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森保ジャパンを理解する、3バックの見方

清水英斗サッカーライター
E-1選手権、中国戦は2-1で勝利(写真:ロイター/アフロ)

E-1サッカー選手権、中国と対戦した日本代表は、2-1で初戦の勝利を飾った。

橋岡大樹へのカンフーキックで悪名を立てた中国だが、試合内容は悪くなかった。丁寧にポゼッションして攻撃を組み立てており、過去のフィジカル任せの中国から脱却しようとトライする様子が伝わってきた。

一方、森保ジャパンがトライしたのは、6月以来の3バックである。初顔合わせの選手が多い中、システムまで変えるのはリスクが大きいが、森島司や鈴木武蔵、橋岡大樹など、クラブでも3バックの経験がある選手を多く起用することで、そのリスクを軽減した。

この3バックだが、4バックとは何が違うのか? どこを見ればいいのか。

3バックを使うメリットは、中盤や前線を1枚増やせることだ。どこに優位を作るかは型によって異なるが、森保ジャパンの[3-4-2-1]の場合、両ウイングハーフの遠藤渓太と橋岡が大外にポジションを取った上で、中央に1トップ・2シャドーの3人を確保できる。

中国のシステムは、[4-3-3]だった。2人のセンターバックの前に、日本の1トップ・2シャドーの3人が立つ形だ。つまり、2対3。中国は初期配置ですでに問題が起きていることになる。かみ合わせでこうした問題を引き起こせるのが、3バックの特徴の一つだ。

では、中国はこのかみ合わせをどう解決したのか。

焦点となるのは、2シャドーの森島と鈴木への対応だ。ここにサイドバックが近づくと、大外で遠藤と橋岡が大外でフリーになってしまう。そこで中国はMF3人のうち、右インサイドハーフの17番ジン・ジンダオが下がり、森島を見張った。左センターバックの2番リー・アンが鈴木へ、右センターバックの3番メイ・ファンが上田綺世に付き、DF2人+MF1人で3人を抑える。マンツーマンでかみ合わせた格好だ。反対側の左インサイドハーフ、10番チャン・シージエは攻撃的な選手だったので、日本に対する守備はこの形が多くなった。

ここで注目したいのは、森島の飛び出しだ。彼をマークしているのはインサイドハーフのMFジン・ジンダオなので、森島が高い位置へ飛び出すと、どこまでマークして追走するべきか、相手に迷いが生じさせることになる。MFジン・ジンダオが追走すれば、中盤にスペースが空くため、日本はそこを突くことも可能だ。

また、ジン・ジンダオは攻撃時は前へ行くため、攻守が切り替わった瞬間、森島はフリーになりがちだ。このかみ合わせのすき間を素早く突けるか。

中国の守備を動かすには、森島がスイッチになる。この試合はそこが焦点だった。

17番を外して勝負あり

日本の1トップ・2シャドーと、中国の守備。ここまで抑えておくと、日本の先制シーンが、いかに効果的な崩しであったかが理解できる。

前半29分、ボールは日本の左サイドにあった。

佐々木翔から森島へ短くパスを入れ、17番ジンダオが鋭く寄せて来たため、森島はワンタッチで佐々木へ返す。すると佐々木は目先を変え、ワンタッチで上田へ縦パスを通した。

その間に森島はバックステップして17番ジン・ジンダオの背後へ回り、3人目の動きでマークを外して飛び出す。そして上田の足裏パスを受け、ドリブルで持ち込むと、最後は中へ折り返して、鈴木のゴールをアシストした。

飛び出した森島が「ドリブルで持ち込むと」と書いたが、17番を外した森島が一気にゴール前まで侵入できたのは、中国の守備が人解決、マンツーマンに偏っていたからだ。

DF2番リー・アンは逆サイドで鈴木をマークしたまま、距離が遠く、森島の突破に対するカバーが効かなかった。同時にアンカーの21番ワン・シャンユアンも、中盤の底のスペースを抑える意識はなく、10番と共に日本のダブルボランチ、橋本拳人と井手口陽介に寄せていた。

1トップ2シャドーに対する、人解決。カバーは遅い。中盤で人を振り切れば、中国の守備は芋づる式に崩れる。森島が17番のマークを振り切ったところで、勝負は決まった。

特に効いたのは、佐々木のワンタッチパスだ。この縦パスが17番の注意を引きつけ、森島に時間を与えることになった。最近、佐々木は球際負けする点で酷評されがちだが、ベネズエラ戦でも日本の唯一の得点は、佐々木の鋭い縦パスから生まれている。右利きだが、左利きのようにプレーできる佐々木の縦パスは非常に質が高い。長友佑都には無い個性がある。対戦相手、試合展開、うまく生かして欲しいところだ。

もっとも、これだけを読むと、日本がすごく良い試合をしたように思えるが、この先制場面のような理想的な攻撃はかなり限定された。むしろ日本が少ないチャンスを、素晴らしい決定力でモノにした試合だ。

先制した後は森島に対する17番ジン・ジンダオのマークも厳しくなり、上記の場面ほどのビッグチャンスは作りづらくなった。後半の日本は、攻撃の目先を左サイドから右サイドへ移したが、鈴木は森島のように器用なタイプではなく、橋本も遠藤のように仕掛けるタイプではない。選手の組み合わせ的に、左サイドほど多彩な攻撃にはならず、停滞した。

1トップ・2シャドーの優位性は、パスがテンポ良くつながってこそ生きるが、そこで技術的なノッキングが起きると、遠い位置にいた中国のDFでもカバーが間に合ってしまう。右サイドでは、なかなかそのクオリティーを出せなかった。

そんな矢先、後半25分に日本はCKから追加点。うまく相手をブロックして三浦弦太をフリーにし、ヘディングで沈めた。こちらも素晴らしい決定力だった。決定力は不足したときのみ指摘されるが、この試合では長けていた。

課題もノッキングも多かったとはいえ、初顔合わせだらけのチーム編成で臨んだE-1選手権の初戦としては、悪くない内容だろう。

3バック、特に1トップ・2シャドーの優位性をどう生かすか。森島らの動きを、JリーグMVP&得点王の仲川輝人はどう見ていたか。14日の香港戦が楽しみだ。

サッカーライター

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。新著『サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点』『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』。既刊は「サッカーDF&GK練習メニュー100」「居酒屋サッカー論」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材に出かけた際には現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが最大の楽しみとなっている。

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