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移籍金コストの削減を求めて。打倒プレミアリーグに向けて渦巻くビッグクラブの思惑。

森田泰史スポーツライター
フリートランスファーでユヴェントスに加入したラビオ(右)(写真:Maurizio Borsari/アフロ)

欧州では、各国でリーグ戦が続々と開幕を迎えた。一方で、プレミアリーグを除き、移籍市場はまだ開いている。

この夏、欧州5大リーグにおいて最も補強資金を費やしているのはスペインだ。補強費3億500万ユーロ(約356億円)のレアル・マドリー、補強費2億5500万ユーロ(約298億円)のバルセロナ、補強費2億4300万ユーロ(約284億円)のアトレティコ・マドリー。リーガエスパニョーラの「3強」が積極的な補強を敢行した。

2018-19シーズン、チャンピオンズリーグとヨーロッパリーグのファイナリストを独占したイングランド勢。この5年間、プレミアリーグ全体の補強資金が10億ユーロを下回ったことはない。2015-16シーズン(14億6300万ユーロ/約1711億円)、2016-17シーズン(16億5900万ユーロ/約1941億円)、2017-18シーズン(21億7600万ユーロ/約2545億円)、2018-19シーズン(16億5400万ユーロ/約1935億円)となっていた。この夏は15億4900万ユーロ(約1812億円)だった。

最高額の選手はマンチェスター・ユナイテッドが獲得したハリー・マグワイア(移籍金8700万ユーロ/約101億円)であった。また、この夏、チェルシーがFIFAの処分で補強禁止だった。その影響もあったかもしれない。

■移籍金ゼロの戦略

イタリアでは、この夏に法の改正が決定した。それにより、外国籍選手にとって魅力的なリーグになった。

その中でも、巧みに選手獲得を行っているのは、やはりユヴェントスだ。注目株のマタイス・デ・リフトを、移籍金7500万ユーロ(約87億円)で獲得。目玉の補強を成功させた。そして、アドリアン・ラビオ、アーロン・ラムジーをフリートランスファーで獲得している。

ユヴェントスは2011年夏にアンドレア・ピルロを移籍金ゼロで獲得したのを皮切りに、次々にフリートランスファーで選手を引き入れてきた。いわば、「移籍金ゼロの戦略」である。

ポール・ポグバ(2012年夏加入/フリートランスファー)、フェルナンド・ジョレンテ(2013年夏加入/フリートランスファー)、キングスレイ・コマン(2014年夏加入/フリートランスファー)、サミ・ケディラ(2014年夏加入/フリートランスファー)、ネト(2014年夏加入/フリートランスファー)、ダニ・アウベス(2016年夏加入/フリートランスファー)、エムレ・ジャン(2018年夏加入/フリートランスファー)...。このリストにラビオとラムジーが加わった。

また、ユヴェントスは2015年夏にコマンを2000万ユーロ(約23億円)でバイエルン・ミュンヘンに売却。2016年夏には1億500万ユーロ(約122億円)でポグバをマンチェスター・ユナイテッドに売却している。十分過ぎる費用対効果を挙げた。

そのユヴェントスに追随しようと、複数クラブが動きを見せた。代表例はインテルのロメル・ルカク獲得(移籍金6500万ユーロ/約76億円)、ナポリのイルビング・ロサーノ獲得(移籍金4200万ユーロ/約49億円)だろう。一方で、ミランがFFP(ファイナンシャルフェアプレー)において2014-2017の期間と2015-2018の期間で違反があったとされ、ヨーロッパリーグ出場権を剥奪された。

■レンタル手法

バイエルン・ミュンヘンはルカ・エルナンデス獲得に、契約解除金8000万ユーロ(約93億円)を支払った。選手獲得資金におけるクラブ史上最高額を更新。それも、2017年夏にコランタン・トリッソ獲得に支払った移籍金4100万ユーロ(約47億円)を大幅に塗り替えて、である。

近年、バイエルンは補強において国内に目を向けてきた。ヨーロッパのメディアで、「バイエルンする」と称された方針だ。これはブンデスリーガのライバルクラブ(主にボルシア・ドルトムント)から主力選手を引き抜き、自軍を強化するバイエルンに対する皮肉である。だが、「連合軍」と化したバイエルンでさえ、欧州の舞台では勝てなかった。

スポーツ的側面と金銭面。バイエルンにとって、マンチェスター・シティ、マンチェスター・ユナイテッド、レアル・マドリー、バルセロナ、ユヴェントス、パリ・サンジェルマンらとの競争はいずれにおいても厳しいものだった。

バイエルンは2017年夏に、2年レンタルでハメス・ロドリゲスを獲得。以降、この「レンタル手法」で選手を確保してきた。

今夏、アリエン・ロッベンとフランク・リベリの退団でサイドアタッカーを探していたバイエルンは、インテルからイヴァン・ペリシッチを獲得している。レンタル料450万ユーロ(約5億円)をインテルに支払い、買い取りオプション2000万ユーロ(約23億円)を有するという契約だった。

加えて、レンタル料850万ユーロ(約10億円)を支払い、フィリップ・コウチーニョを獲得。コウチーニョに関しては、1億2000万ユーロ(約140億円)の買い取りオプションを有している。

■ネイマール問題

ユヴェントスとバイエルン。この2クラブに共通しているのは、国内で圧倒的な強さを示しているところだろう。ユヴェントスはセリエA8連覇中だ。バイエルンは2013年からブンデスリーガの王者であり続けている。

彼らが切望しているのはチャンピオンズリーグ制覇である。

そして、そのチャンピオンズリーグのタイトルを強く欲しているのがパリ・サンジェルマンだ。だが、この夏のパリSGは大人しかった。最高額はアブドゥ・ディアロ(移籍金3100万ユーロ/約36億円)だ。2017年夏と2018年夏に、ネイマールとキリアン・ムバッペ獲得に4億ユーロ(約468億円)という大金を投じた。FFPへの抵触を恐れ、今夏は大型補強を「自粛」している。

スペイン、イタリア、ドイツ、フランスは9月2日に移籍市場が閉まる。大きな注目を集めているのが、ネイマールの去就だ。2年前の夏、移籍金高騰の引き金となったネイマールが、再び移籍に傾こうとしている。ビッグ・サマーになるのかどうか、その結末は神のみぞ知る。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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