鬼滅の刃「物議」報道で考える、炎上や対立をあおるメディアとポータルサイトの構造問題
アニメ第3期となる『刀鍛冶の里編』が発表されてますます盛り上がりを見せる「鬼滅の刃」ですが、一部で入浴シーンについての議論で炎上が起きているという報道がされていました。
参考:『鬼滅の刃』入浴シーンが女性軽視と物議報道され炎上、原作ファン「作品を捻じ曲げようとする方がおかしい」
「鬼滅の刃」の甘露寺蜜璃の入浴シーンをカットするべきかどうかという議論が巻き起こっているというものですが、この炎上の発生の経緯に、現在の日本のネット炎上が作られる構造問題が浮き上がって見えますので、詳細にご紹介したいと思います。
個人的な結論からいうと、この炎上騒動はメディア報道によって作られた「放火的炎上」とでも呼ぶべき構造です。
アニメの放映から2日後に物議報道で話題に
今回の一連の流れを時系列でたどると下記のようになります。
■2月13日午後11時 テレビアニメで「鬼滅の刃 遊郭編」の最終回の放映時に、「刀鍛冶の里編」のアニメ化決定が発表される
■2月13日午後11時 直後から一部で甘露寺蜜璃の入浴シーンについての投稿がツイッター上で増える
■2月15日午前11時 まいじつニュースが入浴シーンが物議と記事化参考:『鬼滅の刃』第3期放送決定も…“入浴シーン”が物議「カットしてほしい」
■2月15日午前11時以降 上の記事がBiglobeなどのポータルサイト転載される
■2月15日午前12時以降 2ちゃんねるまとめサイトなどで、Biglobeの記事が話題になる
■2月16日午前中 記事に関するツイートが話題になった結果「入浴シーン」がツイッターでトレンド入りし、さらなる議論を呼ぶ結果に
■2月17日早朝 週刊女性PRIMEが騒動をまとめる冒頭の記事を公開
参考:『鬼滅の刃』入浴シーンが女性軽視と物議報道され炎上、原作ファン「作品を捻じ曲げようとする方がおかしい」
ポイントとなるのは、15日に公開された、まいじつニュースの記事の内容です。
記事の中では、5つほどのユーザーのツイートらしき発言を例に挙げ「問題視する声が殺到している」として、記事のタイトルを「“入浴シーン”が物議「カットしてほしい」」とした根拠としています。
ただ結論からいうと、既に多くの方が検証しているように、このタイミングで入浴シーンに対してカットしてほしいと明確に嫌悪感を示しているツイートは、実際には、ほとんど存在していなかったようです。
放映直後は数十件しかなかったツイート
記事で引用されている5つのツイートのうち2つはネガティブなトーンではない発言をネガティブに見えるように修正した印象があるほど。
仮にその2つもネガティブだったとしても、実は最大でも5人しかいなかったことになります。
実際にグラフでツイート数を見てみましょう。
これは「鬼滅の刃」と「入浴」が含まれたツイート数の推移のグラフです。
番組放映の2月13日深夜のタイミングでは、実は入浴シーンについてのツイートはほとんど存在しておらず、グラフ上は合計で40件ほど。
それもほとんどが入浴シーンが楽しみというものや、批判をあびるかもしれないから心配というトーンのものです。
実は、まいじつニュースのタイトルにあったような「カットしてほしい」という趣旨の発言は、記事以外のものを見つけられませんでした。
もちろん、記事に掲載されていた発言の1つは投稿者によって削除されたようなので、この話題が記事化されたことで批判が集まって消した可能性は否定できません。
ただ、少なくともこのグラフを見て頂ければ13日深夜のツイート数は微々たるもので、今回の炎上が本格化したのは15日のまいじつニュースの報道以降というのが明確に分かって頂けるかと思います。
数万件の喜びの声の中の数件は殺到か?
