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地震対策の意外な落とし穴、引っ越ししたら必ず家具を留めましょう

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長
(写真:アフロ)

新年度を迎えるこの時期は、引っ越しをしたり、子供部屋に学習机や本箱を置いたりする時期です。家具固定や、備蓄品の購入など、地震対策の最高のタイミングを逸しないために、家具固定などについて考えてみます。

意外な落とし穴

過去10年間に起きた地震で、死者が1人だった被害地震が全部で5つあります。2007年能登半島地震(マグニチュードM6.9、負傷者356人、全壊家屋686棟)、2008年岩手県沿岸北部の地震(M6.9、211人、1棟)、2009年駿河湾の地震(M6.5、319人、0棟)、2011年長野県中部の地震(M5.4、17人、0棟)、2012年千葉県東方沖の地震(M6.1、1人、0棟)の5つです。それぞれの死因は、石灯籠の転倒、病院のベッドからの転落、書籍が崩れての窒息、本の下敷き、地震による体調不良(95歳の高齢の女性)、とされています。

地震での死因と言えば、関東大震災の火災、阪神淡路大震災の建物倒壊、東日本大震災の津波などを思い浮かべますが、比較的規模の小さな地震では、身の回りのちょっとしたことで命を落とすことがあります。

家具の転倒と移動

家具は強い揺れを受けると、転倒したり移動したりします。従って、揺れやすい地盤や揺れやすい建物の高層階では、家具の転倒や移動が生じやすくなります。簡単な物理の計算になりますが、家具の重心が家具の中心だったとし、家具の高さがH、家具の奥行きがD、家具と床の摩擦係数がμだったとすると、静的には、家具が転倒するのは、家具が置いてある床の加速度が980×D/H(Gal)を超えたとき、家具が移動するのは、床の加速度がμ×980を超えたときになります。D/H<μの場合には家具が転倒し、逆の場合には家具が移動します。すなわち、床が滑りにくく背の高い家具は転倒し、逆の場合は家具が走ります。キャスター付きの家具はμが小さいので、激しく走り回ります。

家具の転倒・移動防止

寝室など、寝ていて無防備な時間の多い部屋では、作り付けの家具にしたり、家具部屋を作ったりするのが良いのですが、それができない場合には、家具が転倒・移動しないように、家具を固定する必要があります。

ホームセンターに行くと、様々な家具固定器具が販売されています。よく見るのは突っ張り棒、L字金具、耐震(粘着)マット、転倒防止板などです。

突っ張り棒は、手軽なのでよく使われています。とくに、壁に傷をつけにくいので、賃貸住宅では良く使われます。ですが、取付け方を間違えると余り効果がありません。コンクリートの天井であれば良いのですが、天井が軟らかいと突っ張ることができません。突っ張り棒は、必ず、家具の奥の側に壁に直交させて設置し、天井と突っ張り棒の間に堅い板を咬ませて天井と面で接するようにしたり、転倒防止板などと併用すると効果的です。

一番確実なのは、L字金具を使って、しっかり壁に固定する方法です。ただし、最近の壁は石膏ボードのため、ネジが効きませんから、必ず、木製の下地を探して、そこに固定する必要があります。

意外と盲点なのは、吊り下げ照明、冷蔵庫、大型テレビなどの固定です。吊り下げ照明はブラブラしないようにワイヤなどで固定する必要があります。また、最近の冷蔵庫や大型テレビには家具固定用のフックがついていますのでそれを利用して壁に固定して下さい。

引っ越し時は地震対策の最高のチャンス

引っ越しの時は地震対策の最高のチャンスです。まずは、引っ越し先の歴史や地形の特徴をよく調べ、土地の危険度のチェックをしてください。できるだけ危険なところは避けることをお勧めします。つぎは、建物の耐震性のチェックです。建築年が1981年以前かどうか、1階が駐車場などになっていないか、などがポイントです。引っ越し業者に頼めば家具の固定もしてくれると思います。ちょっとした家具の配置で、危険度が大きく変わります。また、種々の備蓄品を揃えるにも良い機会です。ぜひこの機会を逃さず、地震帯対策を進めて下さい。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

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