Yahoo!ニュース

マグワイア移籍に見る、CBの価値基準に訪れる変化。リヴァプールのCL制覇に、ファン・ダイクの活躍。

森田泰史スポーツライター
マンチェスター・ユナイテッドに移籍したマグワイア(写真:ロイター/アフロ)

マンチェスター・ユナイテッドが、ハリー・マグワイア獲得を発表した。そのニュースは瞬く間に世界を駆け巡った。

ユナイテッドは移籍金8800万ユーロ(約105億円)をレスター・シティに支払っている。DF史上最高額で、マグワイアの移籍が決定したのである。

また、この夏、注目を集めたのがマタイス・デ・リフトの去就だ。彼を射止めたのは、ユヴェントスだった。移籍金7500万ユーロ(約90億円)でアヤックスとの交渉に決着が着いた。

ストライカーではなく、センターバックに着目される時代が到来したのかもしれない。

■ファン・ダイクの存在

2018-19シーズン、チャンピオンズリーグを制したのはリヴァプールだった。ロベルト・フィルミーノ、モハメド・サラー、サディオ・マネの3トップは破壊的な攻撃力を見せた。だが欧州制覇に不可欠だったのは、フィルジル・ファン・ダイクの存在だ。

リヴァプールは2017-18シーズン、冬の移籍市場でファン・ダイクを獲得。移籍金8500万ユーロ(約102億円)は当時のDF史上最高額であった。

ファン・ダイクの加入で、リヴァプールの守備力は飛躍的に向上する。プレミアリーグで42失点(2016-17シーズン)、38失点(2017-18シーズン)、22失点(2018-19シーズン)とゴールを割られる回数は減っていった。そして2018年夏にGKアリソン・ベッカーが加わり、組織としてリヴァプールに穴がなくなった。

18-19シーズンのプレミアリーグでは、最終節までデッドヒートを繰り広げた末に、マンチェスター・シティに優勝を譲った。そのシティには、17-18シーズンの冬の移籍市場でアイメリク・ラポルテが加入している。彼の獲得に際しては、アスレティック・ビルバオとの間に設定されていた契約解除金6500万ユーロ(約78億円)が支払われた。

■CBの価値

センターバックの価値が、変わり始めている。

2017年夏を振り返れば、ネイマールのパリ・サンジェルマン移籍がすべての話題をさらっていた。一人の選手を獲得するのに、2億2200万ユーロ(約264億円)という大金がはたかれた。

ネイマール以前・ネイマール以後の時代に分けられるほどに、あの移籍から、移籍金の高騰に歯止めがかからなくなった。また、パリ・サンジェルマンは同年夏にキリアン・ムバッペをレンタルで獲得。翌年の夏に1億8000万ユーロ(約216億円)を支払うという買い取り義務を契約に加え、ムバッペを確保した。

2018年夏においては、クリスティアーノ・ロナウド(1億1200万ユーロ/約134億円)、ケパ・アリサバラガ(8000万ユーロ/約96億円)、アリソン・ベッカー(7500万ユーロ/約90億円)、トマ・レマル(7000万ユーロ/約84億円)、リヤド・マフレズ(6800万ユーロ/約81億円)が獲得費ランキングの上位を占めた。

そして、迎えた2019年の夏。ジョアン・フェリックス(1億2600万ユーロ/約151億円)、アントワーヌ・グリーズマン(契約解除金1億2000万ユーロ/約144億円)、エデン・アザール(1億ユーロ/約120億円)、マグワイア(8800万ユーロ/約105億円)、リュカ・エルナンデス(8000万ユーロ/約96億円)とトップ5にDFの選手が2人ランクインしている。6位に入るのはデ・リフト(7500万ユーロ/約90億円)である。

それだけではない。レアル・マドリーが移籍金5000万ユーロ(約60億円)でエデル・ミリトンを、ナポリが3600万ユーロ(約43億円)でコスタス・マノラスを、パリ・サンジェルマンが3200万ユーロ(約38億円)でアブドゥ・ディアロを獲得している。

昨年夏、DFの最高額はパリ・サンジェルマンがティロ・ケーラー獲得に際してシャルケに支払った3700万ユーロ(約44億円)だった。それに次ぐのは、バルセロナがクレメント・ラングレ獲得に際してセビージャに支払った3590万ユーロ(約43億円)である。その事実を顧みれば「価格破壊」が起こっているのは明らかだ。

■バロンドール

今年のバロンドールに、ファン・ダイクを推す声が、少なからずある。

センターバックのバロンドール受賞は13年前に遡る。ファビオ・カンナバーロがバロンドーラーになり、守備の選手が注目を浴びた。2006年のドイツ・ワールドカップでイタリアの優勝に大きく貢献したのが評価された。

2018年のロシア・ワールドカップでは、フランスが優勝を飾った。ただ、運命というのは数奇なもので、ファン・ダイクとデ・リフトのいるオランダはその大会に出場していない。それでも、ポゼッションを重視したスペイン(2010年W杯優勝)とドイツ(2014年W杯優勝)が早期敗退に追い込まれ、堅固な守備を誇るチームの強さが印象付けられた大会だった。

フットボールにおいては、強者がボールを握り、弱者が引いて守ってカウンターを仕掛ける、という構図が自ずと成立する。だが近年、エース依存のチームは勝てなくなり、スモールチームがビッグチームを喰らうための戦法だった「弱者の兵法」が常態化してきている。

戦術というのは、時代と共に変化する。また、ポジションの価値も、呼応して変化する。

弱者の兵法への傾倒。あるいは、勝利への近道が守備力の強化というアプローチならば、そこに優れた選手が必要になる。故に、センターバックの価値が上がる。マグワイアの移籍、そしてDF史上最高額の更新がそれを物語っている。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

誰かに話したくなるサッカー戦術分析

税込550円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

リーガエスパニョーラは「戦術の宝庫」。ここだけ押さえておけば、大丈夫だと言えるほどに。戦術はサッカーにおいて一要素に過ぎないかもしれませんが、選手交代をきっかけに試合が大きく動くことや、監督の采配で劣勢だったチームが逆転することもあります。なぜそうなったのか。そのファクターを分析し、解説するというのが基本コンセプト。これを知れば、日本代表や応援しているチームのサッカー観戦が、100倍楽しくなります。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

森田泰史の最近の記事