない」と回答したのは50%だった。2人に1人は、管理職になることに興味がないということになる。

 他の調査を見ても、若い世代ほど管理職になりたいという割合が低下し、責任のある仕事に就きたくないと考える人が増えている傾向が続いている。

2人に1人は、管理職になることに興味はない。
2人に1人は、管理職になることに興味はない。

 

やる気がある人にはそれなりの待遇を

 団塊の世代が後期高齢者となり、これまで中小企業の現場を支えてきた高齢従業員が一気に減少する。急激に進む円安によって、外国人労働者の確保にも支障が出つつある。AIの導入、生産性の向上、M&A。高度外国人材の活用などは、人手不足対策の面からも、中小企業経営者にとって、不回避となっている。

 ある大手製造企業の幹部社員は、「国内外転勤可能な人材、国内転勤可能な人材、転勤はしない人材というようにコース別けをし、当然、役職や給与にも差を付けるようにしている」と話す。「責任ある仕事はしたくないというような人がいても、考え方が甘いというような昔気質の考え方は通らない時代だ。ただし、人数合わせさえすれば良いと言うものでもない。やる気がある人にはそれなりの待遇をするし、そうでない人には待遇の格差はつける」とも言う。

・中小企業経営者にとっては、より難しい問題へ

 中小企業にとっては非常に頭の痛い問題だ。ある地方の中小企業経営者は、「もともと従業員数が少ない中小企業にとっては、責任ある仕事はしたくないという人材を置いておけるだけの余裕はない。ここまでになってくると規模を拡大しなくては、事業を維持できないのではないかと考え、M&Aなども視野に入れている」と話す。

 別の中小企業経営者は、「AIなどを導入し、機械化できる部分は機械に任せ、生産性を上げることで、正社員の数を絞り込み、待遇を上げることをいかに進めるか」と話す。

 一方、「向上心がなく、責任ある仕事はしたくないという若い世代が増えることは、まわりまわって企業の国際競争力を低下させるのではないだろうか。やる気のある留学生を採用すると言う仲間の経営者もいますが、なにか割り切れない気持ちもあります」と話す中小企業経営者もいる。

 中小企業でのインターンシップのより一層の受入れや、経営者による出張講義の実施など、中小企業経営や働くということの具体的なイメージを若い世代に伝えることも重要だろう。

 地域経済の復興のためには、中小企業の活性化が不可欠である。急激な人口減少によって、より深刻化するであろう人手不足に対して、どのような対応ができるのか、経営者自身の積極的な取り組みはもちろん、政府や地方自治体による一層の支援策が重要となっている。

 

神戸国際大学経済学部教授

1964年生。上智大学卒業後、タイ国際航空、PHP総合研究所を経て、大阪府立産業開発研究所国際調査室研究員として勤務。2000年に名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程を修了(学術博士号取得)。その後、日本福祉大学経済学部助教授を経て、神戸国際大学経済学部教授。関西大学商学部非常勤講師、愛知工科大学非常勤講師、総務省地域力創造アドバイザー、京都府の公設試の在り方検討委員会委員、東京都北区産業活性化ビジョン策定委員会委員、向日市ふるさと創生計画委員会委員長などの役職を務める。営業、総務、経理、海外駐在を経験、公務員時代に経済調査を担当。企業経営者や自治体へのアドバイス、プロジェクトの運営を担う。

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