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気になるラノベ「誰が勇者を殺したか 預言の章」 深みのある“負け組”の物語

河村鳴紘サブカル専門ライター
「誰が勇者を殺したか 預言の章」のイラスト

 作品数100万を超える小説投稿サイト「小説家になろう」をはじめ、ネットには多くの小説があふれています。そこで実際に読んで、気になった小説を取り上げてみます。今回は駄犬(だけん)作、toi8さんイラストのライトノベル「誰が勇者を殺したか 預言の章」(角川スニーカー文庫)です。

 同作は、「なろう」で話題になり、「だれゆう」の愛称で知られる小説の続編です。前作を読んでない人は実にもったいないので、そちらをまずお読みになってください。今後、KADOKAWAが相当に力を入れてマルチメディア展開するであろう……と予想しています。

 さて前作(1巻)は、勇者と結婚させられそうになった王女が、帰らぬ人となった勇者について、調べていく内容でした。新作(2巻)は、勇者を選ぶ預言者が、“金の亡者”と言われる冒険者に興味を示していく内容です。仕立てが「対」のようになっているのも、よく考えられています。

 そして勇者と縁遠いダメそうな冒険者に、預言者がなぜ引かれるのか……というのが、解き明かされていきます。そして、最後まで読むと、事前にはった伏線が回収され、よく練られた話になっていることにニヤリとするはずです。このあたりも1巻と似ています。

 何より今回は、社会人の厳しさを知る人ほど、思わず共感してしまうような内容になっています。今のネット小説のトレンドは、主人公が最強の能力、スキル、知恵を持ち合わせて、ひたすらに活躍します。しかし「だれゆう」は、都合の良いものはありません。預言者の能力も無敵のように見えつつも、弱点を抱えています。そして、この世界の人物たちは、何かの傷、弱点があることも……。

 見方によっては、近年の「コスパ重視」「最強・チート系」などの流行への皮肉とも取れます。“勝ち組”視点の“ご都合主義”とは違う、“負け組”だから見える「もの」に、読者は共感できるのではないでしょうか。

 SNSでは2巻を読んだ人の反応もかなり良いようで、好評だった1巻よりも推す声もありました。今回で期待のハードルが挙がったのは確か。果たして次の3巻があるとすれば、誰を主役にするのか……。難度の高そうな話ですが、期待して待ちたいと思います。

(C)駄犬/KADOKAWA スニーカー文庫刊 イラスト:toi8

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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