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「かぐや姫戦略」の効用と限界:上野千鶴子氏インタビューを2年ぶりに検証

大宮冬洋フリーライター

自宅から歩いて行ける距離に気楽に誘い合える友だちがいるかいないかは生活の質を大きく左右する。一人もしくは核家族だけで孤立して暮らしていると、居住地域の様々な重要情報が入って来ない。物々交換ついでのおしゃべりや家飲みでストレス解消もできないし、緊急事態のときに頼ることもできない。社会的動物である人間としては危険な状態であると思う。小さなサルがジャングルで単独行動をするようなものだ。

2年半前の再婚を機に、東京・杉並区から愛知・蒲郡市に引っ越した僕は、とにかく「友だちが誰もいない地域に住む」ことが不安だった。当時、社会学者の上野千鶴子氏にインタビューする機会があったので相談したところ、「ジモティーと仲良くなるのは無理。『ガイジン』たちが集う場所に行きなさい。妻がジモティーならば同調圧力がかかるかもしれないけれど、下手に同調せず、『あんまり僕を粗略にすると月に帰るかもしれないよ』と匂わせなさい」との知恵を授けられた(インタビュー詳細はこちら)。まれびとであることを貫く「かぐや姫戦略」である。

引っ越しして半年ほど経ち、生活や仕事が少し落ち着いた頃を見計らって、僕は友だちを探すことにした。散歩とネット情報によって駅前にコーヒーショップを見つけた。店主夫妻は僕と同世代。置いてある本や内装にも親しみを覚える。何度か通っていると、客層は新住民もしくは外の情報が好きな地元民、すなわちガイジンたちが多いことに気づいた。読書会や落語会などのイベントも定期的に開催しているようだ。上野氏が言っていた「場所」というのはここなのかもしれない。

このコーヒーショップのおかげで気軽に連絡できる友だちがこの町にも10人ほどできた。僕以外の全員が自家用車を乗り回してバイパスの話などをしているが、僕は助手席でニコニコしている。まさにまれびとである。

かぐや姫戦略には限界もあることもわかってきた。お互いにガイジンとして「たまたま住んでいる場所」と「相性の良さ」だけでつながっているので、さらなる引っ越しをしたら関係性が断ち切れてしまいやすいのだ。一つの地域で暮らし続け、一時的に離れても必ず戻ってくるジモティーやマイルドヤンキーのような絆は求められない。上野氏によれば、このような絆も中身を見ると「本当は縁を切りたいけれど行動範囲が狭いので離れられないだけの腐れ縁」だったりする。しかし、人間関係とは本来、面倒臭さやしがらみも含めて受け入れるものだという気もしてくる。

生まれ育った場所を離れるのならば、「かぐや姫戦略」は非常に有効である。気の合った人たちだけで集まれるし、良質な情報だけを得やすく、いじめなどは起きにくい。快適そのものだ。しかし、一方では快適さゆえに壊れやすい関係性だと感じる。

月に帰ったかぐや姫は、地球の人たちとの交友をその後も続けたのだろうか。それとも、月の家周辺で新たな友だちを見つけて楽しくやったのだろうか。どうか両方であってほしい。

フリーライター

僕は1976年生まれ。40代です。燦然と輝く「中年の星」にはなれなくても、年齢を重ねてずる賢くなっただけの「中年の屑」と化すことは避けたいな。自分も周囲も一緒にキラリと光り、人に喜んでもらえる生き方を模索するべきですよね。世間という広大な夜空を彩る「中年の星屑たち」になるためのニュースコラムを発信します。著書は『人は死ぬまで結婚できる』(講談社+α新書)など。連載「晩婚さんいらっしゃい!」により東洋経済オンラインアワード2019「ロングランヒット賞」を受賞。コラムやイベント情報が読める無料メルマガ配信ご希望の方は僕のホームページをご覧ください。(「ポスト中年の主張」から2017年3月に改題)

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