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緊迫する朝鮮半島情勢、本当のところはどうなのか? 中国はほくそ笑んでいるのではないか?

山田順作家、ジャーナリスト
原子力空母「カール・ビンソン」(写真:ロイター/アフロ)

■ワイドショーまで「第二次朝鮮戦争が起こるのでは?」

第3艦隊の空母「カール・ビンソン」(母港・サンディエゴ)を中心とする「CSG」(空母打撃群)が派遣され、一気に緊張が高まってきた朝鮮半島。やがて、整備中だった第7艦隊の「ロナルド・レーガン」(母港・横須賀)を中心とする「CSG」も到着する。これに対して、北朝鮮(以下、北)は、「アメリカの望むあらゆる措置で応じる」と息巻いている。

おりから、16日に米国のペンス副大統領が訪韓し、18日には訪日して安倍首相と会談する。その一方、北は15日に金日成・元国家主席の生誕記念日、25日に朝鮮人民軍の創設85周年を控えている。テレビのワイドショーまで「第二次朝鮮戦争が起こるのでは?」と特集している。

そこで、なんでこんな状況になったのかを改めて整理し、現在オモテに出ている報道通りでいいのか?と、あえて「裏読み」をしてみたい。

■「アメリカはやるときはやるんだ」というメッセージ

そもそも、この事態を招いたのは、アメリカ(トランプ大統領)の方針転換にある。この“オレさま大統領”は、パームビーチの別荘(マー・ア・ラゴ)が大好きで、なんとそこに中国のリーダー習近平主席を招いて米中首脳会談を行なった。

そして、その後のティラーソン国務長官などの発言から要約すると、中国が北朝鮮に圧力をかけないなら「単独行動の用意がある」と述べたという。つまり、首脳会談前にミサイル発射という“火遊び”をやった北の“カリアゲ指導者“をもうこれ以上放置できないと決断したのだ。

この北に対する姿勢は、なんと習近平夫妻とのディナー中の行動によって裏付けられた。アメリカは、化学兵器(毒ガス)を使ったとされるシリアに、巡航ミサイル「トマホーク」を59発も打ち込んだのだ。

これは、「オレは“弱腰”オバマとは違う」「アメリカはやるときはやるんだ」というメッセージである。習近平は「人道的なことで賛同する」と応じて笑顔を見せたというが、主席就任時より太った腹の中は複雑だったと伝えられた。本当にそうだろうか?

■自意識過剰の“お人好し”はもっとも楽な交渉相手

翌日の首脳会談でも、“太っ腹”主席はトランプの言うことを終始笑顔で聞いていて、余計な発言は一切しなかった。ただし、トランプの要望である貿易不均衡是正「100日計画」を飲まされた。こうしたことで、今回の首脳会談は中国側がトランプに押し切られた。中国は追い込まれ、北朝鮮ともども、なんとかしなければならない状況になったという見方が大勢となった。日本の報道はほぼこの線である。

しかし、本当にそうだろうか?

もし中国が本当に北の“カリアゲ暴走”クンに手を焼いているなら、アメリカが始末してくれるというのだから、願ったり叶ったりではないのか? 北が潰れると、米軍と国境で対峙しなければならいから困るというが、そうなったところで現状とさして変わらない。米軍がいても統一朝鮮を手懐ければいいだけである。

しかも、トランプはシリア攻撃でまたも中東の泥沼に手を突っ込んだ。つまり、北と中東の2正面作戦をしてくれる。とすれば、中国が内海化しようとしている南シナ海まで手が回らなくなる。こんないいことはないのではないか?

さらに、シリア攻撃でアメリカはロシアとも完全な敵対関係に入った。事実、プーチンは「シリアは濡れ衣」と激怒している。これもまた中国にとっては、米中対決が薄まるのだから願ったり叶ったりではないのか?

“謀略と権謀”4000年の歴史を持つ中国にとって、アメリカ、とくにトランプのような自意識過剰の“お人好し”は、もっとも楽な交渉相手である。“不可解金髪ヘアスタイル”のこの大統領のやり方は、一貫している。大きくふっかけて半分ぐらいで妥協することだ。台湾を容認した(二つの中国)のに、すぐに「一つの中国」に戻ったことで、これは明らかだろう。

となると、貿易不均衡是正「100日計画」は、これから中身を協議するのだからたかが知れている。こうして、今回の首脳会談は、共同記者会見も共同声明もなく「異例」で終わった。中国の思うツボではなかったか?

