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日本国産の巡航ミサイル「潜水艦発射型誘導弾」は魚雷発射管型

JSF軍事/生き物ライター
参考:アメリカ海軍より潜水艦発射型ハープーン対艦ミサイル

 4月11日、防衛省は「スタンド・オフ防衛能力に関する事業の進捗状況について」で4つの国産長距離ミサイル開発事業を三菱重工と契約したと発表しました。このうち「潜水艦発射型誘導弾の開発」は2022年12月26日に発表されていた令和4年度事前の事業評価にも掲載されていたものと同じで、潜水艦の魚雷発射管から発射する長射程の巡航ミサイル(対艦対地兼用)になります。(今回4月11日の発表で新しく判明したのは「三菱重工と契約」という部分のみ)

既存の潜水艦のシステムに対して、大規模な改修を伴わない誘導弾とし、必要コストを低減

出典:令和4年度事前の事業評価:潜水艦発射型誘導弾(PDF):防衛省

※既存の潜水艦のシステム=魚雷発射管の意味

  • 魚雷発射管(水平発射)・・・既存の潜水艦の装備。直径533mm
  • VLS(垂直発射)・・・将来の潜水艦に装備予定。大きさは未定

 なお防衛省は潜水艦用のVLSを開発予定であり(2022年12月16日に策定された防衛3文書の「防衛力整備計画」で発表済み)、それとは別に魚雷発射管から発射できるタイプのミサイルも開発することになります。早期に大量に配備するためには既存の潜水艦から発射できるミサイルが必要ということになるのですが、海上自衛隊の潜水艦の魚雷発射管は直径533mmまでという大きさ制限があります。

 しかし現在開発中の12式地対艦誘導弾能力向上型は大型化した上にステルス形状化の為に角張った断面をしており、直径533mmの円筒に収まりそうにありません。そうすると二通りの方法が考えられます。

  • 12式地対艦誘導弾能力向上型の形状を変更(推定射程:1500km以上)
  • 17式艦対艦誘導弾の水中発射型、形状変更は不要(推定射程:数百km)

 現時点では「潜水艦発射型誘導弾」がどのような設計になるのか詳しい説明はありません。17式艦対艦誘導弾は12式地対艦誘導弾(通常型)から派生した対艦ミサイルなので、どちらにせよ12式地対艦誘導弾の派生型となりそうです。

 巡航ミサイルの水中発射型はミサイルを丸ごとカプセルに収納して射出して、海面でカプセルを脱ぎ捨ててブースターに点火して上昇します。

 ミサイルの形状を大きく変更・改修して潜水艦の魚雷発射管に対応させた前例としては、フランスの空対地巡航ミサイル「SCALP-EG」→艦対地巡航ミサイル「MdCN(旧名称:SCALPナヴァル)」という例があります。

※現在のところ研究開発のみで量産は決まっていない「島嶼防衛用新対艦誘導弾」は川崎重工の担当なので、三菱重工が担当する「潜水艦発射型誘導弾」とはまた別のミサイル。

潜水艦発射型誘導弾の攻撃目標

防衛省・令和4年度事前の事業評価より「潜水艦発射型誘導弾」
防衛省・令和4年度事前の事業評価より「潜水艦発射型誘導弾」

防衛省・令和4年度事前の事業評価より「潜水艦発射型誘導弾」
防衛省・令和4年度事前の事業評価より「潜水艦発射型誘導弾」

 潜水艦発射型誘導弾の攻撃目標は「我が国への侵攻を試みる艦艇や上陸部隊等」と説明されており、説明図には洋上の「敵水上艦艇」および停泊中の艦艇(島嶼への揚陸作業中)が目標となっています。対艦対地の兼用で、おそらく対艦攻撃が主任務で、限定的な対地攻撃能力を持ちます。

 海上自衛隊の潜水艦は従来はアメリカ製ハープーン対艦ミサイルの水中発射型を運用してきましたが、潜水艦発射型誘導弾はそれより射程が長いミサイルとなる予定です。なお実は、ハープーンBlockⅡはGPS誘導による対地攻撃能力が付与されています。

This Harpoon Block II missile incorporates GPS-assisted inertial navigation, which enables the system to have both an anti-ship and a land attack capability.

「このハープーンBlockIIミサイルにはGPS支援慣性航法が組み込まれていて、これによりシステムは対艦攻撃能力と陸上攻撃能力の両方を持つことができます。」

出典:Harpoon | NAVAIR (アメリカ海軍航空システム軍団)

 あまり知られていませんでしたが、海上自衛隊の潜水艦はハープーンBlockⅡによって既に対地攻撃能力を与えられていました。新たに国産の「潜水艦発射型誘導弾」を開発する意味は、ハープーンでは射程が足りないということなのでしょう。

関連記事:日本国産の長距離ミサイル2種類は2023年に量産着手、2026年に納入予定(2023年4月11日) ※「12式地対艦誘導弾能力向上型」と「島嶼防衛用高速滑空弾」について 

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人兵器(ドローン)、ロシア-ウクライナ戦争など、ニュースによく出る最新の軍事的なテーマに付いて兵器を中心に解説を行っています。

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