【F1】ロズベルグついに王者に。ちょっと退屈だったF1が変わる?2017年は変化の年に。
「F1世界選手権」2016年シーズンのドライバーズ選手権は「メルセデス」のニコ・ロズベルグ(ドイツ)が制した。父のケケ・ロズベルグ(当時ウィリアムズ)がF1王者に輝いてから34年ぶり。ついに息子のニコがF1の頂点に立った。親子二代のF1ワールドチャンピオンはグラハム・ヒル(1962年・68年)とデーモン・ヒル(1996年)に続いて2例目である。
ハミルトンから奪ったタイトル
今季はニコ・ロズベルグのシーズンだった。誰もがそう思う1年だっただろう。開幕のオーストラリアGPから4連勝。2年連続のチームメイトで3度の王座獲得経験を持つ最大のライバル、ルイス・ハミルトンを振り切ろうとするが、シーズン中盤のヨーロッパ連戦はハミルトンの連勝街道へ。ロズベルグは日本GPを制した後、波に乗るかと思われたが、終盤の4戦はハミルトンの連勝。勝利数ではロズベルグ9勝、ハミルトン10勝となった。しかし、マレーシアGPでハミルトンのマシンに起きたエンジンブローが大きなポイントロスとなり、これがハミルトンを苦しめることになる。さらに、日本GPではマックス・フェルスタッペン(レッドブル・タグホイヤー)に2位を奪われたことも今になってみれば大きく響いてしまったと言える。
三連覇に向けて逆転に挑んだハミルトンは最終戦アブダビGPの決勝レースを独走しながらも、2位を走るロズベルグの順位を落とさせる目的で意図的にペースダウン。一気にトップ争いは緊迫したが、ロズベルグも差を詰めてきたセバスチャン・ベッテル(フェラーリ)を巧みにブロックし、2位でフィニッシュ。ニコ・ロズベルグが5ポイント差でチャンピオンシップに勝利した。
レーシングカートの時代に当時のマクラーレン・メルセデスから目を付けられ、ジュニアチームでカートを戦ってきたハミルトンとロズベルグ。共にF1に昇格した際はカート時代と変わらぬ親友と言える関係にあったが、ここ3年間はガチのライバル。常に1位か2位でフィニッシュし続けなければチャンピオン獲得の可能性が無くなる難しいミッションの中での心理戦に注目が集まった3年間だった。切磋琢磨を超えた闘志むき出しのライバル関係はハミルトン2回、ロズベルグ1回の王者獲得で一旦、幕となった。
ファン離れを加速させたメルセデス独走時代
「メルセデス」のワークスチームが独走した3年間だった。2010年にブラウンGPを買収して復活した名門シルバーアロー「メルセデス」。2014年からのパワーユニット新時代に入ってからはその快進撃を止めるチームは現れず、「メルセデス」は3年間でトータル51勝(59戦中)。勝率はなんと86%。この数字からも「メルセデス時代」であったことが分かる。
今年の「メルセデス」は21戦19勝(勝率90%)。特定のチームが独走すれば、シリーズは非常に退屈なものになる。過去の独走例で代表的なのは、「マクラーレン・ホンダ」のアラン・プロストとアイルトン・セナによる16戦15勝の圧勝(勝率94%)に終わった1988年。今年の「メルセデス」の圧勝劇を上回る勝率だ。ただ、日本に限って言えば母国のホンダの活躍とセナ・プロ対決の構図がドラマとなり、後の本格的なF1ブーム到来の原動力となっていく。
1989年にエンジンが自然吸気(NA)、排気量3500ccの新規定に変わってからも「マクラーレン・ホンダ」の強さは変わらず。しかし、規定変更の年からの3年という基準で1989年〜91年の同チームの勝率を見てみると48戦中24勝(勝率50%)と意外に勝率は高くない。3年の間にプロストの「フェラーリ」移籍、「ウィリアムズ・ルノー」の躍進という新陳代謝があり、様々な見所が存在した。