■「ハンバーガー期間」中はミサイルを撃たず

それにしても、不可解なのは、トランプがなぜ北朝鮮とシリアに対する態度をコロッと変えたかである。大統領になっても「壁をつくる」と公約を守ろうとする男は、選挙中、こう言っていた。

対北朝鮮「ヤツ(金正恩)がアメリカに来るのなら会う。私ならハンバーガーを食べながらもっといい核交渉を行うだろう」

対シリア「サダト(シリア大統領)とロシアに任せる」

このトランプ発言を聞いて、“カリアゲ将軍”は、トランプが大統領に当選した昨年の11月8日から今年の2月12日までミサイルを1発も撃たなかった。北が再び“火遊び”を始めたのは、韓国がTHAADを年内配備すると決めたからである。

シリアもまた、オバマがレッドラインとした化学兵器を今日まで使わなかった。前回も今回も濡れ衣であるかどうかはわからない。ただ、今回はロシアの後ろ盾で内戦にほぼ勝利しつつあるのだから、使う理由がない。あるとしたら、ここで徹底的にやってもバレなければいいという「悪魔の理屈」だ。もともと中東は人命など尊重しない。中東はそういう世界というしかない。

シリア攻撃について、トランプが“フェイクニュース”と言う「CNN」や「NYT」紙などによると、大統領は「子供が毒ガスで痙攣している」写真を見て、シリア攻撃を即断したという。「WSJ」紙は、攻撃まで丸2日間熟慮したとしているが、本当だろうか?

■「自分=アメリカ」が舐められることは許せない

いずれにせよ、トランプ政権はまとまりがない。「NSC」(国家安全保障会議)も割れている。「NYマガジン」誌(NYT)によると、主席戦略補佐官バノンはシリア攻撃に反対した。その理由は、アメリカ人が犠牲になったわけでもないし、大統領が掲げる「アメリカ第一主義」にも反するというものだった。その後、バノンはNSCメンバーを外された。

攻撃に賛成したのは、娘のイヴァンカの夫クシュナーだった。中国企業に所有物件を売りつけて債務を解消したこのユダヤ人実業家は、子供が被害に遭っていることを強く訴え、「アサド政権を罰するべきだ」と主張した。もちろん、イヴァンカも賛成した。軍産複合体を代表する安全保障担当のマクマスター補佐官も賛成した。

今日までのトランプを見てきて、彼が熟慮する大統領だとは、とても思えない。安全保障についての知識も足りなかった。ただし、トランプは”トランプ主義”以外の何物も持たないから、「自分=アメリカ」が舐められることは許せない。

オバマの北朝鮮政策は、たしかに 「戦略的忍耐」(北がなにをやろうと無視)だった。トランプはこれに我慢できなかったようだ。強硬姿勢を見せると大統領の支持率は上がる。実際、就任以来、最高の“低”支持率が記録され、「CNN」まで「トランプは一人前の大統領になった」と報道した。驚いたことに、議会までミサイル攻撃を支持した。

■金正恩はメッセージをまともに理解できるか?

もし、第二次朝鮮戦争が起こったら、その最大の被害者は日本である。ミサイルは飛んでくるだろうし、自衛隊はアメリカ軍の補完軍として戦うことになる。大量の難民も受け入れねばならないし、莫大な戦費と復興費用も拠出しなければならない。

それなのに、日本には“トランプさま”の「行動」を止める力もなければ、まして“カリアゲ君”の北に対してはなんの影響力も持たない。

米中首脳会談後の4月9日、ティラーソン国務長官はABCテレビで、シリアへのミサイル攻撃は北朝鮮への警告の意味が込められていたことを強調し、「他国への脅威となるなら、(アメリカは)対抗措置を取るだろう」と述べた。ただし、「北朝鮮のレジーム・チェンジ(体制転換)には関心がない」と付け加えた。

このメッセージを、金正恩がまともに理解する能力を持っていることを祈りたい。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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