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天皇陛下61歳のお誕生日 イギリス留学時代の友人が明かす陛下の学生時代とは

つげのり子放送作家、ノンフィクション作家(テーマ:皇室)
オックスフォード大学ご留学時代の天皇陛下と高田創さん(写真提供・高田創)

 2月23日、天皇陛下が61歳のお誕生日を迎え、今年はコロナ禍の影響により、皇居宮殿での祝賀行事は縮小して開催される。プライベートでも雅子さまや愛子さまとともに、ささやかにお祝いされたことだろう。

 去年春に予定していた即位後初めての海外公務となるはずだった、イギリス外遊も無期限の延期となっている。イギリスは陛下が留学されていた思い出の地であり、等身大の学生として自由な青春時代を過ごされた。

 陛下のご留学先は、世界的名門のオックスフォード大学。今から35年以上前、陛下は海外の地でどんな学生生活を過ごされていたのだろうか?同じ時期に留学し、現在は岡三証券グローバル・リサーチ・センター理事長を務める、高田 創(たかた はじめ)さんにお話を伺った。

■オックスフォード郊外のパブで陛下と初対面

 高田さんが、天皇陛下(当時は浩宮さま)と初めて出会ったのは、1984年の冬に差しかかる頃だったという。当時、高田さんは日本興業銀行から派遣されて、オックスフォード大学に留学し経済について学んでいた。

 ある日のこと、オックスフォード郊外の900年の歴史を誇るという、人気の老舗パブ「ザ・トラウト・イン」へ出かけたところ、そこに偶然、数人の学生たちと一緒に陛下もいらっしゃった。「ザ・トラウト・イン」は、テムズ川のほとりに面し、古民家風の店内には使い込んだ革張りのチェアが並び、暖炉には火が入っていた。

 高田さんは、すぐに陛下がいらっしゃることが分かり、無意識に視線を向けたところ、陛下がそれを察知されて会釈してくれたという。

「なんて気さくな人なのだろう」

 陛下の人懐っこい笑顔に誘われるように、高田さんは畏れながらと自己紹介をすると、陛下は——

「初めまして。徳仁です」と挨拶されたという。

 当時、オックスフォードの町には日本人があまりいなかったこともあって、陛下と同じテーブルに座るよう促された。オックスフォード大学の留学生同士でもあり、生活の様子やどんな勉強をしているのか語り合ったという。

「私はイギリスの中世の交通史について勉強しているんですよ」と陛下。

 高田さんは歴史的な学問の大変さを承知していたので、「資料集めが大変ではありませんか?」と質問したところ、素直にこう答えられた。

「そうなんですよ。いろんなところに行って集めているんですが、体系的に調べようとすると、時代によっては入手が困難なものも多く、大変なんです」

 ご自分の研究について熱心に語られる陛下に接し、生真面目なくらい勉学に励んでいらっしゃるのだという印象を受けたという高田さん。

「このパブは、郊外にある中ではお気に入りの一つだったと思います。陛下はイギリスならではの、歴史がある雰囲気のパブがお好きでいらっしゃいました」

 陛下がお酒に強いことは広く知られており、この時はウィスキーを飲んでいらっしゃった。お気に入りのパブに人々が集い、グラスを片手に心置きなく語り合う。

 陛下はお酒を飲むというより、こうしたリラックスできる雰囲気を楽しんでいらっしゃるのではないかと、高田さんは感じた。

■さりげない陛下の気遣い

 天皇陛下と最初に会ってから数週間後、今度は街の中でばったり再会した。その時、陛下がおっしゃったのは、こんな言葉だった。

「高田さん、ヒゲを剃ったんですか?」

 パブで会った時、高田さんはヒゲを生やしていたのだが、その後、剃ったことに陛下はいち早く気づいて下さったのだ。そして何より感銘を受けたのは、ちゃんと名前を覚えていて、「高田さん」と呼んでくれたことだった。

 陛下は一期一会を大切にされる、気遣いのある方でいらっしゃるのだと、感じた瞬間だった。

■高田さんが驚いた、陛下の意外な一面

 たくさんの思い出の中で、高田さんが特に印象に残っているのは、陛下の多岐にわたる話題の豊富さだったという。

 海外情勢や経済問題などは言うに及ばず、歴史や哲学など博識でいらっしゃる上に、意外な話題でも高田さんと盛り上がったとか。

「ふと、日本の芸能人のお話を何気なく陛下としたことがあったのですが、陛下はよくご存知だったので驚きました。どうやって情報を知っていらっしゃるのかなぁと思いました」

 陛下と高田さんは同世代。当時、陛下は24歳、高田さんは26歳だった。

同じ時代の芸能人やアイドルの話題を共有したことは、皇室の方々も私たちと同じなのだと身近に感じることができる出来事だった。

 とはいえ、今になって考えると、陛下はどういう話題でも笑顔で聞いてくださったので、あえて話を合わせてくれたのかもしれない、と高田さんは振り返る。それも、陛下の優しい気遣いの一つだったのだろう。

 オックスフォード大学でともに過ごした日から約37年。天皇陛下が築こうとされている令和の皇室像に、かつての留学経験が大きく影響しているのかもしれない。

後半:https://news.yahoo.co.jp/byline/tsugenoriko/20210224-00221489/

放送作家、ノンフィクション作家(テーマ:皇室)

2001年の愛子内親王ご誕生以来、皇室番組に携わり、テレビ東京・BSテレ東で放送中の「皇室の窓」で構成を担当。皇室研究をライフワークとしている。西武文理大学非常勤講師。日本放送作家協会、日本脚本家連盟、日本メディア学会会員。著書に『天皇家250年の血脈』(KADOKAWA)、『素顔の美智子さま』『素顔の雅子さま』『佳子さまの素顔』(河出書房新社)、『女帝のいた時代』(自由国民社)、構成に『天皇陛下のプロポーズ』(小学館、著者・織田和雄)などがある。

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