さらに見て頂きたいのはこの「刀鍛冶の里編」のツイート数のグラフです。
刀鍛冶の里編の発表を喜ぶツイートだけで23000件を超えています。
さらに「鬼滅の刃」に関するツイート数を見て頂くとこの状態。
10万件近い投稿があるのです。
この状態において、入浴シーンについての批判的な数件のツイートを元に「問題視する声が殺到している」という表現で「“入浴シーン”が物議」というタイトルの記事を書くというのは、正直かなり無理があると思うのは私だけではないはずです。
私のような一介のブロガーがプロの商業メディアの方にこういう言い方をするのは大変失礼になりますが、これらのデータを見る限り「フェイクニュース」の領域だと思います。
(もし、私に見落としがあるようであれば、是非ご指摘いただきたいと思います。)
繰り返されるメディアにより作られた炎上
実は、鬼滅の刃については丁度1年前にも「遊郭編」の放送が決まったときに、同様にたいして炎上していなかった議論がメディア報道によって炎上したかのように報道されたケースがありました。
参考:鬼滅の刃「遊郭編」の炎上報道で考える、軽くなるメディアの「炎上」記事が生むリスク
上記の記事でも書きましたが、ネット広告収入を収入源とするネットメディアにおいては、どうしてもアクセスを集めるために数名の議論を、今回のように「物議」や「炎上」として報道するケースが減らないのが現状のようです。
もちろん、当然ながら日本には言論の自由があり、ネット上には私のような個人のブロガーも含めてさまざまなメディアがありますから、こうした記事が出てくること自体は避けられないのかもしれません。
ただ、明らかに、この記事がなければそれほど話題にならなかったであろう話が、この記事をきっかけに賛成派と反対派の対立構造を生み、ネット上の実際の炎上につながっているという意味では、メディアによる「放火的炎上」と呼べるものだと言えると思います。
特に現在ツイッター上では、今回の入浴シーンのような女性の表現に対して、非常に厳しい指摘をするグループと、その指摘が厳しすぎるとして反発するグループの対立が激しくなっており、ちょっとした投稿が簡単に炎上する傾向にあります。
参考:《サイゼで喜ぶ彼女》SNS投稿イラストが「女性蔑視」と炎上も、実写化ブームで“いいね稼ぎ”続出
メディアも、当然その騒動を報道すること自体でアクセスが集められるという現状もありますから、ある程度はやむをえないのかもしれません。
ただ、実態を誇張して行き過ぎた対立を煽る報道は、どこかで取り返しのつかない悲劇を生むきっかけになる可能性が、否定できないのではないかと懸念しています。
人工的な炎上を煽る記事を転載するポータルの責任は
特に、ここで注目したいのが、この記事がBiglobeなどの大手ポータルサイトに掲載されたことが話題の拡散に明らかに貢献している点です。
実はツイッターを見る限り、明らかにこの話題の拡散に貢献しているのは、まいじつニュース本体の記事ではなく、それが転載されているBiglobeの記事になります。
当然ながら記事を見た人からすると、名前も知らないニュースサイトの記事よりも、Biglobeのような大手ポータルに掲載されている記事だからこそ、この記事が事実だと思って読んでしまう可能性が高くなるわけです。
大手ポータルサイトが、今回のようなネット上の対立を狙っている「フェイクニュース」のような記事を掲載し続けるべきかどうかというのは、今後議論のポイントになってくるように思います。
実際に、この記事執筆時点では、Biglobe側の該当記事は削除されているようです。
ポータルに転載された記事は一定期間で削除されるのが通常ですが、今回は明らかにそのタイミングが早い気もしますので、ひょっとするとクレームに対応する形で削除をしたのかもしれません。
過去にサザエさんの炎上報道で似たような問題が起こった際には、ポータルサイト側が記事を削除し、配信元のメディアもタイトルを修正するという対応をしていましたから、同様にポータルサイト側からメディアへの指導も重要になってくるように感じます。
参考:サザエさん炎上騒動で考える、テレビの話題に頼るネット報道の問題点
メディアは国民を映す鏡とも言いますが、その国民を動かすのもメディアの報道です。
その上で、様々なメディアが増えている現状において、非常に重要な役割を担っているのが大手ポータルサイトやニュースアプリだと言えると思います。
是非、大手ポータルサイトやニュースアプリの方々には、自分達のポータルやアプリに表示するメディアの記事の基準というものを、あらためて考えていただきたいと祈る次第です。