1990年代半ばは「ウィリアムズ・ルノー」が圧倒的な強さを見せたが、マンセルの引退、プロストの引退、セナの事故死など様々な出来事があり、毎年ドライバーラインナップも変わっている。この時代はセナを失ったことと、多くのベテランドライバーたちが引退したことで、今とは違う意味でファン離れが進んだ年代と言えるかもしれない。
一方、独走で印象的なのは2000年代に入ってからの「フェラーリ」の強さ。いわゆる「皇帝ミハエル・シューマッハ時代」である。2000年〜2002年の3年間で「フェラーリ」は黄金期を迎えるが、51戦中34勝(勝率67%)とこれまた高い勝率となっているが、この時代は「マクラーレン・メルセデス」の強さ、シューマッハのライバルとしてハッキネンが敵陣営に居たこと、そしてBARホンダやトヨタなどの新たな自動車系チームの参戦もあり、常に話題の多い年代だったと言えよう。
こうした数字を見るだけでも90%という高い勝率を叩き出した「メルセデス」の圧勝劇がいかに特異なものだったがよく分かる。しかも3年間、ドライバーラインナップが変わらずで、全体的にドラマ性に欠いた所がファン離れを進めてしまったではないだろうか。勝利することは讃えられるべき素晴らしい事なのだが。
2017年は空力を制するものが大逆転する?
2014年〜2016年までの3年間はパワーユニット開発に成功した「メルセデス」の勝利だった。空力的には制限が多く、パワーユニットによる差がそのままレース結果に繋がり、敵陣営は挽回が厳しい3年間を強いられた。
しかしながら、2017年以降の「F1世界選手権」は車両規定が変わる。迫力のあるF1を目指し、タイヤのサイズや空力パーツの大型化が図られ、これまで以上に平均速度が増す見込みだ。
具体的に見ていくと、まずタイヤサイズが大きくなる。横幅はフロントタイヤで60mm、リアが80mm現行規定よりも増すほか、タイヤの全径も10mm大きくなる。接地面積が増えることでグリップ力が増加し、コーナリングスピードは飛躍的に速くなる。タイヤを供給するピレリはタイヤだけで今季よりも2秒速くなると試算している。
また空力面ではフロントウイングの横幅が今季よりも150mm広くなり、マシン全体の幅も200mm増加する。マシンのコーナリングスピードを左右するダウンフォースを増加させるためにアンダーフロアが最大200mm広くなり、全体的にマシンがワイド化され、見た目もかなり変わった印象になると予想される。ダウンフォース増加で2秒〜3秒速くなると目論んでおり、タイヤと合わせて5秒速いF1を目指す。単純計算でいけば鈴鹿サーキットで1分25秒台に突入することになるが、果たして。鈴鹿では、ミハエル・シューマッハ(当時フェラーリ)が2006年に記録したコースレコード=1分28秒954は確実に超えてくるだろう。
新規定では空力性能に秀でたマシンの製作が求められるが、その向上によってオーバーテイクがより難しくなると考えられ、ドライバーにもよりアグレッシブな走りが求められる。今季をもってフェリペ・マッサ(ウィリアムズ)、ジェンソン・バトン(マクラーレン)が引退するが、来季はベテランたちにとってフィジカル面でタフなシーズンになるかもしれないので、今後は選手の世代交代が顕著になる可能性もある。新世代のドライバーとして注目したいのは、やはりマックス・フェルスタッペン(レッドブル)やストフェル・バンドーン(マクラーレン)の2人。
とにかく来季のテーマは「空力面で当たりを引く」こと。空力面の新規定下ではその規定をうまく読み解き、最適なソリューションを見つけ出したチームが先行することになるだろう。現行規定下3年目で、似たようなルックスのマシンが出揃う事が多かった今季と違い、久しぶりに新車発表も楽しめるシーズンオフになりそうだ。新オーナーと共に新たな道を歩み出す2017年。F1の未来はまず新規定下でのマシンがファンの心を掴めるルックスかどうかにかかっているのかもしれない。