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台風10号 高波・高潮・河川氾濫 いつ、どこが、どう危ないのか、わかりやすい情報があります

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
高波で発生する砂浜の戻り流れの上空写真(長岡技術科学大学 犬飼直之准教授提供)

 台風10号の今後の見通しについて、気象庁は「4日までに台風への備えを終わらせるよう」と呼びかけました。備えができたら次は、行動しなければなりません。溺水の引き金となる高波・高潮・河川氾濫については、いつ、どこが、どう危ないのでしょうか。それがわかれば命を守る行動も早く開始できそうです。

 観点は、風にあります。特に、どの方向から吹いてくるのか予め予測することができれば、道路冠水が始まる前に、暴風雨が始まる前に、いつもより早めに行動を起こすことができます。

風の向きと強さがわかる便利な情報

 Windy.comをご存知ですか?台風などによって引き起こされる風の向きと強さ、そして波(特にうねり)の向きと強さが可視化されており、目で見て直感的にわかるようになっています。これに加えて、現在から10日後までの予想も見ることができます。

 まずはとにかくWindy.comに飛んで、ご覧ください。ページの右にあるアイコンを選んでいただくと、風(向きと強さ)、雨(雨量)、気温、雲、波(うねり)などの分布をそれぞれ見ることができます。さらに地表ばかりでなく、上空の気象データを知ることもできます。

 「高波・高潮・河川氾濫に十分ご注意ください。」台風が来るたびに、一括にして警鐘が鳴らされます。「え、全部来るの?」いや、そうではなくて、高波・高潮・河川氾濫、それぞれ危険な時間、場所、程度が全く違います。一括ではどのように判断して良いかわからず混乱し、状況がひっ迫してから行動せざるを得ないのが現状です。

 「いつ、どこが、どう危ないのか」をもう少し詳しく知ることができたら、溺れる前に行動を起こせるのに。風の向きと強さを観点にすると、それが見えてきます。

高波

 海岸にいる人が高波にさらわれるのは、台風が比較的遠くにあり、風が弱くて天気の良い時です。なぜなら、台風が接近して暴風雨になると外を出歩く人が減るからです。「荒れた海で泳いで溺れた」という記事を目にすることがありますが、実態は砂浜にいて波にさらわれて、陸に戻ろうとして必死になって溺れた、というのが本当のところです。

 大きな台風の周辺のように、風が1,000 kmも同じ方向に吹けば、周期の長い波が発生します。これをうねりと言います。うねりは砂浜海岸に到達すると、砂浜の奥の方まで進んでいきます。

 図1をご覧ください。カバー写真にこの写真の一部を載せました。うねりが海岸の奥に到達して海に戻る時に、カメレオンの舌のように伸びた海水の道ができます。これが戻り流れです。写真では、長さが30 mにも達しています。実際にこの海岸では、この戻り流れに巻き込まれて30 m流されて5人が亡くなっています。

図1 うねりが海岸を駆け上がり海水が海に戻る、戻り流れを示している。右上の車と大きさを比較すると、かなり大きな海水の道ができていることがわかる(長岡技術科学大学 犬飼直之准教授提供)
図1 うねりが海岸を駆け上がり海水が海に戻る、戻り流れを示している。右上の車と大きさを比較すると、かなり大きな海水の道ができていることがわかる(長岡技術科学大学 犬飼直之准教授提供)

 Windy.comは、9月5日朝には台風よりもずっと先に強いうねりが南西諸島から西日本の太平洋側に到達することを示しています。さらに時間を進めて、台風が対馬海峡に達する頃には、東海地方を中心に海岸に強いうねりが押し寄せることを示しています。

 台風が近づく前でも過ぎ去った後でも、うねりには注意し、特に海釣りには出かけないようにしなければなりません。海岸を散歩するだけでも危険です。

高潮

 高潮は気圧が低くなり引き起こされる海面上昇、強い風で吹き溜まる海水、そこに満潮時間が重なるとひどくなり、海水が堤防を越えた瞬間に住宅街に突然水が襲ってきます。

 図2に示すように、台風は中心に近くなるに従って等圧線の間隔が狭くなる傾向にあります。つまり台風が近づくと急激に気圧が低くなり風が強まり、だからこそ高潮は急にやってくるのです。冠水が始まった時には流れもさることながら、悪天候で避難は難しくなります。さらなる早めの避難行動を心がけます。

【参考】台風9号、高潮に警戒 冠水が始まったら迷うことなく「垂直避難」を

図2 台風が海上にある時、湾の奥の箇所(赤丸)では高潮が発生する。このイメージでは、風向きが北東から南東に変わったら危険(筆者作成)
図2 台風が海上にある時、湾の奥の箇所(赤丸)では高潮が発生する。このイメージでは、風向きが北東から南東に変わったら危険(筆者作成)

 台風10号の進路が九州の西側を通過することになれば、一例として示す図2のような形状の湾の奥(赤丸の箇所)では気圧の低下で起こる海面上昇に加えて、湾の奥に海水が吹き溜まる恐れがあり、高潮による住宅街への冠水を想定しなければなりません。だからこそ、図2のイメージのような土地にお住いの場合には、風雨が弱く、北東からの風が南向きになる前に避難するように心がけたいところです。

河川氾濫

 山沿いに大量の雨が降れば、河川が氾濫する原因になります。海から吹いてきた湿った風が山に当たれば、そこで大量の雨が降ります。Windy.comは、9月6日午後に台風がまだ南方の遠くにいるにもかかわらず、宮崎県を中心にに東よりの風が海から吹きつけて、山沿いに雨を降らせることを示しています。

 もちろん台風本体の雨にも注意する必要がありますが、台風から遠いからと言って河川氾濫の危険がないということではありません。Windy.comの情報は、台風から遠くにある場所の危険性を気づかせてくれる点で有用性が高いと考えられます。

 山沿いで雨が弱くなったと言っても、その山を水源とする河川流域では下流にいくほど時間差で水かさが増していきます。河川水位情報や氾濫情報に気を付けるようになる点でも風の向きや強さの可視化は大変重要です。

まとめ

 今回の台風10号では、命を守る行動をいつも以上に早くしなければならないと心掛けたいところです。「自分の住んでいる地域はこれまで浸水がない」「台風は遠いから釣りに行ける」といった正常性バイアスを修正する上でも、風や波の向きや強さを可視化して、正しく知り、きちんと恐れるようにしたいものです。

※以上のWindy.comの情報は、9月4日6:00現在です。予想は刻々と変わりますので、常にご自身でご確認ください。また、あくまでも参考情報に用い、気象庁や自治体から発表される情報をしっかりと確認してください。

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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